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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遺言
28/33

3.

 一年前、グリフはいきなり魔導士とエルド族を狩り出しはじめた。その理由は、城の地下深くに移植した大樹から魔力を引き出し、武器に付与した魔法兵器を作る為だった。


 魔力を持ちある程度使える者達は皆、城の地下に閉じこめられ製造作業に付かされた。マーリンの家族もその中に居たのだと、魔法で沸かせた茶を出しながら真維達に語ってくれた。


 未だ警戒を解かないノアルに半ば睨まれつつ、粗末なテーブルに着いた三人は当時の状況を教えるマーリンの声にに聞き入る。



 マーリンの父。ゼフレム・オーケンシールドは、グリフ王宮の第一魔導士だったそうだ。


 だからこそ、真っ先に狩られる事となったのだと云う。


 彼の地位を狙い、魔法兵器で新国王に取り入ったヒトラ家の三兄弟に陥れられたからである。


 彼は姦計に嵌り家族すらも巻き込んでしまった事を自らの不徳と恥じ、陥れた者達への恨み言は一言も口にしなかった。


 そしてただひたすらに、家族や同じように捕らえられた人々を守ろうとしていた。


 監視の兵士への交渉や、力尽きて倒れた仲間への励ましや保護など、彼は必死に働き己を顧みる事すらしなかったとマーリンは悔しげに語る。


 しかし、それも虚しく。


 まず幼い娘が兵士に蹴られた事が元であっけなく身罷り、その悲しみと地下での監禁に弱った妻が、牢内に蔓延し始めた病に罹り息を引き取った。


 さすがに打ちのめされたゼフレムは、失意に倒れ、妻と同じように病に伏した。

 

 だが、牢内で最も高い魔力と魔法知識を持つゼフレムを監視達は休ませ様とはせず、作業を続けさせる為に鞭打つ。


 既に大樹も枯れ果て作業は遅々として進まず、監視の鞭打つ音が虜囚のひしめく牢内に響いていた。


 マーリンは父を守ろうと監視に食ってかかったが、冷酷な兵士の鞭に打ちのめされた。


 妹のように自分も殺されるのかと覚悟した時、兵士の後ろから声がかかる。


「止めとけよ。そんなガキでも大事な働き手だ。作業が遅れて武器の出荷が滞れば、処罰されるのはあんた達だろう?」


 そこには目深にフードを被り、全身を黒いマントで包んだ魔導士が静かに佇んでいた。


 残忍な楽しみを邪魔された兵士は、今度は身の程知らずな仲裁者を餌食にしようとしたが、魔導士はゆっくりと片手を突き出した。その手が異様な瘡蓋(かさぶた)に覆われているのを見て、兵士達に慄きが走る。


「見ての通り(らい)だ。触ると感染るぜ」


 無知な兵士にも、癩が触れねば感染しない知識はあるようだったが、業病にかかった者に近寄る無謀を冒す者は居ないようで、早く作業を進めろと言い捨てて引き下がった。


「ありがとう、おじさん」


 マーリンは命の恩人に近寄って礼を述べた。


 癩など明日をも知れない牢の中ではどうでもいい。父を助けてくれた事の方が大事だった。


「頑張ったな。けど、おじさんは止めてくれよ」


 フードの下で笑いかけてくる魔導士の顔が、瘡蓋に覆われていてもかなり整った男なのが印象深かった。


「貴方は……!」


 背後で父が息を飲むのが感じられた。


 薄暗がりの中で、魔導士がゼフレムに笑いかけてかがみ込む。


「話しは後だ。まずは兵隊さんを黙らせとこうぜ」


 地下に捕らえられてから初めて、父が愁眉を開いて笑った。


「はい、では……」


「後の為にお前さんは寝ておけ、呪文はさっき聞いたしな」


 起きようとするゼフレムを抑えて、魔導士はマーリンに目を向けた。


「代わりに坊主が手伝ってくれよ」


「坊主は止めてよ。僕はマーリン」


 いっぱしな返事に魔導士は笑って立ち上がる。


「そうか、俺はゼルダだ。よろしくな」


 これが、マーリンのゼルダ・カドフェルとの出会いだった。


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