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蒼の封印  作者: 鈴村弥生
遠き雷鳴
14/33

2.

 ひっそりと寝静まった町並みを、黒い影が過ぎっていくのが、雷光の中に浮かび上がる。


 影は三つ。


 巧みに影を縫い、闇に身を沈めていく。


 月も星も無いただ暗いだけの夜。ほんの刹那の雷光に浮かび上がる街路を見定めて、次の目標へ走る。


 燈明も、ましてや魔法で呼び出す灯りも使えないが、それでもぼんやりとした輪郭は、闇の中でも見ることができた。


 物陰に身を潜め、ガウディアが次の目標までの安全を確認する間、真維は闇に慣れた自分に苦笑する。


 召還魔法実験の失敗によって、理不尽にも引きずり込まれたこの世界。しかも帰る方法が判るまで、ここで暮らせと強要され、仕方なく生活を始めた当初。夜の暗さに閉口したものだった。


 夜道を煌々と街路灯が照らし、家の中では常に明るい電灯が闇を払う自分の世界。


 曲がりなりにも日本の首都に生まれ育った彼女には、灯りの無い夜など信じられなかった。


 いや、勿論、ランプの明かりは在るし、彼女の元保護者のクレイスなどは、夜の読書をしやすくする為に、魔法で光球を呼び出していたりもした。


 カリストの王都には、他の村や街には見られないほどの規模で、灯篭の様に街路灯が設置されている。専用の係りの者を措き、夜中途切れなく灯を灯すのだ。


 だが、それでも暗い。


『カリストは暗いんだ』などと冗談めかしてぼやいたこともあった。


 あまりに闇に慣れていない目は、クレイスに鳥目を疑われたほどである。


 それがどうだろう。


 今では雲内放電の鈍い光で浮かぶ、街の様子を見て取れる。


 星明りで夜道を歩くのに不自由も無い。


 人間というのは慣れるのだ。


 魔法の期限によって、とうに元の世界に還る術は無くなった。しかし、自分は既に、この世界に馴染んでいる。


 友人を作り、恋を知り、涙を知り。求婚を受け、婚約者の横で微笑むことを覚えた。


 そして今、すべての答えを求め、道を定めて走っている。


 我侭だと非難する自分がいる。心の奥で。


 セイルロッドの横で学んだのは、自分を制御する術だったから。だが、もう止まらない。


 止まれない……


「いきます……」


 ガウディアの密やかな声に、真維は物思いから醒めた。


 無言で頷いて、細い肢体が軽やかに翻るのを見詰め、そのまま後に続く。後続のセリフィスもまた、鍛え上げられた動きで、音も無く石畳を駆け抜ける。


 目指すは最奥。丘の頂上付近にある屋敷である。


 


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