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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遺言
29/33

4.

「ねえマーリン。あんた男の子なの?」


 白いドレス姿を眺めて、真維が思わず口を挟む。横に座ったセリフィスは、突っ込みどころはそこなのかと思ったが、口には出さない事にした。


 聞かれた子供は、相変わらずあっけらかんと頷いた。


「うん。これ変装。僕、一応お尋ね者だから」


「へ~そうなんだ。それにしても、ゼルダらしいわね~どうせ病気なんてハッタリでしょ?」


 笑えば、マーリンも頷いた。


「うん。栗の渋皮貼り付けたんだって」


「やっぱり~」


 ケラケラと真維は笑った。マーリンの境遇に同情を示すのはなんとなく憚られたし、彼の語る魔導士は実にゼルダらしい。セリフィスとガウディアもまた、クスクスと笑いを漏らした。


「お姉さん達はゼルダと親しいの?」


「親しいっていうより。迷惑掛けられてた、っての?  あのバカに」


 真維の言葉にマーリンとノアルが目を丸くする。高位の魔導士をバカ呼ばわりすることに驚いたらしかった。


「ゼルダ様はマイを一番気に入って居ましたよ」


 セリフィスがとりあえずフォローを入れたものの、当の真維は顔をしかめた。


「え~あれで?  あいつすぐからかうんだよ」


「厚遇ですわ、気に入らない相手は無視ですもの」


 ガウディアもとりなしに回り、真維は肩をすくめた。


「ま、セイルもダイナも、それにフィーとクレイだって、からかわれてたもんね」


「お義兄さんや隊長もです。ギルなんて、遠くで姿を見かけただけで逃げてましたし」


 にっこり笑うセリフィスに苦笑で返して、自分たちを見つめる二人に向き直った。


「マーリン達はゼルダが地下から逃がしたの?」


 その問いに、呆気にとられていたマーリンは慌てて頷いた。


「うん。ゼルダが大樹を燃やしたの」




 ゼルダは三日程虜囚に混じって、機会を伺っていたらしい。


 ある日彼はマーリンにこう囁いた。


「今からあの木を焼く。離れてろ」


 驚く少年を父の側に突き飛ばし、間髪を入れずに紅蓮の火球を枯れ果てた大樹に叩き込んだ。


 炎はあたかも意志があるかのように大樹を一気に包み、マーリンには、まるで木が炎のドレスを喜んで纏ったように見えたという。


 きっと、大樹はあの炎を待っていたんだ。突然の火災に騒然となった地下の中で、父を助けながら、マーリンはぼんやりと考えていた。枯れ果てながらも、なお力を絞り穫られ続ける苦しみから逃れる為に、炎の中で消える事を選んだのだと。


 ゼフレムとゼルダにはあらかじめ話しが付いていたらしく、父はマーリンの肩を借りて立ち上がると、逃げる為に監視が開いた扉の横に向かって、ゼルダと共に武術魔法を放ち出口を広げた。


「動ける者は、病の者を助けて逃げてくれ!」


「邪魔する兵隊は武術魔法でぶっ飛ばせ!」


 ゼフレムとゼルダは口々に叫びながら、全員の脱出を促し、高い天井を焦がす程の火柱となった大樹の地下室をしんがりとして後にした。


 部屋を出る瞬間、『ありがとう』と言う小さな声が聞こえた気がしたとマーリンは言う。


 振り向けば、木の側にエルドの子供が立っているような気がしたが、その姿は瞬きの間に消えて、彼には目の錯覚だと思えた。


「お墓に通じた地下道で、僕らは逃げたんだ」


 外へ飛び出した虜囚達は、蜘蛛の子を散らすように街の中へ消え。ゼフレムは強力な結界を張って、追っ手を阻み全員を逃がした。


 しかし、ゼフレムが立って居られたのはそこまでで、マーリンにも逃げろと言ったきり、膝を着いて動けなくなってしまった。


「私はここで追っ手を食い止めます。ゼルダ殿、息子を頼みます」


 動けない自分は足手まとい、死兵となってこの場に留まり、健常な二人を逃がそう。ゼフレムはそう覚悟を決めていたが、ゼルダの考えは違っていた。


「親がガキを置いて逝ってどうする! それにな、殿しんがりってのは一番生き残れる奴がなるもんだ」


 ゼフレムに言い放ち次いで低く呪文を詠唱し始める。マーリンには聞き取れなかったが、ゼフレムは驚きゼルダに手を伸ばした。


「いけない! それでは貴方が!」


 言い終わらないうちに親子の周りを光が取り巻き、直ぐに渦となって巻き込まれた。そして光が消え去った時には、親子は国境近くの森の中に居たのだった。とんでもない程距離のある転移魔法だった。


 しかし、それほどの魔法を放ったゼルダは、その場には居なかった。結界を維持する為に残ったのだ。



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