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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遺言
30/33

5.

( *´ー`)えっらい時間かかってて、読まれてる方にはすみません。


「僕が最後に見たあの人は、地下道から出てきた大群と向かい合っている後ろ姿だったんだ」


 マーリンは語り終えて俯いた。


 真維にはその時のゼルダが、何に拘っていたのかなんとなく想像できた。多分、子を残して逝った従兄弟の事が浮かんでいたのだろうと。


 ゼルダが家出少年だった頃。国境の紛争地帯へ軍人の従兄弟にくっついていき、戦っていたと話してくれた事がある。


 その従兄弟は、撤退の時戦死したという。たった七歳の娘を遺して。


 彼を助けられなかったゼルダが、長く罪悪感に苛まれていたのを真維は知っている。


「……あのバカ。カッコつけて」


 やるせなさを言葉にして呟けば、セリフィスが覗き込んでくる。


「マイは、やはりゼルダ様が捕らえられていると考えるんですね?」


「もし死んでたら、カリストへの戦線布告は、もっと早かったか、ダイナにあからさまな人質要請が来たと思うわ。カリスト筆頭魔導士の国際犯罪の賠償を理由にね」


 筆頭魔導士代行らしい意見が発されて、セリフィスはドキリと息を飲んだ。


「生きて自由なら、セイルをこんなに長い間放っとくなんてできる奴じゃないもの」


 セイルには超過保護なんだから。と締めくくって肩を竦める。


 筆頭魔導士の公子への忠誠は、側近なら知らぬ者はない。


「確かに……そうですね」


 セリフィスにもまた、ゼルダが寝返り姿をくらませた、なんて邪推は論外だったが、グリフがゼルダの死を隠して、もっと戦況が深まった頃合いにぶつけて明かすのではなかろうか?  そんな疑いも捨てきれない。隠す事ではないから、セリフィスは率直に真維に話した。


「ゼルダ様の死は、軍には打撃です。特に従軍する魔導士達は、かなりの衝撃を受けるでしょう」


 軍人らしい心配に真維は茶色の瞳をくるりと回す。


「フィーはもし今、グリフにゼルダを殺されてたってわかったらどうする?」


「一兵たりとも許しません」


 思わず語気を強めれば、真維がにっこりわらう。


「うん、つまりそういう事。ゼルダが死んでたら、軍の士気はむしろ鼓舞される。弔い合戦だってね。死んだって聞いてがっかりするのは戦争になるまえじゃないと効果ないから。グリフには今頃発表したって証文の出し遅れ。メリット無いのよね。なにしろ、カリストはグリフに全然負けてないんだもん」


 言われてみれば確かにそうだ。セリフィスは肩の力を抜いた。


「こんなホロコーストを隠し通そう、って事で黙ってる可能性もあるけど、あたしはゼルダが生きているのを知ってる。あたしが感じたゼルダの魔力は、歪んで色々混じってたけど、間違いなく生きた人間のものだった」


 ふと低くなった声に真維を見れば、彼女は暗い怒りをその目に浮かべて、じっとテーブルに載せた自分の手を見つめていた。


「絶対、生きてる……マーリンも判ってるんでしょ?」


 問われた少年は大きく頷いた。


「うん、姿を見てはいないけど、生きて捕まってるのは間違いないよ。僕は父さんに絶対ゼルダを助けるって約束したんだ」


 ゼフレムは国境近くの森の中で、エルドの村に匿われたのだという。


 絶対に危ないことはしない、と父と約束して村を出た。


 エルド狩りを逃れる為の堅い結界に守られた隠れ里へ枕も上げれぬ父を預けて、 彼はこの一年城の地下を徹底的に調べ上げた。それは父の希望でもあったし、彼自身、最後に聞いた彼の言葉をゼルダの遺言になどしたくなかったからだ。あらゆる抜け穴、あらゆる亀裂、最早マーリンの知らない場所は無い。


 そして恐ろしい事実も……


「あの地下で死んでたらって思えば、何にも怖く無いけど、今あいつらがしてる事はもっと怖いよ」


 少年の横でノアルが俯いた。


「連中、何をしてるの?」



 不気味な予感に背中がざわつく。


「あいつら。大樹の代わりに、人間の魔力を絞り始めたんだ」


 ノアルは痛ましく首を振り、三人は息を飲んだ。


「以前の比ではない程に、徹底した魔導士……いえ魔力を持つ者達が狩られ、城から運び出される死者の数は凄まじいものです……子供や赤ん坊も容赦はありません」


 絞り出すようなノアルの言葉に、目を見張る三人に、マーリンが追い討ちをかける。


「僕は父さんがくれた護符でごまかしてたけど、お姉さん達危なかったよ」


「自国の民にそんな事をするなんて……」


 かつて自分が組みしていた組織の非道に、ガウディアも憤った声を漏らす。


 真維は呆れ返ったため息を吐いた。


「アウシュビッツも真っ青ね」


 ナチも金歯回収したり、人間の皮でバッグ作ったりしてたからどっこいか?  なんて埒のない事を考えて、人間はどこまで残酷になれるんだろうなどと思う。


「助け出さないと」


 真維の横で正義の騎士が拳を握り締めて息巻いた。


「そうだねフィー。ねぇマーリン。ゼルダも、その中に居るの?」


「ううん、材料にされる人達は地下牢に押し込められているけど、ゼルダは別の所。僕達が居た大樹のホールを塗り込めて閉じ込められているみたい」


「つまり、ゼルダも材料なんだ……」


 真維の声が一段と低くなった。

次回も未定です。すみませんすみません

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