表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遠き雷鳴
17/33

5.

今回は回想編

一人称です

 ゆらゆらと揺れる水面のなかで、あの日の会話が繰り返される。



『おめでとー、ゼルダ』


 そう言ってやったら、驚いたように振り返った。


『嬢ちゃん……』


 冬枯れた花壇の真ん中。いつものように花壇にしゃがみ込んでいる筆頭魔導士。


 いつもとおんなじ光景。


 だから、いつものように軽く言おう。そう、絶対に気が付かないように。


『聞いたわよ、プロポーズしたんだって? ダイナに』


 あれ? あんまりうれしそうな顔しない。って……希望的観測? 


『……早耳だな……』


 なんだ、驚いてるだけか……ちがう、そんな事考えたくない。


『まーね、この真維様の情報網を侮っちゃぁいけませんぜ。って、実は本人に聞いたの』


 おどけて肩をすくめて見せると、綺麗な顔が苦笑する。


『そっか』


 言わなきゃ……友人として、今居る場所を守る為……


『いーい? ダイナ泣かしたら承知しないわよ』


いつもの余裕の笑みが浮かぶ。


『お~こわ』


『当たり前よ、親友なんだからね。ダイナには、幸せになってもらいたいの。その相手が、あんたみたいなスチャラカ野朗なんだから、心配するのは当然でしょう?』


 そうそう、その調子。


『浮気したら、この真維様が絶対許さないって、肝に銘じておきなさいよ』


 広い肩が竦められて、蒼い髪が揺れる。


『へいへい、承知仕りました』


 癪に障るぐらい余裕の笑みで頷いてくる。


 さあ、続けろ、黙ったらやばい。


『本当に……幸せにしてあげてよね。あたし、あんなに幸せそうなダイナの顔見たの初めてなの。悔しいけどね』


 悔しい? 何に? 駄目だ、考えるな。


『だから、あんたが清~く身を保つって誓うんなら、あたしの大事な親友を、あんたにあげるわよ』


 そう、悔しいのはダイナを取られるから。あたしの大事な親友。桜色のお姫様。敵わないくらい純粋に、魔導士に恋をしている女の子。


 悲鳴も痛いのも飲み込んでしまえ。


 彼女の為なら、なんだっできる……そうよ、絶対。


『女の友情は堅いもんだな……』


 深い琥珀……痛いような視線。


 真正面から受け止めてやる。でないとあたしは自分に負ける……


『今ごろ判ったの?』


 得意そうな顔になってる? どこも綻んでない? 人一倍聡いこいつに、あたしの中を気が付かれたくない。


『お見逸れしました。ま、心配しねぇで大船に乗ったつもりで居てくれよ。誠心誠意、花嫁を大切にするって』


 花嫁……この言葉が重いなんて、初めて判った……駄目。考えるな。


『それに、お前さん以上に、こわ~~~いお方が後ろに控えていらっしゃるからな』


『あ、そ~か。殿下だね』


 くつくつ笑いながら片目を瞑る。気障な仕草が気障にならないこいつの特技。


『ま~な。もし女官と一緒のところを見たら、問答無用で切り捨てる。とさ』


『殿下なら、そう言うだろうねぇ……それにしても、よく許してくれたわねぇ』


『そりゃあ、日ごろの献身と、長年の友情に応えてくれたのさ』


 思わず笑ってしまう。こいつはいつも、あたしを笑わせる。どんな気分の時だって……


『よく言うわ』


『それに、あいつも、そろそろ自分の花を、花壇に植えるつもりらしいしな……』


『へ?』


『で? 嬢ちゃんはどうなんだ? 目ぼしい男はうじゃうじゃ居るぜ』


 目ぼしい男……ねぇ。居た、けどね……だから、駄目だってば。


『痛い事言ってくれるわね。あ~あ、ダイナにさき越されちゃった』


 これ位なら大丈夫。


 ほら、笑ってる。


『そうか? 気を落としなさんなって、お前さんにも、時期に、白馬に乗った王子様とやらが現れるさ』

 そのまままた花壇に向き直って蹲る。


『さてと、俺は早くこれを植えちまわないとな』


『なにしてるの? 冬囲い?』


 覗きこんだ手元には、何かの種がある。


『こんな冬のさなかに植えて、大丈夫なの?』


 魔導士の横顔がゆっくりと笑う。花にだけ見せる優しい笑みが、あたしの心をかき乱す。


『この花はな、今植えて、雪の下でゆっくりと育つんだ……そして雪解けと一緒に芽が出る。だが、そっから先もゆっくりでな、花が咲くのは五月かな?』


『へ~、あんたが作ったの? 相変わらず趣味に生きてんね』


『ああ、こいつには結構手間がかかったぜ。ただし、丈夫でな、一旦花が咲いたら、一月まるまる咲いているんだ』


『ふうん……でもなんで?』


 妙な事に気が付いた、何かを花になぞらえるのはこいつの癖だけど、ちょっとずれてる。


『何が?』


『ダイナの誕生日は六月でしょ? ダイナは六月には結婚式だって言ってたから、五月じゃ使えないじゃん』


 魔導士が笑う、悪戯っぽく。こいつらしい、いつもの仕草。


『い~んだよ、これは自分の為に植えてるんだ……』


『それでも変だよ。あんたは四月生まれじゃない……あ、そ~か、真ん中取ったのね?』


 意外そうな顔して、こっちを見る。で、また笑い出した。


『そうだな……そうかもな』


 妙な言い方。まあいいや、気にするな。


『どんな花が咲くのかなぁ』


『俺も知りたいんだ……』


『自分で作ったのに?』


『こういうものは、花の方から見せてくれるのを待つのが楽しいんだぜ』


 そう言って、また優しく笑う。


 ……花の名前、聞きそびれたな……


 ゼルダ。


 こんな話の一月後に、殿下の暗殺未遂があった。そして、プロポーズ……


 あたしを愛してくれる人が嬉しくて、あたしはそれを受け入れた。


 そして、あんたは消え去った……


 ねぇ、ゼルダ。


 あんたは全部知ってたの? 


 すべてを見越していたの? 


 教えてよ……ゼルダ……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ