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1話 そして彼女は来た

えーりん!かわいいよ!えーりん!


雪が降りそそぐ昼下がり、俺は同じ職場の先輩に話を持ちかけた。





「ほう、最近寒気が感じると?」


「ええ、いや風邪とか熱とかはないんですよ」


冬は本番であるが、むしろ秋から冬にかけての期間が一番風邪を引きやすい。

というか冬本番になれば馬鹿をしない限り風邪など引くまい。


先輩は言葉を先回りされたのか小さく「ふむぅ」と呟いた。

普段から鋭い瞳をさらに引き絞り右手の人差し指で軽く唇を撫でている。

先輩独特の癖で何かを考えるとよくこのモーションをとるのだが、傍からみるとかなり怖い。

傍から見るとガンつけているようにも見えなくもない。

視線が異様に鋭い以外は完璧なのだ、顔のパーツもいいし、性格も堅実で気配りできるタイプ。

が、その瞳の鋭さが災いして先輩が何か話すたび、皆背筋を伸ばし直立スタイルをとるのである。

・・・・・主任ですらそうなのだからもはや救いようがない。

そういう俺も最初はその目線にビビッて同時入社した同僚の中で一番腰が引けてたが、今では一番仲がいいのもその先輩である。

世の中わからんもんだ。


そんな先輩は俺の質問を程よく咀嚼したのかこちら目を向けた・・・・・つもりなんだろうな、睨んでる様にしか見えないが。



「もしかして、アレか?」



ぬ、鋭い。

もうちょっと話が二転三転するかと思ったが、いきなり確信をついてきた。

さすが先輩、無駄にハイスペック。

軽く目を見開いている俺に先輩はすっと目を細めた・・・こえーよ

そんな俺には目もくれず先輩は口を開いた。



「幽霊でもでたか?」



そうである。そうなのである。

真に遺憾ではあるがこの俺には多少ではあるが霊感というのが存在する。

別に欲しくもなかったが、母親の叔母にあたる人が昔霊媒師をしていたそうな、胡散臭せぇ。

そしてそれに血の流れを汲んで俺にもそういう才覚に目覚めたといいたいのだが、異能は女に強く受け継がれる性質を持つという。


まぁ端的に言おう、要するに単純に勘が鋭い程度である。

幽霊もほぼ見えない、たまに視線の端に居るはずのない人影が歩いてたり、視線を向けられて背筋が凍ったりその程度である。

むしろ妹のほうが血をよく受け継いでいる。

二人で買い物に行った際、突然悲鳴を上げながら走り出す妹を俺は呆然と見ている事しかできなかった。


そんな事情をしる先輩がその結論に至ったのは別に不思議でもなんでもない、先輩からしてみれば当然なのだろう。

とはいえ、



「うぁ、正解です。いきなり確信突きますかね」


「お前の悩み事なんてそれくらいしかないと思ってたけどな」



うるせぃほっとけ!

心の中で軽く突っ込みを入れ、仕事用の書類まとめる。

今日中にこれを済まさないと帰れない。



「俺にだって色々悩み事くらいありますよ」


「で、いつごろそんなことがあったんだ?」


「5日前くらいの事ですが・・・」





その日俺は目覚ましよりも先に目が覚めた。


(なんだ?)


最初に疑問を持ったのは不思議と冴えた頭と、氷水につかった直後のような寒気。

俺はこの感覚は知っている、幽霊が寝込みを襲ってきたのだから忘れるという作業の方が難しい。


心臓は速く、体は熱く、意識は冷たく

瞳孔が開いた


初めて俺ははっきりとした形で幽霊を視た、視界の端に銀髪の女性が探るような瞳でこちらを見つめていた。




ここまで語ったのだが先輩の反応は相変わらずクレバーだった。



「ふーん、けど前に比べたらましだな」



そういう問題でもない気がするが、俺は話を合わせておく。



「前は完璧に寝込み襲われましたからね」


「で?」



そこで先輩は話を切ってこちらに鋭い視線を投げつけた。



「それくらいじゃないよな?お前はさっき『最近』といったし、そもこの程度じゃ俺に相談すらもちこまないだろ?」



ええい、本当に鋭い。

先輩にとって目の鋭さと物事の本質を見切る鋭さは同類項なのだろうか。



「そのとおりです。それからちょくちょく寒気がして・・・特に朝とかですねぇ・・・・・」



朝夜の境界線。


幽霊とは精神体である。

そして精神体である以上、俺たちに物理的に干渉することは出来ず、精神での干渉が精一杯なのだ。

さらに言うとその精神干渉自体も、人が精神的にも肉体的にも健全であば侵入することすらままならない。

せいぜい相手の精神と意識の狭間でしか干渉出来ず、仮に人が意識してみようとすると霊体自体の精神が人の精神に弾かれ見えなくなる。


なら人が寝てたら無防備では?


と思うだろうが人は寝ると意識と精神が完全に自分という殻に閉じこもり、情報の最適化を行うのである。

その間ほぼ全ての感覚シャットアウトするため、霊体に付け入る隙を与えない。



「しかし・・・朝夜の境界線。覚醒と休眠の狭間、この瞬間こそ霊体が人に干渉する唯一の時間」



それ故に俺はこんなにも苦しまなければいけない。

こんなに苦しいのなら、こんなに辛いのなら・・・



「霊力などいらぬ!」



そんな全身全霊をこめた俺の嘆きを先輩は面倒くさそうに眺めながらポツリと呟いた。



「で?どうすんだ?」



ゆがみねぇ



「とりあえずお札とか張ってみますよ、うちの曾婆ちゃんがアレだったんでそれなりにコネ持ってるんで」


「そうかい、じゃあ一件落着だな」


「しかし嫌な予感しかしないです」


「勘か?」


「勘です」


「そうかじゃあ当たるな」



うぼぁー

デスクに突っ伏す俺を片目で捕らえつつ、先輩は自分の仕事に戻っていった。











目が覚める。

俺は布団を顔まで被りながら再びきつく目を閉じた。



視ている。


誰かが。


布団越しに視線を感じる。


何か居る・・・

俺は札の効力の無力っぷりに歯噛みしつつ、口の中でもごもごと原稿用紙一枚分の文句を呟いて、絶望した。


(こ、怖い・・・)


得体の知れない何かが俺を覗き込んでいるってだけでもうたまらない、勘弁してくれ。

人なら何とかなる、物理攻撃に物を言わせれば済む話だ。


(けど、霊体ってどうしたらいいの?)


俺は霊媒師でもなければ悟りを開いた僧でもない。

一応覚醒状態になれば干渉は早々受けないとわかっていても怖いものは怖い。


(布団からがばりと跳ね起きたら至近距離に怨み積もった女の顔・・・・無理だ!怖すぎる!現状維持!)


そういって再び目蓋に力を入れるも状況はまったく好転しない。

当然である、行動しなければ進展も後退もない。


(し、ししかたない、もうやけだ!1・2・3で飛び起きる、やるぞぉ!)








・・・3!




布団を力の限り跳ね飛ばし、視線があった方向に目を移す。

一気に肺に空気を送り込み、一息に気力を練りこみ、一声により全てを吹き飛ばそうとした・・・・・・・・・はずだった



「ぅ・・・・・ぁ?」



そこには白銀の髪と赤と青を基調とした服を着た女性がたっていた。


彼女の姿を見た瞬間言葉を失った。

吸い込まれるように彼女の瞳を、顔を、全体を見て取った。

心臓が高鳴った、狂おしいほどの情熱で

頭が萎縮した、彼女以外の全てがどうでもよくなって

そして、俺は彼女の声を聞いた。


(いた)



そういって彼女は姿を消した。





何を?

何が?

何で?


あらゆる疑問符が頭の中を渦巻いたが、それを思う自分の気持ちはひどく客観的だった。

それほどまでに俺は彼女に心のあらゆるものを奪われた。




俺は何を考えるもなくベッドに突っ伏した。

ただただ体が休息を求めていた。


勘は当たったのだろうか。それとも外れたのだろうか。

よくわからないまま俺の目蓋はそのまま落ち、同じく意識も落ちた。











「す、すいませんでした!」


そして俺はものの見事に遅刻した。我ながらあほ過ぎる。

直立角度45度の形で頭を下げてる俺に先輩は方眉を上げた。

二人の間に微妙な沈黙が流れる。

最初に口を開いたのは先輩だった。



「昨日言ってたアレのせいか?」



どうやら先輩は昨日のことはよく覚えていてくれたらしい。

ほんと細かいところまで気配りができる人だ。おそらくここで俺が『アレのせい』と一言でいってしまえば先輩は事情を察して何かしら主任に一言言ってくれるだろう。

理解の深い先輩を俺は心底尊敬している。

しかし、だからこそここで甘えるのは俺が許せん。



「いえ、例えそうであっても俺が遅刻した事の理由にはなりません」



先輩の瞳が鋭くなり、俺に不気味な威圧感与えてくる。

それでも俺は視線をそらすことなく見続ける。

いや、今なら全てのものを恐れず見つめれるに違いない。

昨日の出来事は俺の何かを変えたのだった。



「そうか、じゃあ主任に謝ってこい」



そういって先輩は自分の仕事に戻っていった、口元に苦笑のような笑みを貼り付けながら。











そうして俺は出会った。

彼女に一世一代の恋を託した。























そして、彼女は来た

どうも皆様、二次創作は初めてです。

それ以上に怖いです『特定しました^^』って書かれたら・・・

オリならともかく二次は特定されたら死ぬ以外の選択肢が見当たらない

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