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 文芸部の冊子を読んでいると話しかけられた。

「こんにちは。よければ感想を書いてください」

「えっと、すみません」

 読むことに集中してはいなかったのですぐに答えることができた。表紙や挿絵などの絵も文芸部の人が描いたのだろうか、ということを考えていた。古泉は冊子を閉じて、元の場所に置いた。体育館の中央の発表はBGMのように聞いていた。

 感想を表すのは苦手だった。感想とはあくまで自分個人の読み方だとわかってはいるのだが、それが人と異なることが怖かった。自分の考えに自信が持てず、誰かと意見が異なると自分の意見を取り下げる。いつも、そうしてきた。

 軽く頭を下げて文芸部のブースを離れた。発表を見ている人も多いが、周りのブースに寄っていく人も絶えることはない。

 そんな中、明らかに人のいない所があった。そこは写真部のブースで、衝立に厚紙が貼ってありその上に写真が並べられていた。ただ横に並べただけの工夫のない並べ方だと思った。しかし、古泉は惹きつけられた。写真の並びにではなく、その中心にある彼岸花の写真に目を奪われた。

 あらためて全体を見ると、工夫がないと思っていた写真の並びが、中心の彼岸花の写真を引き立てるように並べられていると感じた。

 衝立の隣に机と椅子が置かれていて、座っている女性が本を読んでいた。しばらく写真を見ていた古泉に気付いていないのか、気にしていないのか本から顔をあげなかった。一見して、やる気がなさそうだった。

 その机の上に重ねられていた紙を一枚手に取った。写真部の説明と末尾に「興味がある人は名簿に名前とメールアドレスを書いてください」とあった。その名簿が見当たらない。

「あの、写真部の方ですか?」

 古泉は意を決して女性に話しかけた。女性は開いたページを下にして本を置いた。

「そうだよ。どうしたの」

 口調がくだけているので、少し気が楽になった。

「ここにある、名簿はどこに」

「あー、それね。はい、これ」

 女性は机の中から紙をとりだして差し出した。机に置かれていたボールペンで必要事項を記入した。再び話しかけるのは迷ったが、聞きたいことがあった。

「ここにある写真は、全部写真部の人が撮ったものですか?」

 女性はまた読み始めようとした本を閉じた。少しだけ表情をゆるめた気がした。

「気に入った写真があった?」

「はい。真ん中の、彼岸花の写真です」

 彼女は微笑んだ。というより、企みが成功したような無邪気な笑顔だった。

「じゃあ、成功というわけだ」

「何がですか」

「その写真が一番人気で、ああ、部内での話だけど。それが目立つように並べたんだ」

 彼岸花は群生しているイメージがあった。しかし、その写真には、一輪の彼岸花が背景の赤色と離れてぽつんと咲いていた。場違いのような寂しさと、それに負けない力強さがあった。

「なるほど」

 一番人気があったというのもうなずける。

「気に入ってもらえたようで何より」

 そう言った彼女は嬉しそうに笑っていた。

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