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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
消えた魔導士
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4.

 初夏の日差しの中鮮やかなブーケが宙を舞う。


 紺色のドレスに身を包んだ親友がそれを受け止めたのを見て、花嫁は鮮やかに微笑んだ。


「次は貴方の番でしてよ、マイ」


 白い花嫁衣裳の公女は、亜麻色の髪の新郎と共に花を撒かれた道を軽やかに歩み、祝福のアーチをくぐっていく。


 戦時下の不安を払拭する公女の婚礼は、これから二日間の祝宴で祝われる。日ごろの憂さを晴らそうと、カリストの王都は沸き返っていた。


 今日の主役達は幸せを体現して、寄り添い微笑みあう。


 何の憂いも無いかのように、二人が馬車の上から民へと手を振る。


 心の中に硬く閉じた扉を抱えて、夢と笑顔で“本当”を覆い隠して、薄紅の花嫁が走り去っていく。


 本来なら後続の馬車に乗るはずだった真維は、ブーケを見詰めながらそっと溜息を漏らした。


「お願いダイナ……あたしに、本当の答えを出ささせて……」



 

 翌朝、馬車はひっそりと出発した。


 馬車には三人。藍の魔道師、最高位の蒼を持つ邪眼の魔道師、そしてカリスト初の女騎士。


 見送りもまた三人。公子、護衛を兼ねた騎士隊長。少年騎士。


 未明の空の下、公子は真維にブーケを渡されて困惑した。


「マイ……私がブーケを貰って、どうするんだい?」


 首を傾げるセイルロッドに、真維はにっこりとわらって見せた。


「だって、ブーケ貰ったら、速く結婚できるって言うじゃない」


 常に見たいと切望していた陽だまりの笑みに、心の奥が微かに痛む。


「私は、当分花嫁を貰えそうに無いんだがね?」


 つい漏らした皮肉に、一瞬ひるんだ少女は、それでも笑みを消さずにセイルロッドを見返した。


「ごめん、セイル。でも、わがままを聞いてくれてりがとう」


 真摯な言葉にセイルロッドは首を振って微笑んだ。公子としてのロイヤルスマイルではなく。生地の青年として。


「君は、君の道を行くといい。それが一番似あっているからね」


「うん。必ず、ドジ踏んだボケナスを見つけてくるわ」


 そういって笑う真維に、少年騎士のギルがにやりと笑う。


「ドジ踏んだボケナスって、ゼルダ様か?」


「あたりまえじゃん」


 真維の答えを受けて、ギルが笑い出す。


 何時ものように屈託のない笑い声が、別れの空気を吹き飛ばしてくれるのが、真維とセイルロッドにはあり難かった。


 彼は近日、近衛騎士隊長レグナムに率いられて前線に向かう、その別れも兼ねた見送りであった。


 しかし、少年騎士には、初陣への気後れは微塵も無いようである。


「ギルも、がんばって武勲を上げなよ」


 激励に、しっかりと頷く姿には、もう以前の悪戯坊主の影は無い。一人の騎士がそこに立っている。


「まかしときな、グリフをカリストに一歩だって入れねぇよ」


 レグナムに、なにやら指示を受けていたセリフィーが真維に歩み寄り、出発の時を告げた。


「お~け~いこっか」


 明るい一声で一向は馬車に乗り込み、いよいよ本当の別れだと真維は窓外から見上げてくる公子を見つめた。


「クレイス、皆を頼むぞ」


 セイルロッドの言葉に、邪眼の魔導士は静かに頷く。


「善処します」


 相変わらずの返答に苦笑しつつ、渡されたブーケから黄色い花を抜き出して、真維の髪に飾った。


「お守りだ、持っていくといい」


 怪訝そうな顔をする少女に、公子は微笑を深めた。


「その花の名前は“五月”というんだ」


 今の月の名前を冠された花は、小さいが、鮮やかな日の光を思わせる黄色で、可憐というよりは、元気の良さを感じさせる。


「ありがと、セイル」


 車窓から微笑む少女の頬に、祝福の口付けを落として、公子はそっと身を引く。


「では、お別れだ、マイ。行くが良い」


「うん、じゃあね」


 出発の指示を受け、御者が手綱を振り、馬車は動き出す。


 窓から首を出し、手を振りつづける少女に応えながら、セイルロッドは一人ごちた。


「さらばだ、マイ。きっとその花が君を守ってくれる……」



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