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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遺言
32/33

7.

一方その頃

 砦の周りは、退却したグリフ軍の残していった武器や死体で凄まじい有り様だった。


 夜半からの戦いでみんな疲れてはいたものの、やはり遺骸を放置するに忍びなく、兵士達は仲間の遺体を回収するついでに、敵の死体を集めて埋めていく。


 クレイスは宛がわれた自室で出窓に腰掛けてぼんやりとそんな様子を眺めていた。


 一晩中結界を張り続けて、基礎体力の無い体は微熱を出していたし、敵が態勢を整え直して何時戻ってくるかも判らない。


 少しでも、休める内に横になるべきだと解ってはいるのだ。


 だが、どうにも寝付けない。


 それは、戦闘中に感じた奇妙な感覚のせいだった。


「いったい……あれは何なんだ?」


 独り言ちた時、控えめなノックが聞こえた。


「起きてます。どうぞ」


 応えを受けてドアが開かれると、のっそりと長身の騎士が入って来る。


「邪魔をする」


「お久しぶりです。レグナム殿」


 窓から離れて軽い会釈をよこす魔導士に、レグナムも目礼を返す。


 無口な騎士が自分の部屋へ来た理由を考えて、クレイスは苦笑した。多分それは二つ。


「まず、マイ達からの連絡は、三日前に念話が着ました。『全員無事、手掛かり無し』これだけですが、鳥ぐらい操る術を、徹底的に教えておけばよかったと後悔しています。まったく無茶をする」


 ぶっきらぼうな言いように、レグナムは苦笑すると口を開いた。


「まず、とは?」


 お互い少女達の安否が゛気になるのは当たり前。とりあえずは無事と聞いてレグナムは軽く息を吐くと、魔導士が示唆した別の用件に眉を上げた。その仕草は、クレイスの言い種を面白がっているように見えるのだが、こちらも愛想が無いのはいい勝負だった。


「貴方の聞きたい事は、あれ、でしょう?」


 そう言って示したのは、簡易なテーブルの上に乗せられた剣だった。

 しかしそれは刀身が粉々に砕け散っていて、もはや柄ぐらいしかまともな部分は無い。その横には鞘が置いてあった。


「もう、見ていたのか」


 レグナムの苦笑に、クレイスも苦笑で応える。


「戦闘中から、いきなり敵の魔法の感触が変わりましてね。どうにも気になって、持ってきて貰ったんですが、これ単体で解るのは結果だけ。仮説位しか立てられませんよ。検証したいので、もっと原型を留めている物を探して貰っています」


 クレイスらしい物言いに頷きながら、青い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。


「クレイス殿はどう思われる?」


「俺の意見は不用です。憶測は予断を招きますから。必要なのは事実です。今の俺に言える事は、敵の魔法剣は何らかの理由で砕けた。鞘に入ったまま。ということだけですね」


「なるほど」


 学者らしい意見に重ねて頷きながら、レグナムは剣に近寄った。


「では、私も見たままを」


「お願いします」


 レグナムの隊が突入した時、グリフ軍は一斉に剣や槍を振り下ろして構えた様に見えた。戦意を誇示する動作と思われたが、その後妙な事にグリフ兵達に明らかな動揺が広がった。剣を何度も振り下ろして見せる者、呆然と武器を見つめる者、様々で、そんなうろたえた軍勢の中へ、騎士達は飛び込んだのだった。


 決死の覚悟で飛び込んだ隊とうろたえ浮き足立った者達。


 結果は歴然だった。


 戦いはカリスト軍の圧勝となり、日が登り昼にさしかかった辺りで、グリフが撤退していった。


「本当に妙なのだが、敵の武器はニ、三打ち合いをしただけで砕け散った。防具に至っては布の方がまだ切れにくい、といった有り様で、纏っていたグリフ兵のうろたえ様は、いっそ哀れな程に思えた」


 魔法兵器の威力は、この半月でよく解っている。その常識とレグナムの話は真逆。クレイスは眉間に深く皺を刻んだ。


「剣を振り下ろす仕草は、おそらく炎か雷撃を出す為のものでしょう。魔法剣の代表的な遠隔攻撃です。それで突撃の出鼻を挫く筈だった……しかしそれが不発でうろたえた」


 コレが意味する事は何だろう?


 レグナム軍の前で、強力な魔法兵器がいきなり無力化した。


 攻砦戦において、あれほどの猛威を見せ付けたはずなのに。いったい何が起こったのか? 


「クレイス殿、我々は捕虜を数人捕らえてある。捕虜の宣誓をした上で砦の中に軟禁しているもの達だから詳しい情報は聞き出せないが、とりあえず話を聞いてみられるか?」


 随分遠回しな提案だとクレイスは苦笑した。捕虜の宣誓とは、身分のある騎士が自国の情報を渡さない事を前提としての戦闘放棄と投降をすることだから、尋問ができないと言いたいのだろう。


「聞きようはいくらでも有ります。行きましょう」


 苦笑を不敵な笑みに変え、クレイスは騎士と共に部屋を後にした。


偏屈学者がなにやら見つけたようです。

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