第四話
からん、かららん――――
涼しい風が服の下を潜り抜ける。
俺たちより先に、澪がサッと扉を通り抜ける。
なんだ、なんだ…コイツ
店内には、アンティークでこまごまとした置物やら植物が飾ってあった。
洒落てんなぁ。
このような店は自分の街ではあまり見ないので、思わずあたりを見回してしまう。
「このサボテン、かわいい~…」
姫が入り口近くにあるサボテンをみて、呟く。
二人でカウンター席に腰掛ける。
客は少なく、俺たちを含めて6人だ。
「なんかいいですね、この店内… 落ち着くっていうか、和やかな気分になれます」
姫はこの店を気に入ったようだ。
店員はいないのか…?
なんてことを考えていると、宙を舞っていた澪が勝手に厨房へ入って行った。
何やってんだ、アイツ…!
勝手に行動しやがって。どうなっても知らんぞ。
つーかさっきっから澪のやつ、落ち着かなくね?
なんかあったのかね?
「碇君、何頼みますか」
「あ、俺は―――――この日替わりランチにしようかな」
「じゃあ、私も。 すみませーん、注文お願いします」
厨房の扉から一人のウェイターの格好をした少年が出てくる。
「はい」
「えっと、日替わりランチを2つ」
「かしこまりました。ご一緒に、ドリンクはいかがでしょう」
「どうする?」
姫に問うてみる。
「いや、私は良いです。金欠ですし…」
「そうなの? よかったらおごるよ」
「いやでもそんなの、碇君に悪いですし…!」
「別にこれくらい気にしなくてもいいよ。」
「……」
「いいってば」
人に気を使う優しい姫のことだから、このぐらいの事でも申し訳なく感じているのだろう。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「おう」
「じゃあミルクティーをお願いします――――碇君は?」
「じゃあ、アイスコーヒーを」
「かしこまりました」
にっこりと、営業スマイルを浮かべた後、少年は去って行った。
接客業うまいなー…
あの少年、中学生だろうか。
―――にしても澪のやつ、どこへいったんだ
さっき厨房へ行ったきり、戻ってこない。
なにか変なことしてないだろーな…
まったく、本当余計な奴だな。
それにしても、これからどこへ行こうか…。
この辺でなんか楽しいとこ、あったかな。
「失礼します。ドリンクです」
先ほどの少年がアイスコーヒーとミルクティーを運んできた。
軽く会釈し、それを受け取る。
細いストローでカランコロン、と氷を鳴らしていると、澪が飛んできた。
「…謙人。きて。」
はぁ?何をいっとるんだコイツは。脳みそ機能してないんじゃないですかね?今ここに姫がいるってのにさー。
ムカツクのでガン無視してやる。ふん。
と、ストローに口をつけようとした瞬間、イスの下のすねをけられた。
「―――――っ!?」
痛い!痛いよ!?すねをけるって!?
ざまぁwwと言わんばかりの表情、澪。
て、てめぇこのやろぉ~~~~~……くっそ。
わーったよ、いけばいんだろ、いけば!!どーせこうなるってわかってたさ!!
「わ、悪い、姫。ちょっとトイレいってくるな」
「え?あ、はい」
澪に案内されるまま進む。
こいつ、自分の思いどうりにならないと何でもするな…。
「で、なんなんだよ」
「…仲間が、いた。」
「っはあ!?まじかよ」
「…うん。私はいつでも、本気。」
「ああそうかい」
って、展開はやいな!?天使全員で8人なんでしょ?もう3人も発見されてるとか…。
日本の狭さを知るね。
「…ここに入って」
澪の言う ここ とは、厨房だった。
コンソメスープのような料理のいいにおいがしてくる。はあ。ここに入れと。
「あ゛?何言ってんのおm」
ドガンッ!!
「きたきたぁ!!碇謙人君だねぇ~~~!?!?」
ばぁ~ん!!という効果音が聞こえてきそうな登場の仕方で、ツインテールの美少女(というか、幼女)が厨房の扉をブッ飛ばしてきた。
背丈は120~130cm程だろうか。かなり幼い容姿。
天使界の生き残った天使どもってのは、みんな子どもなのかね?怜央といい、澪(精神的にも)といい。
このこはまさに一番うざいガキんちょ位の年だな。
見るからに元気いっぱいでやかましそう。関わりたくねぇ~…。
「おぅおぅ、みおたんのお話どうりビバ凡人君だね~~!」
そして年上を敬うという事も知らないクソガキだ。
つーか澪!てめーどんな説明をこのガキにしてんだよ!!
この年頃のうるせーガキは1回教えられたことを変えるのは超タイへンなんだよ!!
単細胞だからな!
つーか口調がマジくっっっそうぜぇ。
そしてアニメにでも出てきそうなロリボイス。
「わぁ~、すっごいね!将来いかにも中間管理職やってそう笑」
何と失礼なガキだ。
「んでー、出世してもせいぜい課長とか部長??笑笑」
黙れ。おめーに何がわかるってんだよ。
「常になんか眠そうでー、だるそうな感じ?あっは、成績も中の下ってとこかな?」
あーうっぜぇ。
「部屋とかぜぇったいに個性ないデショ!どっかの不動産屋からもらったカレンダーとかしか貼ってない系?机とベッドとタンスしかない系??笑」
なんなんだ。
「好きなアーティストとかも超無難なグループとかでしょー?てか特に好きなのなさそーwうわ、超想像つくんですけどwww」
さっきからべらべらべらべらべらと。よくもまー俺のことがわかっていますね。
「みおたんから聞いたケド?凡人君、すっごくモテる幼なじみがいるんだってえ~??あは、周りの男子から反感やばいっしょぉ?『なんでおめーみてーなやらない夫が!』ってwwww」
「さっきからいい加減にしろよこのクソがきゃー!!黙っていればべらべら悪口ばっか言いやがって!」
あ、やべ。
抑えきれずに大声で怒鳴っちゃったよ…。だれか来なきゃいいけど。
「あ、すみません。うちの奈知が…」
「へ?」
そういって出てきたのは先ほどオーダーをとった少年だ。
「あなたも天使を拾ったのですね。」
「あ、ああ…おまえもか」
「僕、栗田 利光って言います。よろしくお願いします」
「おぉ。俺は碇 謙人だ。」
短髪で落ち着いた雰囲気の少年は、にこっと微笑んだ。
「こら、奈知。そんないきなり罵倒しちゃかわいそうだろ?まぎれもない事実を」
…ん?
「あっはー★そうだネww」
「いくら折れた割り箸よりも役に立たなそうな相手でも、初対面でこんな…ちょっとは遠慮しなよ」
「あははー、栗田クンも人の事言えないけどネー」
「すみません、ホント。ほら、奈知もあやまって。」
「はいはい。ドーモスイマセンでしたァ~~」
……………は。
…うっぜええええええええええええ!!!????
何!?なんなの!?
ひどっ!?ひどくない!?まって、この事態が酷すぎて俺はまだ状況がよく呑み込めていないよ!?
ちょ…まじ…
なんで俺は今ちょっと涙目なの!?
「…奈知、それくらいにしてあげて。謙人は傷つきやすい。」
「そうなんだ、ゴメンね~、ガラスのハート君??笑」
「テメェ後でちょっとマジおもてでろっ!!!!」
グスン。
そのあと俺は姫のもとに戻り、注文していた日替わりランチをいただいた。
ニコニコとオムライスをほおばる姫を見ていたら、さっきの屈辱など忘れてしまいそうになった。
「ホントすみません、碇君…おごってもらうなんて」
「全然いいってば」
お店を出て。さて。これからどこへ行こう。
この辺だと水族館があったかな…?
よし。そこにしよう。
「姫、これから水族館に行こうか?」
「はいっ!」
そうして俺達は水族館へと向かった。
最後まで読んでくれてありがとうヾ(´^ω^)ノ♪