プロローグ
人・馬車の行き通りは激しく、賑わいのある通り。建物は全て木造の物であるが、一つだけレンガ造りの建物がある。赤茶の壁は周囲の建物に、何故か違和感なく受け入れらている。その建物の扉の上に看板があり、『依頼所』と書かれている。その建物の前に、一人の中年がいた。くたびれた綿の服を着ているので、どこかの農民だろう。農民の男は、建物看板を確認すると、解放されている扉に入って行った。依頼所の中は小綺麗であり、男は昔一度だけ納税のために行った領主の家を思い出した。男は3つある窓口の内、一番右側『依頼受付』と書かれた方に向かった。
「すいません。あ、あの依頼をお願いしたいのですが」
「はい。こちらで受け付けています。依頼内容はこちらの項目から選択して下さい。詳細は、こちらに記入して下さい」
受付の女は、オドオドしている男の反応を待たず、サッサと受付に用紙を二枚出し、ペンを渡す。男は目を白黒させながら、出された用紙を確認する。
一枚は『大項目』と書かれている。採取・討伐・護衛・援護・探検等、幾つかの項目があり、その下には『該当項目を丸で囲んで下さい』とある。
男は討伐に丸で囲む。
二枚目には『詳細』とあり、その下に『詳しく書いて下さい』とあった。
男は『村の山に住んでいる怪物を倒して欲しい』と書いた。
男は書き終わると、受付の女に用紙を渡す。
「これで、大丈夫ですか?」
「はい、結構です。…それでは、依頼希望者を選んで下さい」
男の不安そうな顔を無視し、女は渡された用紙に目を通す。ザックリと確認すると、背後にある赤色の分厚い冊子を手に取り、受付に置く。
「え、選ぶんですか?」
男は戸惑いながら聞く。あらかじめ、村長から聞いていた話と微妙に違う気がする。
「はい。その冊子に依頼所の冒険者と依頼料金が書いてますから、お選び下さい」
女の態度はいい加減であったが、その態度に男は少し怯えた。男は冊子を手に取り、最初のページから開いてみる。ページの右上に『料金高い順』と書かれており、下にはズラーッと人の名前や、依頼料金、簡単なプロフィールが書いてある。どうやら、依頼料金の高い順に、並べてあるようだった。一番上の依頼料金を見る。
『10億シア』
男は自分が村長から渡された袋を見る。中には銅貨が30枚入っている。男はページの一番最後を開いて、上から順に見ていく。一番上は、1000シアだった。
安い。
男は喜んだが、プロフィールを見ると子供であった。しかも、コメント欄に『街の外には出ません』と書いてある。しかし、手持ちの3000シアなら、大人もいそうだと思ったのだろう。男は最後まで見ずに、少しページを戻り、一番上の金額が3000シアのページで指を止める。子供だった。『街の中は、俺の庭!』と書かれていた。男は暫く他のページ探したが、どうも、大人に頼むとなると1万シアは必要なようであった。男は村長が依頼所について得意げに話す顔を思い出して、舌打ちする。最後のページを開く。そこで気付いた。一番下に大人がいるのだ。依頼料金は『自由』とあり、年齢は20代。写真を見ると、髪がボサボサで街の住人の割には、汚いなーと男は思った。しかし、『自由』というのはなんだろうか?
「すいません。この『自由』というのは、なんでしょうか?」
男の方を見ずに、女は答える。
「そのままです。料金設定がそちらにあります」
男は思った。
どうせなら安く済む方がいい。ついでに、自分の懐を温めようと。
「この方に依頼をお願いしたいのですが」
女はチラリと目をやって確認すると、既に隠す気もないのだろう。怠そうに説明する。
「はぁ。そちらの方に関する注意事項をお伝えします。『生死責任は追わない』という事です。依頼者や、冒険者が死んでも、どちらの責任も問いません」
「なるほど」
男は注意事項が、村の都合に合っているなと、小躍りしたい気分である。
「依頼料金は、どうなさいますか?」
「え、えーっと、1000シアで」
男は安過ぎるかな、と思いもしたが言ってみる。
「はい。1000シアですね。依頼料金は最初に半分、依頼達成で半分です。500シア頂戴します」
男の提示金額に何も言わず、女は椅子から立ち上がると、男の腰にある袋を素早く奪い取り、中から銅貨5枚・500シアを出して、袋は男に突き返す。唖然とする男を余所に、女は暫く事務作業をすると、1枚の書類を受付に置いた。書類には『依頼受付書』とあり、男が先程記入した内容が綴られており、その下に依頼した冒険者の名前、依頼金額、受付嬢の名前がサインされていた。
「後日、そちらの村に同じ物を持った冒険者が行きますので、その時にそのちらの紙を、冒険者に渡して下さい。ありがとうございました」
女は「た」を言い切る前に、シャッターを下ろした。
女の早い説明に男は戸惑っていたが、受付のシャッターが降ろされたのを見届けると、諦めたように書類を手に取り、依頼所を出た。
街の大通りから、一つ外れた通りに教会は建っている。静かな空間を作るために、あえて、大通りから外れた場所に建てたため、人が寄って来ず、結局売りに出された。その際、教会を購入したのは、冒険者だった。元々、さる理由で買い手がつか無い、いわく付きの建物であったため、冒険者は格安で買えたのだ。それ以降、その冒険者はそこを根城にしている。庭を作るスペースは無いので、通りにそのまま扉がある。扉の横には、汚い字で『冒険者シロ』と書かれた表札らしきものがある。一階には教会らしく、長椅子が並べられており、中央には教壇らしきものがある。出来た当時はそれなりに綺麗だったのだろうが、今は埃を被っている。奥には屋根裏に向かう階段がある。人が住む事を考えていなかったらしく、一階が建物の大部分を占めており、屋根裏に小さな部屋があるだけだ。その屋根裏に、一人男がいた。部屋を上から見れば、三角形に見えるだろう。扉は底辺にあり、頂点に人一人がギリギリ入れるような小さな窓。左壁に沿うように簡素なぐちゃぐちゃのベット。中央には、一階にあった長椅子を半分にした物が置かれており、その対面に、もう半分が置かれている。引きちぎったかのように断面が荒い。右端には10程の服掛けが置いてあり、そこだけ別世界のように、綺麗に手入れされた服が並んでいた。
中央にある椅子の片方、窓側の椅子に男が座っている。その反対には、若干泣き顔の女が座っている。
「で、では、こちらが依頼書です。依頼場所は毎回ご自分で行かれるということなので、地図だけ添えておきます」
「はい。分かりました」
女の震え声とは逆に落ち着いた声で、男は答えた。しかし、女は泣き顔を辞めない。早く出たいというのが、傍目でも分かるぐらいで、男の返事を聞いた瞬間に立ち上がり、頭を下げて挨拶をする。
「で、では、失礼します!」
「あ、ちょっと」
男の制止を聞かずに、女は椅子の左側を回って、バラバラになった。
「うーむ。殺す予定は無かったのですが、仕方ないですね」
男は頭を掻く。その男の手には、ナイフが握られていた。ナイフから落ちた血が、男の顔に垂れて、男は『おや?』となり、自分の手にあるナイフをみる。女を見る。綺麗な切断面だ。もう一度、ナイフを見ると、男は頭から足まで、30に分かれた女を見ながら、『仕方ない』と頷く。男は渡された書類を眺めながら、椅子から立ち上がる。
男の頭が吹っ飛んだ。
男の右手には、最近街で流行の短銃が握られていた。