19.食料事情2と衣服事情
ちなみに芋ともろこし以外に大量に収穫できた作物がある。
綿。
大豆。
この二つだ。
大豆はいくらか枝豆としておいしく食したので、やや量が落ちる。
それでもかなりの量である。
ただ芋ともろこしに比べ、こちらはいくらあっても足りない位なのだ。
だから何回かに分けてまくつもりだった種をほとんど全部まいてしまった。
無謀である。
今なら分かる。
でもしょうがないのだ、その時の私は追い詰められていたのだ。
私は肉はあまり食べない人なので豆は貴重なたんぱく源なのである。
そして豆腐はカレーに続く大好物なのだ。
(豆腐なしで生きていく自信なんてないッッ)
綿は布団と服を作るのにたくさんほしかった。
種まきの頃はまだミニ氷河期を警戒していたので、防寒対策はいくらあってもいいと思っていたのだ。
そのため、この後ちょっと暴走気味になる。
(今までも暴走気味だったとは思うが)
でも凍死を免れるには他に手段なんて選んでいられない。
大量の大豆で豆乳、おからを作った。
非常に美味だった。
やはり元の世界の土よりもいい土らしく、作物の味がいちいち絶品である。
乾燥させたおからは堆肥床の足しにもなるし。
当然その後、豆腐も作った。
岩塩を砕き、てるてる坊主状に包んでつるし、地道に集めたにがりでこさえた豆腐である。
やはり絶品なので最初の頃は調子こいて毎日作ったりしていた。
ちょっと疲れた。
昔ながらの町のお豆腐やさんは偉大だと思う。
綿からは服と掛け布団を作った。
「~機織り、花ぞめ~手作りの布製品」という本を片手に綿くり機を製作。
やはりずーっと前に通ったことのある機織り教室で教わったことを必死に思い出し、糸車と機織り機に足ふみペダルを設置。
紡いでみたらフライヤーとホビンがないことに気がついて、何度か失敗しながら作成。
出来上がったらかなり効率よく均一な糸を紡げるようになった。
が。
ここで再びアニマルパワー炸裂、糸つむぎの細かい作業まで手伝ってくれたので、驚くべき短期間で予定量を紡ぐことに成功。
(便利って言うか器用。精霊さんたちやっぱりぱねえっす)
機織り機で布を織り、それで下着、キャミソール、マキシワンピ、シュミーズ、チュニックなどを作った。
あえて荒目に織りあげ、ふるい用の布も作る。
木でボタンを作ってみたりもした。
シュミーズ、チュニックは型紙が取れたから作ったのだが、ちょっと着てみたいなーというミーハーな気持ちがあったことは否めない。
だってコスプレちっくで楽しそう。
この布は椿の花とミョウバン水で染めてみたりもした。
ちょっと濃いピンクに染まって満足。かわいいと思う。
そして残りの布と綿は全て布団につぎ込んだ。
ちゃんとした綿布団の出来上がりである。
重いけど。
ただやっぱり枕や敷布団をつくるには足りなくて、枕はオガクズ、敷布団は藁の上にうすーく綿を重ねて我慢することにした。
それを新しく作ったベッドの上にのっけて
(やっぱり総オーク材だぜ、ひゃっほーい)
寝床完成。
結果、まあまあの寝心地に仕上がる。
むしろオガクズ枕は超いい感じだった。
* * *
ちなみに肉は食べない人と前述したが、まったく食べなかったわけではない。
実は2回ほど、イノシシを捕獲した。
そう、イノシシである。
やっぱり出たんである。
最初は夜、畑の隅っこを少し荒らされかかった所、4匹がいち早く察知、追い払ってくれた。
ついに戦いか!?
と小太刀の使用を覚悟したが、罠のほうが有用なんじゃないかと思い立ち、畑の周囲10メートル四方に罠を設置。
深い穴を掘って先をするどく尖らせた木の杭をぶっさしておくというだけのシンプルなものである。
一応畑の周りに木の柵も作ったのだが、それも機能したのか。
畑を荒らされることはなくなった。
そして罠も見事な働きをみせ、イノシシの捕獲に成功。
――――はっきり言ってグロかった。
しかしまあ、畜産農家のおじちゃんの所では随分前までだが、鶏を自分たちの手でしめていたのだし、農家のおばちゃんちのご近所では猟友会の方がイノシシをしとめ、さばいたりもなさっていた。
それを見ていたこともあったので、すぐに覚悟が決まる。
4匹に穴から引き出してもらって血抜きをし、一生懸命お肉を塩水でもみ洗い。
灰汁抜きもがんばった。
そしてイノシシ鍋とさせて頂いた。
残った皮はもちろん無駄になんかしない。
せっせと鉈で脂肪とお肉を削りとり、ミョウバンと塩を混ぜた水につける。
何日か置いて、板に貼り付け天日干し。
これじゃ硬すぎるので角材の角にごりごりすりつけ、もみもみ。
ひたすらもみもみ。
以上の工程を得てイノシシの皮なめしは完了した。
この皮なめしの作業はかなり面倒くさいものだったので、もういいやと思う。
2匹で十分です。
(ま、捕獲したらまた無駄なく使うんだけどね)
この皮で何をしたかというと靴を作った。
登山靴の他にテント用のサンダルを持っているが、2足じゃ厳しかったのだ。
この靴作りはかなり時間がかかったが、まあなんとかショートブーツらしきものが出来上がった。
ついでに木の靴底と合わせてサボサンダルっぽいものも作った。
さらに残りでチョッキもどき、ポンチョもどきを作った。
「―――色々作ったねえ」
『本当に。お疲れ様です、母上』
「でもまだまだ足りないねえ。
芋やもろこしはともかくとして。
あー、とうもろこしは乾燥させるとして、芋はやっぱり多すぎるよ。
雪か氷があったらなあ」
『ありますよ』
「えっ」
『えっ』
「なななななんですと、トウ君!?」
『私は水の精霊ですから。
水が出せれば雪も氷も出せますよ』
「そうかあああってあったり前かああああ。
なんでもっと早く思いつくなり聞くなりしなかったかな!?
とにかくありがとうトウ君!
これで氷室が作れる、他の野菜も冷凍保存できるし高野豆腐も作れるよ!」
『お役に立てて何よりです、母上』
そして狂喜のあまり理性を失った私は、調子にのってほとんど全ての芋ととうもろこしを秋植えしてしまうという愚挙を犯したのであった。
さらに数十倍もの量に膨れ上がった芋ともろこしを前に、ただただ途方にくれることに。
――だから植え付けは計画性を持たなくちゃだめなんだって!




