1.
その家は、魔導士の家だとセリフィスは言った。
半壊してはいるものの、母家と円筒形の蔵のような煉瓦の建物といった佇まいに、真維もクレイスの家を思い出した。
マーリンと名乗った子供に地下道から助けられた三人が、そのまま子供の家まで案内されての感想である。
この家に来たのは、他に当てがなかったからだ。
前王派達の内通が確定し、真維のグリフ潜入が知られた以上、もうあの宿屋に戻る訳にはいかなかったし、迂闊に街を歩くのも危険だった。だから、マーリンの提案に乗ってついて来た。
誰もかれも信用出来ない状態だから、多少軽率な気もしたけれど、それでもゼルダを知っていると言う言葉に、一縷の望みを賭けてみたのだ。
母家の、明らかに人によって叩き壊された扉は、上半分だけが蝶番にしがみついて揺れていた。
この家で何があったのか、容易に想像がつく。
「どうぞ~お入り下さい~」
扉の下を潜り抜けて、マーリンがにこやかに招き入れる。
「お邪魔します~」
おずおず、というよりも、むしろ警戒しながら真維は扉を押し開けて中へ入る。無人の家特有の埃の匂いが鼻についた。
「こっちは使ってないんだけどね、ま、はじめましてのお客様は、やっぱり正面玄関から?」
そう言う子供は、無残な室内を背景に、白いスカートを広げて膝を屈め、屈託無く頭を下げた。
「いらっしゃいませ♪ ようこそお越しを」
そんなマーリンの姿に混乱と同時に痛ましさを感じる。
「ご丁寧にどうも~」
この子が自分達を騙していて、ちゃんと家が有る子供ならいいのに。マーリンに吊られてお辞儀を返しながら、真維は頭の隅でそう思った。