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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遺言
27/33

2.

 他の二人も口々に挨拶を言いながら中へ入ると、マーリンは三人を促して奥へと入って行く。


『招かれざる者、この扉を潜りし時に呪われよ』


 物騒な呪文が書いてあるのに、やっぱり叩き壊されている最奥の扉を潜ると、そこは何も無い小部屋だった。


「この御時世、魔導士の呪いも鼻で笑われちゃうんだよね。特にグリフでは」


 しかし、各地から難民が押し寄せ、森にすら掘っ立て小屋を建てて居座る今のグリフ王都で、空き家に誰も近寄ろうとしないのは、やはり魔導士の呪いの威力なのだろう。


「ちょっと待ってね」


 床にしゃがみ込んで何やら始めると、程なく床板が持ち上げられ、その下には地下へと続く階段が現れた。地下で出会った子供は、実生活も地下に居るらしい。


「さ、どうぞ」


 にっこり促してマーリンは先に立って降りて行く。


「中にみんな入ったら、最後の人が閉めて閂掛けてきてね?」


 あっけらかんと言われて、三人は苦笑しながら後に続いた。


 階段は蓋を閉めてしまっても、床板の僅かな隙間からの光がぼんやりと照らしてくれて、足元に不安はなかった。


 慣れた足取りのマーリンの後ろを、おっかなびっくり降りて行けば、程なく木の扉に突き当たる。地下室らしいその中は、完全な暗闇だった。


「今度はこっち」


 しんがりのガウディアが入ったのを確認したマーリンは、扉に施錠してから真維に声を掛けてきた。


 地下道でも薄々感じていたが、この子供は完全な闇の中でも、周りが見えているらしい。


 生憎全く見えない真維は、お手上げのポーズで肩を竦めた。


「どっち?」


 地下室はたいして広くは無いらしく、数歩で扉が開く音がした。


 まるで重い板を動かしたような音だと思った通り、壁の一部分がどんでん返しにたなっていて、そのむこうから光が差す。


 地下道の時の様に、完全に闇に慣れた状態では無かったから、それがぼんやりとしたランプの光だと判る。


「マーリン?  お帰りなさい」


 不意に、柔らかな声が、開いた壁の向こうから聞こえてきて、逃げ場の無い小部屋の中で、三人はとっさに身構えた。


「お客様だよ、ノアル」


 後ろの三人の様子など気にせずに、マーリンが中の人間に屈託なく声を掛けて歩き出す。真維は慎重に後に続いた。


「お客様?」


 薄暗いランプに照らされた室内には、警戒も露わに立ち尽くしたエルド族が居た。


「城の地下道で拾ったの、ゼルダを探してるんだよね」


 マーリンの言葉に、ノアルと呼ばれたエルド族は、その独特な翠の目で真維達を探るように見る。


「ゼルダ殿を探している?  カリストの方ですか?」


 またもや出てきたゼルダの名に、真維は唇をひきむすんだまま頷く。


 背後でセリフィスが同族を食い入るように見つめている気配がした。


「閉めるから、みんな中へ入って」


 威嚇し合う猫のような四人へ、苦笑混じりにマーリンが言う。


「あら、失礼しましましたわ」


 慌ててしんがりのガウディアが中へ入ると重い音を立てて壁が閉められた。



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