第五話
「見てくださいっ、碇君!このお魚とってもキレイ!!」
水槽の中には光沢のある青い魚が数匹。泳ぐたびに、そのからだに光が反射してキラキラと光っている。
無邪気に水槽を眺めている姫の瞳に、きれいな青色が映る。
「あっ、あっちの大きな水槽!たくさん泳いでますよ!」
グイッ、と袖をひっぱられ、されるがままに進む俺。
「きゃあー、おっきな群れ…!このお魚なんて言うんでしたっけ、イワシ?すごーい」
大きな水槽トンネルの中には、ありとあらゆる魚が優雅に泳いでいる。
「あっ、上見てください!エイが笑ってます」
天井を指さし、姫が微笑む。こんなにはしゃいだ様子の姫は久々だ。いつものおしとやか系とは違うギャップが、ものすげー可愛い。
「きゃっ」
上を見たまま歩いていた姫が、前に居た人とぶつかってよろめく。危ねっ!姫の肩をつかんで、受け止める。
「あ、すみません…い、碇君っ」
「大丈夫か、あんまりはしゃぎすぎんなよ…」
「はい、でも、碇君とこーゆー所に来るなんてめったにないので、嬉しくって…」
ふにゃ、と無防備な笑顔をみせる姫。
ッあああああああこんな近くでそういうこと言われるとなんかもー俺も色々とやばい
「ひゅーひゅー、凡人くん!」
「……謙人、浮気…」
――――――――――――ってなんで澪はともかく奈知とかいうクソガキまでここにいやがるんだ!?!?
「……………」
声に出せないもどかしさが、表情にでてるかも…。
そんなことを考えていると、ひょっと姫が俺の方を振り返る。
「?碇君?何でそんな顔してるんですか?何かありましたか?」
不安そうな顔で見つめてくる。
少し化粧をしているのか、目元や頬がキラキラと輝いている。
「何もねーよ」
にやにやにやにやにやにやと性格の悪そうな笑いをうかべている千奈。うぜーな。
「姫、そろそろイルカショーが始まるぞ。あっちだ」
「はいっ」
「すごかったなー、イルカショー。」
「はいっ!イルカさんすっごく可愛かったです!」
まだ先ほどのイルカショーの興奮が冷めていないのか、息を荒くしている姫。
純粋にショーを楽しむ姫の隣で見ていると、俺もイルカショーを楽しめた。
「お、あそこにお土産やがあるぞ。見ていくか?」
「はい、是非!」
お土産屋の中は、でかでかとした魚介類のぬいぐるみやら、ストラップ、お菓子なんかも売っていた。
「碇君、このストラップ可愛くないですか?」
姫が手にしているのは、丸い感じに可愛くデフォルメされたイルカのストラップだった。つなぎ目にはキラキラ光るビーズがあり、女の子の好きそうなデザインだ。
「ほんとだ。姫に似合うよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、それ買ってやるよ」
「え、いや、私、そんなつもりで言ったんじゃなくって!」
「いいよ、こんくらい。」
「悪いですよ!お昼だって出してもらったのに・・・」
「・・・じゃ、姫はこっちの色違いの青いやつを俺に買って?そうすればおあいこだろ」
「・・・・・はいっ!ぜひそうさせてもらいます!」
「うわぁ・・・出たよ、天然・・・」
「・・・謙人の、ばか」
俺たちは色違いでお揃いのストラップを買って、お土産屋を後にした。
「…と、今五時か・・・姫、どうする?」
「ぅえっ!?ど、どうするって・・・?」
いきなり焦りだした姫。?なんかおかしいこと言ったか?俺。
今日の姫とのお出かけを一部始終見てきた千奈が、横はいりしてくる。
「ちょっとォー、凡人くん、何女の子に言ってんの?」
ど、どういうことだコラ。
「そういうのは、自分で考えなさいよ馬鹿。頭は凡人以下なのかな?」
は、なんでだよ。まあいいか。そういうもんなのかもな。俺は経験ないから知らないし。
「ごめんな、姫。これから時間あるか?」
「あっはい、大丈夫ですよ」
とはいえ・・・ほかにどっか行くところあるかなぁ。ないな。あ、そういえば姫、俺んちに泊まりたいとか言ってなかったっけ?
「今から俺んち来ないか?泊まってけよ。」
「・・・・・・・・ぇえっ!?あ、あっ・・・その・・・っ」
顔を真っ赤にしてうつむき、恥ずかしそうな態度を取る姫。え、俺また何かやらかした・・・?
「ぬわぁあああああああああぁぁあああに言ってんだこのセクハラ野郎おおぉおおおぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」
「っっ!?!?」
千奈に思いっきり後頭部にケリを入れられた。
「…謙人、最低」
えええええ!?何!?なんで俺はこんなに女性陣から嫌われてるの!?誰か説明して!?
てか千奈のケリが的確で超痛いんだけど!!!
「ぁ、あの、碇君・・・・・・・・」
「姫、この前俺んちに泊まりたいとか言ってなかったっけ?」
「そ、それは小学校の頃の話ですよ!ひなちゃんばっかり碇君のおうちに泊まってたから、私も・・・って思っただけで!」
「え、あ、そうなのか?でもひなが、この間俺に教えてくれたんだぞ・・・」
くっそうひなのやつ、嘘を教えやがったな。覚えてろ。
「ひなちゃんのばか・・・」
「なんかいったか?」
「な、何もっ!」
「まあ、俺の家はなしで・・・他にどっか行くところ・・・」
「・・・・・・・・たいです」
「え?」
「・・・・行きいたいです、碇君のおうち」
「でも、嫌がってたんじゃ」
「ちょっとびっくりしただけです。碇君、ダメですか?」
「俺は全然だいzy」
「ふっっっっっざけんなおらあああああああああああああああああああああああぁぁっ!」
姫から見えない角度で脇腹を殴られた。
「かふっっ・・・!」
「碇君、どうかしましたか?」
「な、なんでもねえ・・・大丈夫だ・・・」
「ぬぁあああに言ってんのよアンタはぁ!何しれっと彼女の前で部屋に女を連れ込もうとしてんのよぉ!?」
は?彼女って誰だよ。
「澪に決まってんでしょ!!!ふざけるのもいい加減にしなさい童貞」
心を読むな!クソガキ!しかも澪は彼女じゃないわ!
「…ひどい」
お・ま・え・も!いつ俺の彼女になったんだよ!!!
「断りなさい!でないとこうよ?」
結構ガチの腹パンを何度も食らわせてくる千奈。や、やめてくれもう・・・あと澪は、無言でスネにケリを入れてくるのをやめてほしい。
「い、碇君!?口から血が出てきていますよ!?」
「あ、ああ・・・大丈夫だ。でも俺、用事思い出したから帰るわ。またな」
「え、あっ・・・はい、また学校で」
クソ天使どものせいで、お開きとなた。
くっそぉ~~~、覚えてろ!!!
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