11.湖周辺探索
ほくほくしつつ、ザックからビニール袋を出してトロナを回収。
サイ君が持ってくれる。
その後、再びトウ君の背中にのって少し離れた場所まで行くと、
『こっちは昨日、母様が魚を焼く時に出してた方の白い粉に似てるの』
とホクちゃんが教えてくれた。
こちらも即、別のビニール袋に回収。
天然岩塩ゲットだぜ!
さらにトウ君の背中にのせてもらい、今度は火山へと向かった。
火口からはごくごく少量の白煙が立ち上っていた。
「これ位の煙じゃ城塞からは見えなかったはずだよね。
なんかちょっと浅間山っぽい……けど噴火はないね。
ないよね。ないと言って」
『ないと思うの。
中の熱いのが噴き出すような感じは全然しないの。
いつかはぶわーっって飛び出すと思うけど、それはずーっと先だと思うの』
「ホクちゃんっ。
あなたそんなことまで分かるんですかっ」
『分かるの―』
「ホクちゃんぱねえ、マジぱねえ」
『わーい、またほめられたのーうれしいのー』
火口には近づかないでおいて(ガスこわい)途中の山肌に降りてもらった。
火山灰、火山岩がざっくざく。
でもビニール袋は全部使用中になってしまったので、砥石に使えそうな石を何個かザックに入れるに留める。
「どうしても砥石は欲しいんだよね。
でないと打ち粉もないから、小太刀使えない……」
『コダチというのは、母上が持っているその小さい剣ですか?』
「うん、登山・園芸・DIYと小太刀は数多くの趣味の中でも、のめり込み度ベスト4だからね。
いつでも使えるようにしておきたいんだよー。
手入れができないと稽古もできないしね」
例えば猛獣に襲われたりしたら手入れのことなどほっといて使っただろう。
たぶん。
そんな事態想像もしたくないが。
でもそんな緊急事態に陥らなくても、稽古だけは木刀をこさえてやってやろうと思っていたのである。
『色々とたいへんなんですね』
「まったくね」
『ところで母ちゃん』
「なにかね?」
『なんか臭くね?』
「くっさいねえ」
『卵のくさった臭いがするのー』
「硫化水素だよ。ほらあれ、あの黄色いのが硫黄」
私が指差した方向は、まっきっきだった。
「おお、かなり純度が高いね、まっ黄色じゃないの。
あ、ということはこっちの真っ白なのはミョウバンか。
ものすごく大きい……もしやアルム石かな、これ?」
『それも何かに使えるんですね、母上』
「使えるね~ラッキーだね~。
これも後から回収したいんだけど、いいかな?」
『もちろんです』
火山を降りたところで目の細かい石を砥石候補として採集。
採集しているうちに小さな谷間の崖に出る。
「あ!!あるかもしんない!!いやきっとある!!
ホクちゃーん!!」
『はいなのー』
「ここ、城塞で見つけた鍋と同じのでできた岩があるんじゃないかな?
この辺とかあやしいんじゃないかな?」
『んーそこはちょっと違うみたいなの』
「………そうか……」
『その黒いのは母様が朝、太陽に向けた針みたいなのと同じものが混じってる感じなの。
こっちの赤い石の方が鍋に似てるの。
あれ?土の下には赤いのがもっといっぱいあるの』
「まじかっっ!!
やったあああああ!!ホクちゃん愛してるううう!!」
『え?
ホクも母様のこと愛してるのー』
赤鉄鉱と磁鉄鉱ゲット!!
鉄なくして人類の進化はありえません!!
* * *
火山はそこまでにしてその後、カルスト地形に移動。
上からも見えていたが、石灰岩がざっくざく。
これも後から回収することにして、湖に戻る。
昨日立てた予定とは逆になってしまったが、最後に湖周辺を探索することにした。
湖はそれほど大きくなくて周囲長は2・3キロくらい。
城塞付近の丘にはクローバーが広がっている。
中にちらほらタンポポ、ハコベがあるようだ。
「あ!?ニワトリとヤギ!?
なぜここに!?」
うそだろおい、と思いつつ近づいてみたら確かにニワトリとヤギでした。
ニワトリは3羽、ヤギは2頭いる。
「生け捕りだああああ!!」
『はい、母上!』
4匹の精霊さんの迫力に負けたのか、ニワトリとヤギは大そう大人しかった。
瞬く間に捕獲完了。
落ちていた枝を立ててサイ君に前足を一振りしてもらったら、ありえないほどに地面にめりこんで抜けなくなった。
それを杭にして一時的にロープでニワトリ、ヤギをつないでおく。
(もしかするとこのニワトリとヤギは元々、城塞で飼われてたのかもしれないな?
中庭にはせいぜい燃え残った木片と藁くらいしか残ってなかったし)
餌を求めて出てきたのかもしれない。
とりあえず後でちゃんとした小屋を作ることにして、引き続き探索を続行することにする。
クローバーエリアが終わるとすぐに森に入った。
探索が目的なので周囲を見回しつつ、ゆっくり進む。
「森の木はブナとオークが多いかな?」
『ぶな?おーくってこの木のこと?母ちゃん』
「うん、そうだよー。
あーこのうちの何本かでいいから木材にできたらいいだろうなー。
あこがれのオークのフローリングにオークの家具……
ってぎゃああああああああ!!?」
突如突風が巻き起こり、数本の木がすぱーんすぱーんと根元から中空に。
そしてそのままばらばらと角材になって地面にどどどどと積みあがった。
『これでいいの?母ちゃん』
「今のは君か、サイくん!!
すげえ、ウインドカッターきたああああ!!
……あ、ところで今みたくすぱすぱ両断するんじゃなくて、のこぎりみたいにぎこぎこ伐ることはできる?」
『のこぎり?』
「こうやって細かい刃を往復させて、削る感じ?」
枝を使って実践してみせると、サイ君は器用に風を細切れに動かし、べべべべべ、とあっという間に大量の板材を作ってくれた。
やりました!
木材につづきオガクズも確保!
アニマルチェーンソーぱねえっす!
そして木材はとりあえずその場に積んでおいて、引き続き森を探索。
歩いているうちにカバノキ、クルミ、トチノキ、アカマツなどを発見した。
ブルーベリー、イチジク、野バラも見つかる。
ただ木の実も果物も、今はまだ収穫できる時期ではないので目印だけつけておく。
川は温泉がわき出ているものが1本、山から湖に注ぐものが2本あった。
城塞から50メートルほど離れた所には小さいがちゃんとした滝もあった。
2本目の川岸には透明な石がざっくざく。
石英をゲットしました。
(いやーここって宝の山じゃない?
城塞の資源はしょぼかったけど、周りはまさに資源の宝庫だよ。
これなら生きていける、文化的に。
とにかく優先順位を決めて、さっそく今日から……)
るんるんと城塞に戻りつつ、周りを見回していたのだが、城塞まであと少しというところで立ち止ってしまった。
『母上?』
『どうなさったんです、お母さま?』
城塞からの道が私の足元でばっさり切れている。
道が切れた場所から、土も切れている。
城塞側は明るい黄土色、森側は濃い茶色。
定規でここまでですよーと厳格に区切ったがごとく、きれいに一直線。
外から見てはじめてわかったのだが城壁もある所できれいにまっぷたつ。
まるでサイ君のウインドカッターで切ったかのように断面つるつるである。
石壁の横にある木もまっぷたつ。
地面に植わったままだ。
半分は普通の木、半分はつるつる断面と言う世にもシュールな光景である。
「これ、サイ君が?」
『おいらでも土を2色に分けることなんてできないよー』
「ですよねー」
まるで城塞だけがぽっかりとこの森のなかに出てきたかのような感じである。
――――私と同じ。
ということはもしかして。
(転移してきたのって私だけじゃない?
この城塞も他の場所から転移してきた?)
ファンタジーここに極まれり。
でも一体なんのために?