表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と天使界  作者: 豆腐
3/5

第三話

大変長らくお待たせしました…。


 姫と約束していた週末。

 

 時刻は午前8時50分。

 俺は、襟元にラインの入ったポロシャツに、カーキ色のハーフパンツといういかにも一般人な格好をして待ち合わせである桐ケ谷バス停にいた。

 

 ちなみに、澪も人間の容姿で宙を舞っている。


 「あ、碇君…!」

 少し離れた信号を渡って、姫は俺を見つけた。

 「よお」

 姫は、丸い襟のついた真っ白な半袖ブラウスを、薄いピンク色のキュロットにインした格好でコツコツと花のついたパンプスで駆けてきた。

 ミニのキュロットで生脚丸出しだが、本人が醸し出す清楚で乙女っぽい雰囲気は損なわれていない。

 

 「すみません、遅れてしまいましたか…?」

 「いや、んなことないよ。俺も今来たとこだし。」

 「そうですか?ならよかったです」

 えへへ、とはにかむ姫。

 「そういや姫は、図書館で何を調べるんだ?」

 「ああ、わたし、来月のお偉い方々がいらっしゃる全校集会でスピーチをすることになりまして…」

 「へえ。そりゃ大変だな」

 きっと人の良い姫のことだから、先生に頼まれても断りきれなかったのだろう。

 

 そんなたわいもない話をしていると、俺たちの乗るバスがやってくる。

 「いくぞ」

 「はいっ」

 

 少し冷房の効いたバス内は、冷房の苦手な俺にとって心地よかった。

 姫は少し暑そうな顔をしていたが。

 バス内を見渡してから、一番後ろの席に座る。

 図書館は隣町にあるので、15分ちかくで着くだろう。

 「少し、暑いですね」

 「そうか?」 

 レースの着いたハンカチで額の汗をぬぐいながら、言う姫。

 「そういえば碇君は、何を調べるんですか?」

 知りたそうに興味を持った表情で問いかけてくる姫。

 「んっ!?あ、ああ俺な…」

 澪を天使界に戻すため…とは言えんだろ。

 高1になっても中二病かよwとか思われんしなー…

 は――――、どうしたもんだか…。

 「俺は、先日起きた大地震について調べるんだ」

 うん。嘘はついてない。

 「え?大地震…ですか?なんでまた…」

 「そ、それはだな!知りたいからだ!」

 アホか!?大した理由もねーからってよー…

 単純すぎんだろ。

 「そうなんですか…。何事にもどうでもいい感じで接している碇君にしては、珍しい行動ですね」

 

 ほっとけや。

 

 …まあそうだが。

 そんなこんなで隣町のバス停から降りる。

 そこから徒歩で5分ほど。

 図書館にはすぐ着いた。

 「姫はどこ行く?」 

 「わたしは、文章の正しい書き方とかの本があるところへ」

 「そっか。じゃあ俺はインターネットコーナーに行ってるな。」

 「はいっ」

 お互いそれぞれの目的を果たすため、行動を始める。

 

 フ―――――…。

 さてっと。

 一台のインターネットを確保し、キーワードを検索する。

 大地震、 …っと

 カチッ

 数秒後、キーワードに関連した情報やトピックがずらりと出てくる。

 「……うお、すげえな」

 膨大な数の情報に、思わず目を丸くする。

 「えーっと、何々…?」

 よく見ると、それらは2chやらなんたら動画等の地震の際に起きたおもしろ出来事などだった。

 …ふざけんな。

 ちゃんとした情報のせろや。

 でも、まだ1か月位しかたっていないし。そんなすぐ原因が判明するわけねーよな。

 仕方ない…か。

 俺は検索キーワードを変えてみる。

 大地震、スペース、原因、エンター…と

 

 数秒後。

 

 おぉ、おお!でてんじゃん!!


 『大地震のなぞを水島博士が解明』

 『大地震についての最新情報』

 『何故、大地震は起こったのか?(各宗教からの観点)』

 

 …とまぁ、こんな感じで色々と情報がのっていたわけですよ。

 「…謙人。」

 「あ?」

 「…水島博士ってだれ」

 「知るかよ‼博士だろ!?研究してる人だよ!」

 このバカはほっといて。

 

 俺は初めに目についた、『大地震のなぞを水島博士が解明』というページをクリックした。

 水島博士のプロフィールや、論文的なものやらが出てくる。

 「なになに…」

 その論文には、こんなことが記されてあった。


 5月下旬、地球の人口半分が失われるというとても大きな地震が起きた。

 それは、何か裏から操って起きたものだと、私は考える。

 宇宙とは、とても壮大でまだまだ未知数なものが多い。

 地球が誕生した46億年前、そもそもこの地球ができたころには、このはるか広い宇宙では、もう生物がとっくに誕生していたのだ。

 だから、我々の住む地球が誕生するずっと前から、その何かしらの生物が地球の歴史を変えてきたに違いないと思う。

 私は、この地球の遠く離れたところに住む生物達が、地球を造り上げてきたと思っている。

 それらは、地球誕生の100億年前以上から存在する、神にも等しい存在だといえる。

 人類が進化していくように、その生物も進化してきたのだ。

 地球を支配できるような力を携えるような進化を。


 ………地球誕生の100億年前から、存在する、神に等しい生物―――――…。

 それって…


 私は、その生物がこの大地震を起こしたに違いないと、確信する。

 だって、それ以外には理由がないからだ。

 原因は不明だからだ。

 理論上では説明できないこの大地震は、神ともいえるその生物が、罪深い人間たちに罰を与えたのではないだろうか。

 

 …原因不明なのかよっ!?

 

 つーかこの『生物』って、澪たち天使のことじゃねぇ!?!?

 存在ばれてんじゃん!!

 ちらり、と澪の様子を伺う。

 

 澪は、超無表情で呆然と画面を見ていた。

 怖いくらい、真顔だった。

 …な、なんだコイツ…

 自分たち天使の存在を知られたことに対して、さらに人間どもに罰を与えようと…!?

 わきに嫌な汗がじわりとにじみでる。

 

 「お、おい。澪…」

 「…」

 「何かするつもりなのか…?」

 考えの読めない澪の表情に困惑する俺。

 すると、澪が何かしゃべった。

 

 「…………これ、何…?」


 …は


 「オマエ‼難しくって文章読めてないだけかよッ!?」


 っあああああああああびっくりしたぁ!!!

 何なんだよオマエっっ!

 驚かせんな!

 てか天使界も滅びた的なこと言ってたよね!?

 じゃあこの説違うんじゃね!?

 何なんだよもうッ!!


 一人で(心の中で)ツッコみいれて騒いでいると、澪がまた口を開いた。

 「…天使界のほかにも、存在するの」

 「何!?」

 「…ほかに、”悪魔界”ってゆーのもある。」

 あ、悪魔界だとぉ…!?

 天使があるなら悪魔もあんのか…

 ベタな展開だなこのやろう

 

 「で、その悪魔界っつーのは何だ?」

 「…悪魔がいるとこ」

 「んなもんは分かってんだよ!な・に・を してんだ、その悪魔共はっ」

 「…悪魔の仕事…?」

 「わかってねーのかよ!!…じゃあ、逆に聞こう。おめーら天使は何して暮らしてんだ?」

 「…天使の仕事…?」

 「具体的にだ!!ほんっとバカだな」

 「…ひどい」

 「いーから早く言え」

 「…天使は、宇宙銀河に広がる各星をの状況を把握したりとか、天国に来た人たちの歓迎とか…」

 「ほー」

 「…一流の天使になれるように特訓したりとか…?」

 「一流の天使になって何するんだ?」

 「…あくのそしき、なんたらかんたらと戦う…?」

 「何も覚えてねーのかよッ!!さすがだな!!」

 「…照れちゃう…」

 「ほめてねーよ!!」

 「…そうなの?」

 何なんだもう!!

 コイツといるといちいち疲れんなあ~!!

 てかなんだよ『あくのそしき』て!!

 いかにも厨ニっぽくねぇ!?

 

 つか普通に考えて悪魔界のやつらが起こしたんじゃね?

 「悪魔界のやろーどもが、地震起こしたんじゃねえの?」

 「…違う」

 「何で言い切れんだ?」

 「…そんなこと、できないから」

 「じゃ、他に誰がいんだよ?」

 「…あくのそしき。」

 「だから誰だよそれ!!!!!!!!」

 「…あくのそしきは、あくのそしき。」

 「自慢げに言ってんじゃねー!」

  

 

 

 結局そこでは、ずっと前から宇宙に存在していた『ある生物』が、地球の人類に罰を与えた。という事しか分からなかった。

 

 ま、まあ 何も分からないよりかはマシだよな!

 

 …その『ある生物』が分からないままじゃ、何も分からないのと同じだがな…。

 

 そんな矛盾に満ちた思いでインターネットコーナーを出る。

 するとちょうどこちらに向かってきていた姫と目が合う。

 「碇君、大地震について調べられましたか?」

 「あ、ああ。まあな。」

 トートバックの中に借りたらしい本を入れ、肩に下げている姫にこう問う。

 「姫こそ、スピーチ原稿はできたのか?」 

 「はいっ。結構いいものになりました」

 「そうか、それはよかったな」

 「はいっ」

 いかにも嬉しそうな笑顔で答える姫。その笑顔を見ていると、日ごろのストレスが吹っ飛んでいくような感じがした。

 日ごろのストレスっつーのは、誰かさんとしゃべっていると溜まるもんだが。 


 そうして俺らは、図書館を後にした。



 帰りのバス停へ向かう道で。

 午後にさしかかるこの時刻、太陽が一番照っているような気がした。

 あっちーな。

 「い、碇君っ…!」

 姫が立ち止まる。

 「ん?」

 「こ、これから、予定とか…ありますかっ!?」

 「いや、ないけど?」

 「っあ、あああの、もし、よ、よかったらなんですけど…」

 姫がなんだか妙に緊張した動作で話しかけてくる。

 「本当に、本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当によかったらなんですけど…」

 リボンのついたミニキュロットの裾を握りしめ、震える声で姫はこういった。

 

 

 「これから、わ、私と、どっか遊びに行きませんかっ!?!?!?」

 

 

 目をきゅっと瞑り、頬を紅潮させた姫は、なんだかとっても可愛らしく見えた。

 

 普段はこんなことをしない、勇気を振り絞って言った姫を見て、俺は呆然とその姿を見つめた。

 

 「…?あ、あの、碇く…」

 あんまりまじまじと見つめていたもんだから、姫が疑問に思ったのか、俺を見返す。

 「っ!?」

 目が合う。

 

 顔をかああ~と真っ赤に染めた姫は、パッと下を向いてしまう。

 後から考えたことだが、多分俺はこの時、ひどくマヌケなツラをしていたと思う。

 


 だって、このときの俺は姫にすべてが釘付けだったのだから。

 

 ハッ、と我に返った俺は、すぐ姫にあやまる。

 「ご、ごめん!あんまりじろじろ見ちまって…。」

 こんなに地味な男にガン見されても、不愉快な気持ちになるだけだろうからな。

 

 …自分で言って自分で落ち込む。


 「い、いや、そんな…」

 優しい姫は、否定してくれるだろう。

 「わ、私こそ、ごめんなさいっ…。無理を言ってご迷惑を…」

 今にも泣きそうな、ひどく悲しい表情に変わる姫。

 「え!?な、何がご迷惑だって?」

 「だって、碇君、私の誘いを断りましたよね…」

 「なななななんでだッ!?断ったつもりはねえよ!?」

 「…へ?」

 きょとんと首をかしげる姫。

 その仕草は可愛かった。

 「だ、だって」

 「行く!行くよ!!姫と!!遊びに!!行くよ!」

 必死で訴える。

 「…あ、ほ、本当ですか…?」

 「お、おう!」

 すると姫は見る見るうちに明るい表情に変わっていった。

 「や、やったぁ!」

 花の綻ぶような笑顔を見ていると、こっちまで笑顔になっていく。

 


 「…謙人、デート?」 

 うるせえ!!こいつ家においてくべきだったなあ!!

 

 ぐ~。

 「腹減ったな。よし、まずは腹ごしらえとすっか」

 「はいっ」

 そうして俺らは、図書館の近くにあるカフェに入った。

   

 

 澪がハッとした表情になったのが、少し気にかかった。



 

 

 

 

 



  


 

 


 


コメント、感想お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ