二
入学式の翌日、大学の講堂で履修方法の説明があり、その後指定された教室に向かった。講堂で隣になった人とは途中で別れ、別の教室に入った。
部屋にはすでに十人ほどの人がいて、長机と椅子を移動させていた。古泉が手伝おうと椅子に手を伸ばすと、同時に椅子をつかんだ人がいた。顔をあげると、見覚えのある人だった。
「あ、ミラーレスの人」
彼女は古泉を見てそう言った。昨日猫を追っていた女の子だった。ジャージがスーツになったので印象は変わったが、それでも年下に見える。机と椅子を移動させてから互いに自己紹介をした。
「後頭部は?」
「あはは、もう大丈夫。よくあることだし」
「そう、それはよかった」
「古泉さんも昨日は猫の写真撮ってたの?」
「いや、散歩。それと『さん』はいらない。私も天水って呼ぶから」
「うん。わかった」
二人が話していると、教授が教室に入ってきて話し始めた。全員が自己紹介を終えると弁当が配られた。それぞれ近くの人と話しながら昼食をとった。半ばわかっていたことだが、天水の趣味は写真撮影だそうだ。
昼食を終えたところで、教授が明日の予定について説明した。明日はパソコンで履修科目を入力するだけらしい。「なるべく空いている時間に来ることを勧めます」と教授は言ったが、何時頃かは言わなかった。
「古泉、この後ヒマ?」
教授の話が終わり、解散となった時に天水が尋ねた。
「サークル紹介に行く。天水は?」
「そっか、私は用事があるから帰るね」
午後から体育館で部活動・サークル紹介がある。これは自由参加で、開始時間以外のことはよくわからない。配られた紙には場所と時間とイラストがかかれているだけだった。イラストは一種類だけではないようで、古泉がもらった紙には『漫画研究会』、天水のもらった紙には『美術部』と書いてあった。こんな所でも熾烈な争いが繰り広げられているのだろうか。
途中までの道は同じなので、天水とは自転車置き場の近くまで一緒に行って、そこで別れた。取り壊しが予定されている古い校舎を横目に歩き、体育館に着いた。
靴を脱いで、配られたビニール袋に入れた。案内に従って進むと、中には多くの人がいた。壁際には一辺をのぞいて、それぞれの部やサークルの展示が並んでいた。それらに囲まれた中央には音響の機材などの準備をしていた。その様子を眺めていたら、横から話しかけられた。
「やあ、奇遇。でもないか。古泉さんは目当てはある?」
「古泉でいい。写真部と文芸部かな。名雲は?」
「全く決めてない。つまらなかったらやめるし。とりあえず、全部見てから決めるよ」
「そういうものか」
「そんなもんだよ」
名雲は講堂で古泉と隣になった女性だ。不安だったが聞く相手もいなかった古泉に話しかけてきて、知り合った。
午前中の教室での集まりのことを話していると、スピーカーから音声が聞こえ始めた。見ると、体育館の中央辺りに二十人ほどの人が整然と並んでいて、その前には何十人かの人が雑然と座って対面している。
「これより、ダンスサークルによる発表を行います」
司会の声の後に、音楽が流れ始めた。