6.
強い刺激臭を感じて、意識が浮き上がる。
ガンガンと痛む頭にうめきながら、真維はゆっくりと目を開けた。
「!?」
見知らぬ男の顔を見て、瞬時に体がこわばる。
「アキハ筆頭魔導士代行殿。ご安心を、我々は味方です」
悲鳴でもあげると思ったのか、少女の口を押さえて、男が囁く。
自分の素性を知っている相手に、恐怖が湧きあがる。だが、真維はそれを懸命に堪えた。
何をされるか判らないが、とにかく、今騒ぐのは、相手にも自分にも、得策ではなさそうである。
真維はゆっくりと頷いた。男の手が離れる。
「お久しぶりです、私の事は、覚えておられますか?」
静かな声に、首をめぐらすと、窓辺にたたずむ男が居た。
高く髪を結い上げたシルエットに、一瞬心臓がはねる。
だが、その髪は黒く。長さも肩ほどまでしかない。それに、体つきは無骨な武人の巨躯である。
「誰?」
怯えているのを悟られないように、勤めて静かな声を出す。
「エルンスト・マクガイヤー。アルムレイド殿下にお仕えするものです」
閃光と共に雷鳴が轟き、エルンストと名乗った男を浮かび上がらせる。
輪郭だけのその姿は、なにやら得体の知れない無気味さを感じさせ、不吉な影として、真維の眼前に迫ってくる。
真維は、すべてが変わっていく予感に、ふと、身震いをおぼえた。