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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遠き雷鳴
15/33

3.

 王が代替わりした場合、先代の側近は二つの選択肢を持つ事になる。


 一つは新たな王に阿り、保身を保つ事。一つはあくまでも先代への忠誠を貫くこと。


 円満な世代交代ならば、後者でも十分家は成り立つ。むしろ、忠義者よと誉れを受けるだろうが、今回のグリフでは、そういは行かない。


 丘の上の廃屋敷は、先代の側近の持ち物だったらしい。


 その貴族は、王の病死を暗殺だと言い放ち、今のグリフ王に謀反の疑いを掛けられて獄死した。


 獄中で、その貴族は、グリフ王への呪詛を呟き続け、現王が死ぬまで、自分の目は閉じないであろうと言い残したそうだ。


 その無念は、三年経った今もなお、冥界からの怨嗟の呟きとなって、この屋敷に蟠っている。というのが、巷での噂である。


 実しやかに、夜な夜なその貴族の影が、窓辺に浮かび上がる、なんていう怪談まで流れていた。


「ホーンテッドマンションだわね……」


 故郷の超有名な娯楽施設の、人気アトラクションを思い出して、真維が呟く。


 雷光に照らされてもなお、黒い影となって、無気味に静まり返っている廃屋敷は、放火により半ば崩れ、すすけたレンガの壁を晒す、正統派のお化け屋敷だった。


 荒れ果てた庭に足を踏み入れ、人気の無いことを確認する。


 他国との戦闘を繰り返し、その強大な軍事力を作り上げる為の秘術によって、魔法のバランスを欠き、天候も荒れに荒れているグリフでは。肝試しに乗り込もうとするような、物好きも居ないようだ。


 ガウディアの指示に従い、三人の影が屋敷に近づく。割れた窓から、ひらりと飛び込む二人に続いて、少しばかりもたもたと、真維がよじ登る。


「大丈夫ですか?」


 手を差し伸べてくれるセリフィスに、目顔で礼を言って、どうにか室内に入り込む事ができた。


 屋内は、外より更に暗い。当たり前である。


 真維は何度か瞬きをして、闇に目を馴染ませる。


「客間のようですわね……」


 煤けた壁と、ぼろぼろになった天蓋付きの寝台を見ながら、ガウディアは何か別の気配が無いか探っているようだ。


 セリフィスも同じようにしているのを見て、真維もそっと意識を伸ばしてみる。


 意識を自分の体から放して、ドアの向こうへ。廊下をたどって階段を探り、さらに階上へ……魔導士ならではの芸当だ。


 クレイスとゼルダが、魔導士としての意識の持ち方から叩き込んでくれたから。


 特にゼルダは、普段のスチャラカさが嘘のように、真剣に心構えや有事での対処の仕方等、実践的な事を教えてくれた。


 それが今役に立っている。


 わずかな魔力で済むこの術は、今でも魔導士狩りをしているグリフ軍にも感づかれないが、一つだけ困った現象があった。


 日に数度、王城の方から大きな魔道の波動が発され、こちらの意識をかき乱すのだ。


 多数の魔導士の魔力が溶け合った波動は、どこか遠い悲鳴のようで落ち着かなくなる。酷い時には気分すら悪くなる有様だった。


 女神の大樹から、魔力を吸い上げ、武器に付与する秘術が行われているのに違いない。


 魔導士として成長し、鋭敏になった神経には、自然の摂理を捻じ曲げるグリフの秘儀は、不快そのものである。


 そして、丁度階上に意識を伸ばしかけた時、また、それが始まった。


「う……」


 慌てて意識の腕を引っ込め、波動を遮断するが、剥き出しの意識で触れた、歪んだ魔道の波は、激しい嘔吐感と眩暈を誘発する。


 口を押さえていきなり蹲る少女に、女騎士は慌てて駆け寄った。


「真維。また、『あれ』ですか?」


 セリフィスに頷きながら、声も出せない。


 涙が滲む。


 不快感に混乱する思考の中で、真維はもう一つの感情を持て余していた。


「……ふぃ…………」


「なんですか? 真維」


 親友の腕を掴みながら、茶水晶が潤む。


「見つ……けた!」


「何を?」


 覗きこむ翡翠に、真維の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。


「ゼルダ―――」


 どうにかそれだけ搾り出し、真維は失神した。


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