12.決意を新たに
『お母さま?』
『母上、どうなさったんです?』
「……あー……なんでもない」
私は言いかけて途中でやめた。
いまここでいくら考えても答えは出ない気がした。
と、いうわけでの人が教えてくれない限りは。
「そろそろお昼ごはんだなあと思っただけ」
『お昼ごはん?
お母さまはお昼にもごはんを召し上がるんですか?』
「えっ」
『えっ』
『母上、この世界の人間は日に2回食事を取るのがふつうなんです。
母上の世界では朝、昼、夜の3回がふつうだったんですね?』
「うん、そうね、私の国ではね。
まあ私の国でも昔は2回だったみたいだけど。
城塞の文化水準から見たらこの世界ではそれがふつうなんだろうね」
『それでも2回の食事がとれるのは相当裕福な者に限られるようですわ。
貧しい農民たちは、日に一度の食事もない者たちが多いようですし』
「そうかあ……
なんかさ、トウ君。ナンさん」
『はい』
『はい』
「けっこう知ってるんだね、人間のこと?」
『えっ』
「えっ」
『そういえばそうですわ、ナンたちは自分たちで思っていたよりも、この世界の人間たちのことに関して話せていますわね。
国の成り立ちや歴史はやっぱり分かりませんわ。
魔法があるのかどうかも。
でも暮らしぶりはなんとなく分かるようですわ』
『そうだな、そういえば私は人間の道具についても、母上に聞かれた時、答えることができた』
『―――どうしてでしょう?』
「どうしてだろうね?」
うーん、と私とトウ君、ナンさんはうなった。
『ねえねえ母ちゃん、お昼ごはん食べるんだろ?
何にするんだお昼ごはん?
またなんかおいしいもの食べさしてくれるのか、母ちゃーん』
『――――サイ!!
あなた、ナンたちが一生懸命考えているのが見えないんですの!?』
『えーだってごはんの方が大事じゃん』
『ホクもそう思うのー』
『あなたたちはあああああ』
「まあまあ」
『だってお母さま!』
「サイ君とホクちゃんの言うことにも一理ある。
ごはんは大事よ」
今ここで考えても真相を解明する見込みも自信もないし。
『お母さまがそうおっしゃるんでしたら……』
『じゃ、ごはんはー?
ごはん何にするんだー?』
『ごはんごはんー』
「お昼ご飯は朝の残りの魚でいいよね?
今度はニンニクで炒めることにして。
ついでにクレソンもそえて。
持ってきたコーンポタージュスープにおやつのクッキー」
『わーいわーい』
* * *
そしてお昼の後で見つけた資源を回収しに向かった。
4匹はさらに10メートル以上も巨大化してくれたので、資源回収は一往復ですみました。
すごい。
ついでに流し気味だった西と東の海岸をもう少しよく見てみる。
西の海岸の岩壁からなかなか良質な粘土を。
東の海岸でフノリという海藻を見つけたのでこれも回収。
資源探しはとりあえずここまでにして、城塞に戻る。
まず大量の木材を利用して簡易的な家畜小屋を作った。
木枠を組んで木釘を打っただけのものだが、オガクズと集めた藁を敷いたらそれなりに居心地よさげな家畜小屋になった。
クローバーとハコベ、タンポポを飼料として、いっしょに作った木箱に投入。
ちゃんとした家畜小屋は後日作ることにする。
ここまでさすがというかすごいというか、アニマルパワー大爆発、2時間あまりで小屋の建設が完了したので続いて畑仕事に取り掛かる。
すでにある畑はそのままにして、より肥沃な石壁の外に新しい畑を作ることにする。
サイ君にこれこれこういう部品がほしい、と事細かにお願いして木材を切ってもらい、出来上がった部品を組み立てて簡単な犂が完成。
犂は大きめに、重めに作ってみた。
それにロープとボロリネンのチュニックで即席ハーネスをつける。
「サイくーん、これつけて引っ張ってくれないかなあ」
『いいよー』
『母上、私たちも手伝いますよ』
「うんありがと。
でもね、これは牛か馬じゃないと使いにくい道具なんだよ、だから今回は……
ってなんだなんだなにが起こった―――!!?」
はい、巨大化縮小化可能なら当然考えうる可能性をスルーしていましたゴメンナサイ。
4匹さんが目の前で華麗に牛、馬へと変身してしまったのでした。
サイ君まで馬になっとる……
って白馬だ、きたこれ。
王子様がいないからまっったく無駄だけどものすごくきらきらしてる。
『本体は今までの姿なので、普段はあの姿の方が私たちには自然ですし楽なんです。
でも変わろうと思えば、どんな姿にも変われますよ。
人間に変わるにはもっと大きな力が必要なので、今すぐには無理ですが…』
「そうなんだ。
いやー…すごいね、分かってたけどもう本当になんでもありだね」
その後もう1台犂を制作。
サイ君、トウ君がハーネスをつけて、ナンさん、ホクちゃんが犂を後ろから支えて犂入れ開始。
犂を支えるのならナンさんとホクちゃんは4足歩行にならなくてもよかったんじゃないかと思ったけどツッコまない。
私はやることがなくなってしまったのでせっせと石灰岩をハンマーで叩き割る。
この犂入れ作業は一時間あまりで完了してしまい、手分けしてとりゃーっと石灰をまいた所でこの日は日没を迎えた。
翌日のためにひよこ豆を水につけておく。
新しくとった魚とアルファ米のチキンライスにニンニクとアスパラ、ソラマメのサラダ、緑茶の夕食を終えて露天風呂へ。
3つの青い月を見上げながら考える。
(………帰れないかもしれないなあ……)
なんとなくそう思う。
少なくとも、この閉ざされた空間の中ではどんなに一生懸命探しても、考えても、元の世界に帰る方法なんて見つけられないだろうと思う。
でも今は思考を切り替えることにした。
(とにかくだ。
死なないようにがんばろう。
そして手に入れたありとあらゆる資源を使ってなんとしてでも人間らしい生活を手に入れてやる。
でなきゃ理不尽だ、あんまりだ、人はパンのみで生きていけるわけじゃないんだよ。
そういうわけで見てろよ、と、いうわけでの人!)
私は決意を新たに握り拳を作り、心の中で叫んだ。
(これから文明生活を少しでも手に入れるために全力をつくすっっ!!
――――そしてまずはトイレだああああああ!!!)