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 小道の一方は海、もう一方は松林だった。松林の間にたまに舗装されていない細道が通っていた。途中でなぜか山羊が草を食べていた。小道と防潮林の間の雑草の伸びた広場のような場所に、縄につながれた山羊がいた。彼女たちが近づくと短く鳴いて、再び草を食べはじめた。

「なんでこんなところに」

 古泉は率直な感想を口にした。

「たしか、この向こう側に小さい牧場があったはず」

 天水は松林の方を見て言った。古泉は山羊の頭に手を伸ばしたが、山羊は気にすることもなく食事を続けた。その様子を天水が写真に撮った。

「よくさわれるね」

「ヤギだから。これが虎とかだったらちょっとためらう」

「ちょっと?」

 ヤギに別れを告げて、まっすぐな小道を進んだ。小道は海とは反対側に曲がるため、二人は一段高い防波堤に沿った道にあがって鳥居を目指した。鳥居はまだ遠く、全然近づいていないように見えたが、距離は少しずつ縮まっていた。

 自転車を押しながら歩いて行くと、陸側の様子が変わっていった。木がまばらになり、砂利の多くなった地面には煉瓦でできた歩道がある。そのあたりから人の姿を見かけるようになった。

 この神社は海中に沈んだ岩を祀っている、と案内板に書いてあった。人が多かったので早々に引き返した。

 時間があったら行きたいと思っていた場所があった。そこは名前は知っているが天水も行ったことがないそうだ。鳥居のそばに周辺の観光図があり、行き方はすぐにわかった。自転車に乗って五分もしないうちに着いた。ガラガラの駐車場の隅に自転車を停めて、遊歩道を歩いた。

 少し急な階段だったが、あまり長くなかった。歩いているときほとんど会話はなかった。ここまで自転車で来て、天水も疲れたようだった。会話がないことが窮屈だとは思わなかった。

 階段が終わるとなだらかな山道となった。木々の間を抜けると、ひらけた場所に出た。正面には海が見える。日は見えないが、海と空の色で沈もうとしているのがわかった。

 天水には写真部に入らない理由があるはずだ。そう思って、古泉は今まで誘わなかった。言って、断られたら今の関係が変わってしまうような気がして、言えなかった。

 振り向いて、天水を見た。海から吹く風を背中に感じた。

 伝えようと思った。天水に写真部に入ってほしいと。答えがどちらだとしても友達でいつづけることに変わりはない。そう決めたら、自分の気持ちを言わないでいるのが嫌だった。

「天水」

 天水は海を見ていた目を古泉に向けた。

「私は、天水に写真部に入ってほしい」

 目が合った。天水は意外そうな表情だったが、ゆっくりと顔をほころばせて、

「うん」

 と短くこたえた。

 

 翌週の火曜日、写真部の部室の前で佇んでいる人がいた。

「用があるなら、どうぞ、入って」

 見知らぬ人が部室の前にたので、瑳内が声をかけて一緒に部室に入った。その人の手には入部届があり、氏名の欄に「天水志穂(しほ)」と書かれていた。

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