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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
求めし者
20/33

2.

明けましておめでとうございます


 豪雨は激しく屋根を叩き、廊下を歩く足音さえ掻き消される。


 あちこちに水溜りが出来ているのは、火事や崩落の為に亀裂の入った天井からの雨漏りらしい。


 外もそうだが、中もしっかりお化け屋敷の様相を呈している廊下を歩きながら、真維は嫌味なほど大きな溜め息を吐いて見せた。


「やれやれ……どうしてあんなに石頭なんだろう?」


 独り言のように呟いて、もう一度溜め息を吐く。もとより、後ろを歩くタイラーなる人物の返事は期待していない。それに、本気でエルンストを気にかけている訳でもない。


 これは、この男の注意を自分に向け、仲間が動きやすくする為だけにしている事だった。


 だが意外にも、タイラーは同じように溜め息を吐いて、しみじみと喋りだした。


「しょうがないんですよ、残党を纏める為に、隊長は苦労しておいでですから……」


 乗ってきたと内心ほくそえみ、それでも憤っている態度は崩さぬよう注意しながら、後ろの男に向き直る。


「それにしたってね~。人の肩書き充てにして、無理にでも手伝えってのは無いでしょう? おまけに、見張り付きで軟禁でもするつもり?」


 強気に睨み返してくる少女に、男は目を見張った。


「あのう……軟禁というか、監禁というか……とりあえず、部屋はいっぱいあります」


 でかい屋敷だ、半分焼けていても確かに部屋は多いに違いない。しかし、捕虜にした相手に返す返事ではないだろう。逆に真維の方が呆れてしまう。


「何それ……?」


 茶水晶の瞳にまっすぐに見つめられ、灰色の目をした青年は、気弱そうな表情を浮かべてたじろいだ。


「いえ……あの……」


 男の後方、目の端に、影が動いたのが見えたが、マイは完全無視を決め込む。


「あんた、ほんとに部隊員?」


 呆れた声に、タイラーは照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。


「はい……一応、エルンスト様の副官をしています……」


 役職と態度にギャップがありすぎる……


「ま……いいか」


 業とため息をついて、真維は肩を竦めた。


「あんたって、変」


 呆れた口調で言ってやると、タイラーは更に困った様子で、僅かに頬を染めて頭を掻く。


「はぁ、よく言われます」


 まあまあ、可愛らしい。真維は初々しい仕草にさらに呆れた。


「でしょうね、よ~く判るわ」


 うんうんと同意しつつ、言葉を繋ごうと口を開いた瞬間。襟元に冷たい雫が飛び込んだ。


「うきゃっ!?」


 思わず首を竦めると、気遣わしげに屈み込んできた男が、そのままぐらりと崩折れる。


 その後ろには、にっこりと微笑む緑と青の二対の瞳。


「真維、無事ですか?」


 ふわりとガウディアが真維の肩を抱きしめる。


「大丈夫? 何もされなかった?」


 どうやら、もう少し様子を見るつもりが、雨漏りに驚いた真維の悲鳴で、不埒な真似でもされたかと思ったらしい。


「えっと……あははは。タイミングい~のかずれてんのか……」


 手際の良過ぎる二人が、既に細紐でタイラーを縛り上げていくのを眺めつつ、つい苦笑が漏れる。


「ま、とにかく、こいつここに転がして置けないよね。抜け穴なんかも聞いてみたいし」


 どうしたものかと首を捻りつつ、辺りを見回すと、白い腕が、つい、と伸ばされる。


「それでしたら、その先の部屋がよろしいですわ。だれも居ませんのよ」


 二つ先のドアを示してガウディアが微笑む。どうやら、既に調べてあるらしい。


 いい女というものは、用意もいいのだ。


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