七
部室の中央の大きな机にはカメラといくつかのアルバムが置いてある。
「そいじゃ、古泉さん。次期部長がおもしろおかしく説明してくれるから、どうぞ座って」
そう言って瑳内は窓側の椅子に座った。古泉は鷹見に促されて、入り口に背を向けて机の前に座った。
「おもしろおかしくってのはともかく、他の人を待つのもなんだし、説明するね」
鷹見は古泉の右斜め前に座った。佐倉は鷹見の向かい側、ホワイトボードの前に立っている。その佐倉が、
「来るかもわからないしな」
「余計なこと言わない」
そんな部長と副部長のやりとりを気にせずに、鷹見は話し始めた。
「さっき部長に紹介されたけど、日文三年の鷹見です。よろしくね古泉さん」
「こちらこそよろしくお願いします」
「まず、活動日は基本的に火曜と土曜の週二回。大学祭前とかだと増えることもあるね。で、火曜は部室でミーティングみたいなことをして、土曜はどこかに出かけることが多いね」
「どんなところに行くんですか?」
「自転車か電車で日帰りできるところだね。たまに遠出もするけど」
「それが出かけたときに撮った写真です」
古泉から見て左側に立っている佐倉が、机の上のアルバムをさして言った。アルバムを開くと、古泉も知っている近場の観光地や町並みの写真が並べられていた。
「同じ所に何回か行ったりするけど、季節が違えばもちろん、一日の中でも昼間と夕方だと写り方が変わるからね。そういうことを意識すると、撮るのも見るのも結構楽しめるよ」
瑳内が手を伸ばしてアルバムを一冊取り、ページをめくっていった。あるページで手を止め、向きをかえて古泉に見やすいように置き、その中の二枚の写真を指し示した。二枚とも古泉がここに来る途中に早歩きで通った構内の坂の写真だが、一枚は誰もいない坂に明るい木漏れ日が差していて、もう一枚は薄暗い中を多くの学生が坂を歩いている。
「これは対照的に見えるように撮ったから極端だけど、同じ場所からでもこんなに印象の違う写真が撮れるんだ。こうやって見ると面白いでしょ」
古泉は二枚の写真を見つめた。
写真部のイメージといえば、コンテストのために技巧を凝らし時間をかけて写真を撮るというものだった。しかし、この写真部はそうではないらしい。
「技術は、必要ありませんか?」
「いや、いるよ」
瑳内のその言葉は古泉には意外だった。瑳内は続けて、
「思ったように撮るには技術や経験が必要だよ。全部カメラ任せにすると表現の幅が狭くなっていくからね。でも、だからって技術ばかり意識することもないよ。どう写したいかってことを考えながら写真を撮ると、技術は自然に身につくから」
撮りたいものを好きなように撮っていい、そこに妥協がなければいい。古泉はそう受けとった。入部しようと決めた。
「たぶんね」
と、間を置いて付け加えた。瑳内は少しうつむいて恥ずかしがっているようだった。それを見る二人の目はやさしかった。




