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7.言わないで

翌朝、日の出と共に目を覚ます。


前日はやっぱり疲れていたのか、精神的ショックが大きかったからか。

温泉から戻ってすぐに園芸用品から引っ張り出した重曹でタオルと下着、靴下を洗濯。

つるしたロープに干すともはや話しをする気力もなくなって、寝袋にもぐりこむ。

コンマ数秒でコトン、と眠りの世界にまっさかさま。


そしてこの状況でありえん、異世界なめとんのかというくらいに爆睡。

不眠症の人ごめんなさい。

実にさわやかにすっきりと朝の目覚めを迎えた。


もぞもぞとテントから這いだすと、4匹がテントの前で丸まっていた。


(ぐおおおっ毛玉だっ毛玉が落ちてるっ。

ホクちゃんにおいてはもはやスーパーボールにしか見えんっ。

あんたたち、わたしを萌え殺す気かあああ)


「……そして寒い」


もぞもぞとテントに引き返し、マキシワンピースの上から長袖シャツとレインウェアの上着を着ることにした。


(後は長袖シャツが2枚と昨日の半袖シャツ。

ショートパンツ一枚とタンクトップが2枚、下着が2組、靴下2足、タイツ2枚。

フリースとダウンジャケット。ネックウォーマーと帽子、手袋…

まさか1年とか10年とか言わないよね?

うう、タンスを、タンスをお願いしておくんだったっ)


「はっ」


悲しみにくれながら上着に袖を通そうとしたところ思わぬことに気が付いた。


(お肌がもちもちすべすべ!

これはもしや温泉パワー!)


化粧水と乳液いらねえ、らっきー、持ってるけど!

浮上した気分と共に再びテントから出ると、4匹がもそもそと体を起こした。


『母上、おはようございます』


『おはようございます』


『おはよー!』


『おはようなの―!』


「おはよー」


くうう、和む。和むよ。

人はアニマルと温泉があれば生きていけると思うよ!


 *  *  *


外に出ると湖の向こうの山肌から、今まさに太陽が顔を出そうとしている所だった。

登山道具に含まれていた腕時計は午前7時43分。

微妙。


「えー北があっちだから」


方位磁石の0度を太陽に合わせる。

地球じゃないけどもういいやーと針の角度を15度でわって、ざっと5時ちょっと過ぎ頃であろう見当をつけ、時計を合わせる。


「よし、これで完了。

じゃ、4匹さんたち、ちょっと私は…」


『え?どこ行くの、母様?

ホクもいっしょに行くのー』


『おいらもおいらも』


「うん、君たち空気読もうね。

アニマルに空気読めって言ってる自分につっこみたいけど空気読もうね」


『ええ、なんでだよー空気なんて読めないよ。

字なんか書いてないよー』


『あ、ほら、サイもホクも。

お母さまはお花をつみにいらっしゃるんですわ。

昨日教えて頂いた通り、ついていったりしちゃいけませんわ』


『あ、おしっこか。うんち?

分かったよ、母ちゃん!』


『母様おしっこなの?うんちなの?分かったの―』


(言わないでっ。

お花つみって教えたのに意味ねえ言わないでええっ)


お察しの通り、昨晩もこんなやりとりがあったのだった。

仕方ないじゃないか、だって人間だもの、生きているんだもの。

4匹に必死に説明して、生い茂る草むらに突入。

悲しみにくれながらその場にしゃがんだのでした。


(着替えと食料も大事だけどトイレ。

トイレマジなんとかしないと死ぬ。心が死ぬ。

水洗とかぜいたく言わない、せめてトイレの体裁を神様ー)


とりあえず掘った小さな穴をスコップで埋めて。

ティッシュをごみ用ビニール袋に入れて、とぼとぼと戻る。

哀しい。


(前言撤回。

人はトイレがないと生きていけないと思います、トイレは大事です)


戻ってトウ君に聞いてみると、湖の水は飲料水には適さないけれど、かなり良質な水らしい。

顔は湖の水で洗って(ばしゃばしゃするだけだけど)歯磨き用の水はトウ君に出してもらった。

水だけで磨ける歯ブラシなので、歯磨き粉はいらない。

しゃこしゃこしてるとトウ君が聞いてきた。


『母上、朝食は召し上がりますか?

そこの魚はどうでしょう?』


「いいね。

でも釣り道具とか持ってないし…」


言い終わらないうちにバシャバシャと魚が飛んできました。


「ふおおおおおおお!?」


『とりあえず30匹ほどとってみました。

向こうにはもっと大きな魚がいるようですので、いますぐに』


「いえ充分です30匹でも多すぎますありがたいけどいいのかこれええええ!?」


あわてて20匹ほどを湖に戻してもらい、

(もう遅いかもだけど一応。お魚さん、生き抜くんだよ)

昨日のかまどとナンさんの火で食してみたら、たいへん美味だった。


  

(うーむ、食糧問題解決?

魚さえ食べられればなんとか生き抜くことができそう?)



むしろお魚大好き、ばっちこい。

だって日本人ですもの。



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