6話 いこう、幻想郷へ
先輩との会話は基本的に時間かかるなぁ
そんなわけでいつもの2倍かかりました
屋上に出ると吐く息が白く色づき、本格的な冬の到来を感じさせる。
聖夜までの後3日を数えるだけだが、今だ雪がちらつくことはあっても積もることはない。
もう少し北陸にいけば違うんだろうけど、そう思うながらホットの缶コーヒーを片手に身を竦ませた。
俺たち以外の人影は見えない、見えるはずもない。確かに暖房の効いた仕事場は少々頭がボーッとするものの、こんな寒空で昼食を食べる馬鹿は居わけないよね。
「「・・・・・・・」」
そんな馬鹿が今現在二人屋上で缶コーヒーとサンドイッチを片手に黄昏ている。
いやもっとも今から話す事は馬鹿みたいな場所だからこそ話せるものではあるが。
俺はコーヒーを一口啜り口を開いた。
「先輩東方Projectってご存知でしたよね」
まぁ今話題にもなってますけどね、と俺は続けた。
その間先輩は何か口を挟むことなどせず、かといって急かすような雰囲気もせずビルの下を走る車の影に目をやっていた。
「もしかしてですが、俺の見た幽霊の人物が八意さんに似ているって想像ついてました?」
「まぁな。長髪銀髪赤青服装なんて俺は八意永琳くらいしかしらん」
その時先輩が始めて口を開き俺の話を肯定し、ぺりぺりとサンドイッチの袋を開封してぱくりと口に放り込んだ。
「しかしお前から話を聞いたその日に、んなことあったなんて想像すらつかなかったよ」
「違いないですね、特に俺なんか元ネタしらなかったからそうとう混乱したんですよ」
俺も先輩と同じくサンドイッチを開封して一口、シーザードレッシングを主軸にレタスとハムの香りがふわりと広がった。定番ながらうまいなこいつは、個人的にはスライストマトも一切れ入れて欲しいが。
一時俺と先輩との間にものを咀嚼する音だけが響きわたった。
俺は口の中のサンドイッチをコーヒーで流し込み話を続けた。
「実は八意さんに幻想郷へ来ないかと誘われまして」
この言葉に先輩は初めて反応らしい反応を見せた。缶コーヒーを傾ける動作が一瞬とまり、再び動き出すという蚊がとまった程度の小さな変化ではあったが。
それに構わず俺は続ける。ここからが俺がもっとも話したい、相談してみたい事だったからだ。
「後5日間までに俺はここに留まるか幻想郷へ行くかを決めなければならないんです。しかし・・・」
全て話そう。残念ながら俺は頭の回転はいいほうではない。
自分で見たもの聞いたもの信用するというものの場合によりけり、時としてそれが逆に自分という視点のフィルターしか見てないと言うことになりかねない。
それは『独りよがり』ともいえる。たまに面接とかで「自分のことを客観的に見ることができます」なんていうのははっきり言おう、馬鹿だ・・・・・そうだろう?昔の俺よ。
「自分のこと」というのは置き換えれば自分しか見てないということになる。
本当に客観性がある奴なら多くの人と情報を共有して、そしてそれを独自で纏め上げる技術をもつ。これこそが本当に客観的視野で見ることが出来る人物。
だから今回唯一情報を共有している先輩に全てを話し情報の比較を図りたい、俺は聖徳太子や諸葛孔明ではないのだ。
正確な情報を整理するのならば他者の情報との比較すれば容易く、さらに先輩は素晴らしいことに大人の良識と寛大さを兼ね備えつつ、先を見据える慧眼ももっているパーフェクト超人。
俺なんかに及びもよらない決案を出してくれるだろう。
「・・・という訳です。幻想郷は本来隠蔽し、幻想たるもの。しかし今回はどう考えてもおかしい。その上ではたして行っていいかどうか・・・」
皆『幻想郷が実在するかもしれない』という懸案に夢中になって他のことには目を向けていない。
確かにもし俺が当事者ではなかったらこんな事考える気すら起きなかった。
ただその他大勢に紛れて真面目な顔で魔法の有無について話すのだろうか?
何故今まで表沙汰にされてなかったものが何故今になって露になったなんて考えただろうか?
そして、映像にうつる八意さんに俺はやはり心をときめかせていたのだろうか?
そこまで考えて俺は軽く首を振り、頭をかいた。
馬鹿らしい、今はifについて考える必要なんてない。
「・・・俺から言わせれば問題はそこではない」
そう答えた先輩に俺は視線を移す。
先輩はいつものモーションを取り、すっかり冷めたであろうコーヒーを一息で飲みきった。
「問題は何故お前か、だ。そしてもう一つは、何故幻想郷を示唆する行動をとったにも関わらず八雲紫が動かないのか、もしかするとだがこの事態を含めて既に決定事項なのかもしれん」
前者の疑問にはすぐ答えられる。俺の先祖に友好関係があったらしくて、だったか。
しかし後者は正直先輩がいったい何をいっているのか分からなかった。
「ちょ、どういうことですか!つまり八雲紫という人物は八意さんを利用してこんな自体を!?」
「そうかもしれんという話だ、さらに言うならば俺の知識にある八雲紫と八意永琳が本物ならこんな初歩的なミスはしないと思う。設定は確か『妖怪の賢者』と『月の頭脳』頭が切れるとかいう次元の話じゃない。その存在がこの事態を容認しているということは、この状況そのものが幻想郷に被るデメリットを差し引いても行わなければならない、その必要がある訳だ」
先輩はそう答え俺に向き直った。
「それがどういったものなのか、情報が少なすぎる今は分からないが幻想郷がこのまま干渉を続けるようならば、お前が幻想郷へ行こうが行くまいがこの世界は変わっていくだろう」
それはそうだろう、この世の中は大きく変わるに違いない。
霊力とか魔力とかいう謎エネルギー、それは単純にこの現代社会がもっとも危機感を募らしているエネルギー問題の解消の主軸として扱われる。
なんせ霊力とは、加工しだいで一切の飛行機器を持たずしてリアル空中散歩を可能にするのだ。
霊力1に対するエネルギー変換効率はどういうものかまで突き詰められるのであれば、八意さんが呟いていた霊力と科学の融合が可能になるのではないだろうか。
そうなれば、全世界で新エネルギー革命が起こるだろう。この東方の島国を震源地として。
「お前にあるのは視点の違いだけさ。幻想郷へ旅立ち俺たちの世界が変わるのを傍観するか、ここに留まり変化という濁流に飲まれ流されるかはな」
先輩はそういって俺に選択肢を投げかけた。
幻想郷へいくか、留まるかを・・・しかし、
「この変化に干渉するっていう選択肢はないんですか?」
俺がただ時代の流れに流される言い方が癪に障る、断固抗議だ。
しかし先輩は俺の抗議を面白そうに鼻で笑った。
「お前が、か?無理だな、到底敵わん。例えばもし、今年正月のK-1で魔裟斗悲願の復帰戦があったとしてその挑戦者がゾウリムシだ。どっちが勝つと思う?そういうレベルの話だ」
そこまでいうか!?つーか俺ゾウリムシかよ!
その言葉に俺はふて腐れたようにそっぽを向いて、残りのサンドイッチを口の中に放り込んでコーヒーで流し込んだ。
先輩は俺を見ながら何が面白いのやらニヤニヤ笑っていたが、ふっとため息を一つついて再び口を開いた。
「誇張でもなんでもない。本当にお前の間にはそれくらいの差がある。納得したいのであれば、お前が幻想郷へ行って答えを見つけるんだな、案外八雲紫はこちらと幻想郷を繋ぐ外務官としての役割でお前の幻想郷入りを容認したのかもしれんしな」
先輩は空のコーヒーの缶を弄びながら、今俺がもっとも心が動くであろう言葉を言い放った。
「それに、八意永琳のことがわすれらるのか?」
・・・・・・・・忘れられる訳がない
その言葉は反則だ、卑怯だ、意地悪だ
先輩の一言でもう答えが決まってしまった。
たぶん、俺には面倒くさいことが巻き起こるのだろう。
幻想郷と俺たちの世界を繋ぐパイプとして俺は使われるのだろうか?
それとも幻想郷宣伝の為のスピーカーとして俺は使われるのだろうか?
はたまたなんてことはない、ただの駒として俺は使われるのだろうか?
上等だ、やってやろうじゃないか。恐らくこのチャンスを逃したら次はない。
降りかかる火の粉を払いながらでも俺は進んで行ってやる。
たとえ八意さんは誰かの影を俺と重ね合わせてたとしても、それでも構わない。
そもそも出会いとは、そんなものじゃないか?
昔初恋の人に似ていたから、とか。
趣味が俺と同じだっただけ、とか。
最初はその程度でいい、問題はその過程。
俺はやる、やってみせる。
彼女のそばに並び立つために、なんだってやってみせよう。
もう迷いは消えた。いこう、幻想郷に
先輩は俺の表情を見ながらにやりと笑った。
「ま、がんばんな」
「そういえば八意永琳は今何してるんだ?」
冷たくなった缶をゴミ箱に投げ込んで先輩は聞いてきた。
俺も続けてゴミ箱に向かって投げ込んで、外れた。
くそっ、と悪態をつきながらのろのろゴミ箱へ近づいて缶を拾い上げてその中にぶち込む。
「とりあえず目立たないようにしてくださいって釘さしてますので家に篭ってるかと思いますが」
俺の返答に先輩は一瞬言葉を詰まらせた。
不審に思って振り返って即後悔した。その鋭い瞳が俺の刺し貫いているからだ・・・な、なんなんだ!?
先輩は俺を視線から外さず、外の凍えるような空気にも負けないような声を上げた。
「家って、お前のか?ってことは、泊った、のか?」
・・・・・・・・・・・・・あ
一陣の風が屋上を撫ぜる。
俺が思わず身を震わせたのはその故だと信じたい。
ゆっくりと後ずさる俺に合わせるように先輩が歩みを進めていく。
「知ってるか?俺はな、13日の金曜日にジェイソンがくそったれなカップル共に正義の鉄槌を下すシーンが大好きなんだ」
「ちょ、ちょちょっと待ってください!八意さんとはそんな関係じゃないですって!そもそも八意さんは俺の影を追って・・・・・」
俺の引きつった声に先輩は意を解さず、すばやく踏み込んで俺の頭を鷲掴みにした・・・いてぇ!!
「能書きは垂れたか?じゃあクタバレ」
「あ、あがががぁぁぁぁががあああああああああああ!!!!!!!!」
刑部先輩26歳
スペック:S+
今まで付き合った彼女:2人
付き合った期間最長:3ヶ月
振られた理由:なんでいつも怒ってるの?←怒ってない
モテない理由:目つき・よく不良に絡まれるから
仕事帰り、家へと歩みを進める中、俺は思考の底を漂っていた。
なんせ幻想郷へ行くという決心はついたものの、やるべきことは山済みだ。
まず会社は、まぁ退職しなきゃ駄目だよな?
この時期このご時勢に退職か、いてぇなぁ・・・
ガリガリと頭をかいて今やらなきゃならない身の回りの整理に頭を悩ませる。
とりあえず後五日間で全てのことに決着をつけなければならない。
まず
・会社の退職願
・アパートの明け渡し
・親に事情説明
これは確定だ。
会社の退職は色々引き継ぎとかあるし、つーか聖夜前のこの時期だし。
もしかしたら聖夜までは仕事はしないといけないかもなぁ。
とりあえず辞職届は書いといて、次はアパートの明け渡し。
不動産屋に解約の連絡して手続き。
その後に荷物を出して、冷蔵庫とか洗濯機とかどうしよう。処分しようと思ったら以外に金かかるからな。
最後は親だな。
ま、俺の家は放任主義だからそれほど強くは言われまい。
むしろ女性のために全てをなげうった言ったら、逆に喜ばれそうだ。変態だからなぁ俺の家は。
後は貯金全てを家に渡したらいいだろう。
後はそうだな、幻想郷に何を持っていこうかな?
電気通ってるのか?
電波は?水道は?
うーんネットで調べたいところだけど、八意さんが許してくれるかな。
そこで思考の渦から身をあげた。
いい香りがする。今日はなんだろう?これは恐らく・・・ビーフストロガノフ!だと思う!
いいねぇいいねぇ最高だね!
俺は期待で膨張した心を胸に家の扉を空けた。
俺キモス
そういえば最近気付いたけど感想もらったくらいではpt上がらないんですね
素晴らしい!素晴らしい!これは本当に素晴らしい!
これで心置きなく「感想くれ!」って言ぇmas・・・