四
約束をしたわけではないが、履修登録に行くと天水に会った。二人で相談しながら登録をした。後で修正できるので、必修と資格に必要な科目以外はあまり考えないで選んだ。天水は何度も確認して、やっと安心したようだった。
正午前に終わって、自転車置き場に向かう途中で天水は昨日と同じことを聞いた。
「うん。予定なし」
と古泉は答えた。
「よし、じゃあ町を案内しよう」
「どこに行く?」
「とりあえずお昼にしようか。古泉は自転車?」
「うん」
「あっちの方って、行ったことある?」
天水は古泉の家と逆方向を指さして言った。
「昔行ったけど、あまり覚えてない」
学校の正門を出て左に進むとゆるい上り坂になる。すぐに信号があり、そこにも大学の入り口がある。日本家屋の門のようで、屋根には二つのしゃちほこが乗っている。とても学校の門には見えない。この先に寺があったほうがしっくりくるだろう。
「そういえば一人暮らしって言ってたよね。家はどこ? 下宿?」
信号待ちの時に天水が尋ねた。
「いや、アパート」
古泉は町名を言った。信号が変わり、自転車を縦に並べて走る。ここから下り坂だ。
「おお、家の近くだ。番地は?」
道路を跨ぐように設置された大きな鳥居の下を通って坂道を下る。風を切って走りながら話しているので声が大きくなった。古泉は番地を言った。
「家は県道の反対側。今度遊びにおいでよ。猫いるから」
「行く。絶対」
今までより大きい声で即答した。
この道は両側に石灯籠が並び、歩道が赤煉瓦でできている。それらは何キロも続いていて、有名な神社へと至る。二人は神社までは行かずに、小さな堀を渡って横道に入った。
長屋のような建物の壁に沿って自転車が並べられていた。そこに自転車を停めて歩きはじめた。
「神社でも門前町って言うっけ?」
と古泉が聞いた。
「確かそうだったと思うよ。門無いのにね」
「神仏分離以前はあるところもあったんじゃない?」
「なるほど」
神社の近くには観光地にふさわしい、木造の建物が並ぶ通りがあった。多くは店になっていて、お土産や食事処や射的など種類は様々だった。平日なのに多くの人で賑わっていた。
「食べ歩くのとお店に入るの、どっちがいい?」
「一通り見よう」
「おっけー。じゃあ、境内の方に行こうか」
古泉は頷いて、通りにカメラを向けた。天水の首からはカメラはさがっていなかった。
石畳の道が終わるところに土産物屋が何軒かあった。牛串は高かったので、隣で売っていた冷やしキュウリというものを買った。
来た道を戻りながら、古泉は町並みや葉桜を撮った。天水はそれを見ていただけだった。二人は川の見える喫茶店に入った。この神社には手水舎はなく、代わりにこの川の水で洗う。そのため、川の水は澄んでいて美しい。
天水は紅茶を、古泉はコーヒーを注文した。
「古泉は、いつもカメラを持ち歩いているの?」
「雨じゃなければ」
飲み物が運ばれてきた。古泉はそのままコーヒーを飲んだ。
「何も入れないの?」
「いや、一口飲んでから決める」
砂糖を少量入れて、もう一口飲んだ。入れすぎたかな、と古泉は思った。