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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
消えた魔導士
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1

 カリスト公女、ダイナ・フラルウ・カリストーナにとって、最愛の婚約者の失踪は、人生そのものにつけられた大きな痛手であった。


 常に傍らにあり、どんな我儘でも笑って聞いてくれる。


 甘やかすばかりだった年上の幼馴染。


 二年前。幼い頃からの許婚であったグリフの王太子が死んだとされ、グリフ政変の中で婚約が立ち消えたとき、兄の親友である彼が求婚してくれた。


 腫れ物を扱うような貴族達の態度の中、彼からの救いの手に天にも昇る心地だった。


 そして彼は理想の恋人となってくれた。


 手ずから育てた花を贈ってくれ、常に甘い囁きと優しい腕で包まれる。


 元の許婚ともこれほどの恋は出来なかっただろうと親友に語り、ダイナは甘い蜜月に酔ったものだった。


 だからこそ、共に築く未来を信じて疑わなかった二人目の婚約者の突然の失踪は、柔らかくいとけない心を打ち砕くのに十分な衝撃だったに違いない。


 追い討ちとして口さがのない宮廷雀たちが、二度も相手を失った公女の不幸を皮肉な視線で揶揄し、「男を破滅させる災厄」とまで陰口をささやいた。


 心無い噂に、はじめの数ヶ月彼女は憔悴し病床に臥した。


 兄の婚約者となった親友に心からの看病を受けても、公女の絶望は深く回復は遅い。


 失踪の理由を知らないが故に、ダイナは自分が捨てられたのだと思い込んでいたからだ。


 彼女の兄を含め、その周りの近しい者達は、公女に真実を明かす事も出来ず、ただ手をこまねいて見守るほかに術を持たなかった。


 だが、どんな冬にも春は来る。


 絶望に打ちのめされた小さく凍えた心を解かし、暗く閉じ篭った部屋から明るい光の庭へ。


 公女の微笑を取り戻したのは、自身も春風に例えられる優しい心の青年である。


 ゼルダ・カドフェル無き今、公子の片腕として国を支える優秀な文官であった。


 筆頭魔道師が行方を絶って一年。


 必然的に自然解消となった婚約と共に憂いは消えたかの如く、公女は新たな婚約者の側で以前と同じ微笑を浮かべている。




 心の奥の大きな穴に、硬く扉を閉めて。


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