8.城塞探索
「ごちそうさまでした」
魚を食べ終わって片づけた後、いよいよ城塞探索を開始する。
小太刀とペットボトル、ヘッドランプを装備。
4匹を従えて、まずは扉前のテント設営部屋から探索する。
(はいそうなんですよー昨日はこの部屋すらちゃんと見てなかったんですよー
だってすぐ日が暮れちゃったし。
それどころじゃなかったし)
心の中で言い訳をしつつ物色。
この部屋はけっこう広い。
大広間とか、そんな感じの部屋だ。
でも窓は小さいものが数か所しかないので、穴がなければまっくらだろう。
ひょっとしたら通気性がいいのも、この穴のおかげかもしれない。
石造りの城塞は湿気ぱねえという話だし。
壁の穴は2階部分のない天井から私の腰くらいまでごっそり削り取られていた。
四角い部屋の上部すみっこがまるっとない感じだ。
(壁の厚みは3メートルはあるよね、これ?
一体どうしてこんなに吹っ飛んでるの?)
壁は所々焼け焦げていた。
昨日見つけた木の棚も、こうして日の光の下で見ると半分以上焼け落ちている。
「…やはり魔法かドラゴンが……!」
『お母さま、人間のことは分からないので魔法はあるかもしれません。
でもドラゴンはいないと思いますわ、気配がありませんから』
「むー」
「………」
「………」
「………」
「ステータス!」
「ファイヤー!」
「アイスウォール!」
「ウインドカッター!」
「…………」
『お、お母さま?』
「それ以上聞かないでくださいやってみたかったんです、やっぱり一度やってみたかったんです」
それ以外には何も見つけられなかったので、移動する。
細い通路をのぞいてみるとほぼまっくら。
仕方がないのでヘッドランプを付ける。
入っていくと、正面に次の部屋への入口が、右側には下る階段があった。
地下室きたああと思ったはほんの一瞬で、階段は4、5段下ったところで行き止まりになっていた。
(???何のための階段??)
もしや隠し通路きたああと期待しながら壁を調べてみたが、びくともしやがらなかった。
もうさっさとあきらめる。
サバイバルで時間は貴重なのだ。
次の部屋はテント部屋よりもやや小さい部屋だった。
「あ!!」
部屋の中央に囲炉裏風なものがあった。
その上には太い煙突っぽいものがついている。
それよりもそれよりも。
「なべえええええええ!」
『母上の世界にもこれと同じような道具があるのですか?』
「あるよ!
助かった!私を待っていてくれたんだね鍋、会いたかったよ鍋!」
『ホクたちも母様を待ってたの!
会いたかったの!』
「うんうんそうだねえ、ありがとねえ」
ホクちゃんには悪いがややスルー気味にして鍋底の調査を続行。
一見、穴も見つからないし充分使えそうだ。
コッヘルはあるけど、やっぱり重さ重視で小さいのだ。
「これは……なに??」
ひとしきり鍋を調べ終わった後、その隣に転がっていた木の棒をとりだして私は首を傾げた。
『母上、それなら私にも分かります。
鍋の中に入れてかきまぜる道具ですよ』
「かきまぜる……ああ、フォークか!」
でかいし先が3つじゃなくて2つに分かれてるので気が付かなかった。
確かにフォークだ。
「となるといよいよヨーロッパ中世前期か」
『それは母上の世界のことですか?
母上は歴史にも詳しくていらっしゃるのですね』
「いやそうでもない。
いわゆる歴女ってやつなんだろうけど…かなり偏ってるし」
引きつった笑いを浮かべながら部屋の中をもう少し探してみる。
すると部屋の隅から小さな石臼を発見した。
回すタイプではなく、棒でごりごり砕くタイプのものである。
後は焼け焦げたテーブルらしき物、木製の食器だったらしき物の残骸しかなかった。
やばい。
(当てがはずれている。……城塞に比べて文化水準が低いっぽい)
こんな城塞の中身がこの程度なのだから、一般庶民はおして知るべしである。
(いやいやいや!まだ分からないよ。
この城塞が長年ほったらかしにされてただけという可能性も
……ないかなあ、経数劣化してる感じじゃないもんなあ)
おそれおののきながら部屋を出ると、次は塔に入った。
さっきまでと比べてずい分狭い。
「あ!糸車と機織り機じゃん!」
ごくごく簡単な仕組みの糸車と水平織機り機を見つけた。
足踏みペダルはないし所々焦げているけど、部品を取り換えれば使えそうだ。
糸は残念だか燃えてしまったのだろう、見つからなかった。
(時間はめっさかかるけど、これで着替え問題はなんとかなりそう。
園芸用品の中にアブラント綿の種があってよかった~
今が春だとするとちょうど薪き時だから、秋には収穫できる!)
その部屋ではこれ以上のものを見つけることができなかったので、部屋の脇から伸びている階段から塔の2階へ上がっていった。
塔の2階に登ってみると、こちらは全部石でできているというわけではなかった。
石はごく一部で後は木である。
そのためこちらは最初の部屋とちがって、穴というよりは燃え落ちたといった感じだ。
でも中に入ってみると、外から見た様子とちがって大分建物内部は残っている。
ここは充分明るかったので、ヘッドランプを消して物色を開始した。
「おおお―――!!」
かなり燃え残っている木の棚から麻袋を発見。
中から大量のひよこ豆が出現した。
「見た感じこのまま充分食べられそうだし、植えて増やせそうだよ!」
『なんかよく分からないけどよかったな、母ちゃん!』
「このひよこ豆が入ったカレーは壮絶に美味だぞっ!」
『ええええええほんとか母ちゃんそれ食べたいすぐ食べたい』
「…あーその……実はカレーは昨日で全部食べちゃったから…」
『『え……』』
「は、半年待って!
カレー用の基本的なスパイスの種は持ってるから!
今から植えれば半年後にはまたカレーが食べられるよ!!」
『『わあああい』』
絶望感を漂わせていた4匹は、私の説明を聞くとその場で何度も飛び跳ね、よろこびのダンスを踊った。
なにこの萌え萌え空間。