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22・鉄とガラスとトイレ(真)

城塞リフォームと同時進行で鉄とガラス製品の制作に取りかかる。


1代目の耐火煉瓦を作った時点で気が付いたのだが、火山は近いし石英もあるし、探せばもっとちゃんとした高純度の珪石が見つかるんじゃないかと思い至ったのだ。

珪石質煉瓦ならなんとかコークス炉も作れそうだ。

コークスないから木炭でいくけど。

1代目の耐火煉瓦がそこそこの耐火性を持っていたのでそれを思いついたのだ。

場当たり的に作った煉瓦だったのにラッキーである。


(珪石があれば鋳物の型もできる。

炉の方は、とりあえず木炭高炉かな……水車作ってふいご作って。

水車とふいごはガラス制作にも使えるし、小麦やもろこしの加工にも使えるし。

そんでもって、るつぼ製鋼法でいってみよう。

やっぱり鋼鉄ほしいもんね。

耐火煉瓦は本当はアルミニウムで作るといいんだろうけどなー

知らん、ボーキサイトなんかないから作れん。

珪石質煉瓦でなんとかやってみるしかない。

いいや、どうせひとり分だし、大量生産したいわけじゃないし。

徹夜でがーっと作ってがーっと使い切る。

うん、一回の使用で使えなくなってもそれならよし!)


というわけで使い切り木炭高炉を作ることにした。

まず珪石を探してみる。

これは見込み通り、海岸の粘土質地帯からやや火山寄りの地層で見つけ出すことができた。

というか地中深くに埋まっていたが、ホクちゃんのおかげで瞬時にして発見、アニマルパワーでさくっと大量採取に成功した。

いつものことです。


この珪石で煉瓦を作る間、ミニチュア水車の模型を作って実地実験をしてみる。

城塞近くの滝に置いてみて微調整。

これなら、という所まで調整して実物大の水車を作る。

同時に木とあまっていたイノシシの皮でふいごを作る。

まあまあ使えそうなものが出来上がった。


この頃になると2代目耐火煉瓦が出来上がったので高炉作りに取りかかる。

アニマルパワーがあるおかげで調子にのってしまい、思いのほかでかい高炉になってしまった。

3メートルくらいはあるんじゃないだろうか。

15世紀頃のヨーロッパの高炉は4~5メートルだったらしいから、それよりは小さいけど。

おかしい。もっとちまい高炉にするはずだったのに……

でもまあ必要分を一気にまとめて作っちまえと開き直る。


そして満を持して点火。

燃やす、とにかく燃やす。

がんがん燃やす。

試行錯誤を繰り返したおかげか、水車とふいごがかなりよく動いてくれて、ほぼ予定通りの高温となった。

続いてあらかじめ高炉のすぐ隣に作っておいたるつぼ炉と鋳物型、金床に移動。

DIY用品の金槌、鉄ばさみを駆使して鉄製品を作りまくった。


『母様、次の鉄なの、熱いの、気を付けてなのー』


「よしきたあちいいいいいいッッここにいるだけで数キロは痩せそうだよ灼熱地獄かこんちくしょうッッ」


『母ちゃん、次だぜ、熱いぜ、気をつけろだぜ』


「よしきたあちいいいいいッッ!これは鋳物用だな!?次ッ次をはやくッッ」


『ほいきた次だぜー』  


わんこそばの如く溶解した銑鉄、錬鉄、鋼をあっちゃこっちゃに流し回し、ちぎっては叩きちぎっては叩き。

とにかく全ての鉄を加工しまくった。


包丁、箸、火かき棒、なべ、フライパン、瓶、ナイフ、フォーク、スプーン、オーブン扉、扉取っ手、蝶番、窓枠、オイルランプ土台、撹拌スクリュー、スクリュー他部品、蒸留器部品、農具部品。

他のこぎり、ハンマー大小、カッター状の刃、ノミ、鉈、斧、ペンチ、はさみ、釘をできるだけ大量に。

ついでにお遊びで刀もどき数本と忍者のくないっぽい短刀も数本。


のこぎりや包丁、はさみ、刀などの刃の部分は時間を見つけて加工していく予定。

失敗すること前提なのでできるだけたくさん作った。


3日3晩徹夜しまくり。


燃え尽きた。


『母様ああああああああああああ』


「灰だよ……まっしろな灰になってしまったよ……」


冗談はさておき、ごはんをがーっと食べ、それから13時間寝まくった。

そしてすっきり復活。

復活はしたが、もうこんなん2度とごめんである。

本職の人たちはマジすごいと思います。

いや、わたしが暴走しちゃっただけなんだけど。


復活後に高炉を見てみたら


「あ、やっぱり」


見るも無残な有様と成り果てていた。

途中で予定していたよりも遥かに大量の鉄を熔解してしまったので、あわてて火を止めちゃったのである。

当たり前である。高炉の火は一回おこしたら数十年は止めずにおいておくものなのだ。

小太刀の師匠や小太刀のメンテでお世話になっている鍛冶職人のおっちゃんに知れたら、大雷が落ちそうなことをしてしまった。

ゴメンナサイ。誰もいないから口だけであやまっておく。後は忘れる。


逆に耐火煉瓦は思いのほか耐えてくれた。

思ったよりもずっとひび割れ部分が少なかったのだ。

まあ高炉は当分使う予定がないのでさくっと解体。

廃材は後日のために一応城塞裏に積みあげ、他の使えそうな部品はそのままガラス溶解炉に転用する。


「さてお次はガラス制作だぜ!」


『お母さま、今度はあまりご無理なさらないで……』


「しません、もう懲りた。徹夜はしません」


ガラスは時間があるときにこつこつと作っていくことにする。

今回は炉の火も絶やさないようにアニマルたちと交代制で調整していくことにして、制作開始。


炉は水車ふいごと合体させ、今までの経験もあってさくっと作成完了。

珪砂、ソーダ灰、石灰を大量に集めてまぜまぜ。

ここで意を決して苛性ソーダを作って少量加えることにする。

これを加えることでガラスが溶けやすくなるのだ。

あまり加えるとガラスが弱くなるので本当にちょびっと。


しかし苛性ソーダは劇薬。

チキンな私は農薬散布用のメガネにマスク、ゴム手袋という怪しさを通り越した完全防備でこわごわ作成に取りかかった。

あまった分で椿オイル、ヘーゼルナッツオイルと合わせて固形石鹸も作ってみた。


「あああ、あこがれの手作り石鹸完成!

じょじょじょ、蒸留器で抽出したラベンダーのアああああアロマエキスでさらにいい感じになななたよ」


『お母さま!声が上ずってますわ、お気をたしかにッ!』


今回、鉄パイプはてっとり早く園芸用品からビニールハウス用の鉄パイプを流用。

ためしにいくつかグラスやランプシェードを作ってみる。

やはり以前、いとこに連れられてガラス教室に通ったことがあったのだ。

最初の方は思い出しながらだったので、ぐにゃぐにゃの謎の物体状態と化した。

だが気にしない。使えそうなものは花瓶にでもする。

そしてもうどうしようもないのは


「こんなものはわしの作品ではないッッ」


『ああっ!!』


ぱりーんと割ってみた。

一度やってみたかったのだ。

割ったガラスは粉々にしてちゃんとリサイクルする。


そんな感じで遊びながら練習してたら、何日目かにはちゃんと「グラスです」と言っても通用しそうな程度のものができた。

そしてここからが本番。

板ガラス作成に取りかかる。


作成法は19世紀イギリスで確立された円筒法を使うことにする。

蒸気で吹く方法もあるが、今回は人力でやってみる。

そんなに大きなガラス板は必要としていなかったし、ぶっちゃけ自分で吹いてみたかったのだ。

以前のガラス教室ではうまくいかなかったのでリベンジである。


「………っっは――っは――っは―――………」


『母上ッッッ息をッ息をしてくださいッッ!

母上―――――ッッ!!』


最初の一日目は失敗した。

しかしめげずにこつこつ練習し続けていたら、数週間後にはなんとかある程度大きさをそろえて円筒形に吹くことができるようになった。


『母上!お見事……お見事です!』


「くうっ……!あなたたちもよくぞ!よくぞ今まで温かくわたしを見守ってくれたね……!」


『母上……ッッ!』


などと茶番を繰り広げながら円筒形のガラスをDIY用具の大型カッターで切り、あらかじめ作っておいた延べ棒でせっせとのばしていく。

のばし終わったら縦30センチ、横20センチにガラスカッターでカットしていき、サイズを合わせていく。

そんな感じでガラス板を量産していった。


やや厚め、ガラス表面にはゆがみがあるし、所々気泡もあるけど気にしない。

この世界の今の生活水準ではこれでも壮絶にオーバーテクノロジーのはずである。


この量産したガラス板はすべて窓として使用した。


城塞の1階部分は多少心もとなかったので鉄の窓枠を使用、ガラス板を縦に2枚重ねる。

下部は上にスライドさせて留め金でとめておけるようにした。

やや小さ目の窓だが、1階全体で20か所程度取りつけたら相当明るくなった。

満足である。


トイレ(仮)は畑から近いのでそのまま残すことにして、渡り廊下に3か所、トイレ内部にも1カ所、1階部分と同じ窓を取り付けた。

トイレ(仮)のすぐ脇には屋外から出入りできるドアを新たに設置した。


2階部分はもう少し大きく、縦3枚、横2枚の両開き窓にした。

窓枠は木枠である。


以上、窓を取りつけたら相当快適、おしゃれ空間となった。

大変満足である。


そしてついに。

ついにこの時がやってきた。


そう!

トイレ(真)の設置である!!


ああ長かった。長かったなあ。

などと遠い目になってしまうのは許して頂きたい。

今までの道程の全てはこのためにあったといっても過言ではない。

……いや過言かもしれないけど。

それほどこのトイレ(真)の設置はわたし的にがんばったのだと認めて頂きたい。


このトイレ(真)は大広間のすぐ脇にとりつけた。

だいたいの構造はトイレ(仮)といっしょである。

だがしかし!最大の違いは下部槽部分にあると言えよう。

土台から漕まで全てモルタル、この日のために何日も前から準備して待機させておいたものである。

通気口は数か所に設置して、先に制作した鉄製スクリューと取っ手を取り付ける。

スクリューはらせん状で、おがくずがからまないように中途で分離させてあるのがミソだ。

これを外部から回せるよう、取っ手を取り付ける。外部から交換できるように漕の横には扉もついている。

メンテ必須だが、なにしろ使用者はわたし一人なのでこれで十分だろう。

今度は最初からガラス窓もついているし、言うことなしである。


(これでわたしのトイレ事情は無事解決しました。

神さまありがとうう)


設置完了後、わたしが便座に座りひとりきり、再び感涙にむせんだことは言うまでもない。



  *    *    *



ここまでくると、この城塞でのわたしの文化生活設立奮闘についてはほぼ語ることはなくなる。


あとは付けたしとして、やっぱり氷室をつくって食物(主に芋とモロコシ)を貯蔵したこと、氷を作って台所に冷蔵庫もどきを作ったこと。

鉄製の土台と綿の芯、ガラスのシェードでオイルランプを複数作ったこと。

ミョウバンでドーサ液を作りにじまない和紙を作ったこと。

木炭と木で鉛筆もどきを作ったこと。

予定外でイノシシがもう一匹捕獲できてしまったこと。

それでイノシシの毛皮のコート、イノシシの燻製肉を作ったこと。


――――くらいであろうか。

細かいちまちまとしたことばかりだし、大抵は園芸とDIY関係である。


それでもわたしはこの頃になると大変満足していた。

元々、老後はどこかのド田舎で自給自足のスローライフを送ってみたいなあというのが夢だったのだ。

今の状態はまさにその夢が叶っちゃった状態。

毎日の生活が趣味の濃縮状態である。

アニマルたちがいるから、ちいとも寂しくないし。

ぶっちゃけ生活水準は当初目指していた枠を突破してしまっており、元いた世界の生活よりも悠々自適なくらいである。仕事上でのストレスないし、お金の心配ないし、ひゃっはーだ。

満足である。

ひじょ―――に満足である。

もう一生このままでいいかもしんない。

いやむしろ一生このままでいさせて。もうこのままここに骨をうずめる勢いでいっちゃいたい位です、お願い神様。


などと思っていた時期がわたしにもありました、ええ。

そうです、忘れていたんです。

「と、いうわけでの人」は言っていたんだ―――――

いや、言っていやがったんだ。


一定期間、と。



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