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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
庇護の翼
9/33

1.

 グリフに輝く筈であった一つの大きな星は、衆俗の眼前に引き出された。


 王族への畏敬など欠片も持たぬ手で打ち据えられたうえに、国家反逆の罪状を読み上げられる。しかし彼は毅然と前を見据え、刑吏の圧抑を物ともせずに言い放った。


「我が民よ、グリフの民よ。王の暴挙に屈服するな。己が道、己が信じる最善の道を進め。そして、自らの誇りを捨てず、自由を掴み取れ!!」


 まさにグリフの正当な世継ぎとしてのその姿に、貴き血筋を卑しめる為に下された残虐な仕打ちに。集まった者達は一様に涙した。


 黄金の髪の王子に下された刑罪は、『鋸挽(のこぎりびき)


 下層の者に処せられる極刑である。


 刑具に縛り付けられて路上に置かれ、道行く者達に生木の鋸で首を挽かれる。切れぬ鋸で少しずつ喉を裂かれる事による壊死や失血は緩慢で苦しみも深く、死に至るまで十数日掛かる。


 あまりの(むご)さ故、先代の王の治世には廃止されていたものであった。


 その刑罰を、仮にも甥である前王の遺児に下す。


 グリフ王のなんという悪逆非道。民衆は恐怖と共にやるせない憤りを感じていた。


 それが為、刑の執行が宣言されても、誰一人としてざわめきの波の中から前に出る者は居ない。


 皆一様に尻込みし、高貴なる者への冒涜者となるのを恐れた。


 しかし、既に刑は宣言されている。このまま誰も鋸に手を触れなくとも、既に死人とされた王子が刑具から解かれる事はない。


 水も、食料も与えられぬまま、曇天の空の下餓えと乾きによって死んで行くのを待つだけなのである。


 いや、それよりも、業を煮やした刑吏達によって辱めを与えられ、死に至る事になるかもしれない。


 閉ざされた未来を見据えるように、王子は静に民衆を見詰めていた。


 そんな王子の前に、一人の女が歩み出た。


 深く被ったマントのフードに顔を隠し、民衆の罵声を浴びながらも、刑吏から鋸を受け取る。


 そして初めの一挽きをするべく近寄る女に、王子は優しい笑みを浮かべて頷いた。


「頼む」


 これが、彼の最後の言葉である。


 王子の言葉を受け、女はフードを跳ね上げた。


 金の髪、鮮やかな緑の瞳。


 明らかにエルド族の特徴を持つ美女は鋸を投げ捨てると、隠し持ったナイフを振りかざし一気に王子の喉首を掻き切った。


 撒き散らされた血潮に驚愕の悲鳴が放たれ、制止しようとする刑吏の怒声が乱れ飛ぶ中、女は王子の血に塗れたナイフを自分の心臓に突き立てた。


「お供します」


 女はそう呟いたという。



 せっかくの見世物を台無しにされたグリフ王は激怒した。


 事切れた王子と女の遺体をそのまま広場に打ち捨てさせ、王子の首だけを切り取って長い槍の穂先に突き刺し、遺体の側に高く掲げた。そして、『それらが腐るに任せよ』と下しおいた。


 絶える事のない遠雷の響く暗い空の下、群集が遠巻きに見守る中。曝された王子の首と二人の遺体は、兵士達に監視されて近寄る事すら侭ならない。


 死してなお辱めを受ける王子に、人々は再び涙した。


 しかし、四日後。


 広場に落雷が落ちた。


 軽い混乱を収めた兵士達が、遺体と首が消えていることに気がついた。


 首があったはずの穂先には、代わりに一枚の書状が刺されてあり風に揺れている。


 そこには、こう認めてあった。


『我等が真の王を返して貰う』


 折りしもその日、真維達は国境を越えた。



黄金の日々、見た事ありますか?痛そうですよね。あれ。

五右エ門の油揚げとか。昔の刑罰は痛そうで怖いです。

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