無垢なる被食者に捧ぐるレクイエム
若干グロかも。苦手な方はご注意ください。
その小さき者は、一対のつぶらな瞳で、俺を見上げていた。
自らに訪れる運命を知ってか知らずか。身じろぎ一つすることなく、身の丈数十倍にはなろうかというこちらのことを、正面から見つめている。
俺はこれから、この者を、喰う。
ただの一言も発することのない無表情に浮かぶのは、恐怖か、恨みか、諦念か。いや、そこからは、一切の感情が抜け落ちている。
今や身を包む物を全て剥かれ、露になったその肌は、健康的によく焼けている。身体にはそれらしい膨らみもなく、年端も行かぬ未成熟な個体であることを窺わせる。
か弱き者。しかし食うと食われるは世の摂理。
かけるべき情けというものがあるならば。せめて、余すところなく喰らい味わい尽くして、その全てを我が身の糧としよう。
予告も与えず、鷲掴みにし、持ち上げる。
下半身に、かぶりつく。柔らかな歯ごたえ、その皮膚の、えもいわれぬ香ばしさ。
そのまま身体の半分を食いちぎる。体の内側のものがどばっと零れ落ちた。
それをすかさず受け止め、そのまま口に運ぶ。舌の上に広がる濃厚な味覚は、俺にとっては甘露だ。
口の中の物を数回咀嚼して、飲み込む。それが胃の腑に落ちて染み込み、小さき者が、この俺の頑強な肉体を構成する一部となっていくのを実感する。
一旦口を離し、手の中にあるその者の残骸を、最後に目にとどめおく。半身を失ってなお、その顔には傷一つなく、無垢なままだった。
既に命の宿らぬその頭部から、残りの全てを一息に――
「あーっ! お兄ちゃん、わたしのぴよ子食べてる!」
んがっ!
「ひっどーい! 楽しみにとっておいたのに!」
んぐぐっ! お、おひゃ、おひゃ!
「出して! わたしのぴよ子吐き出して!」
むぐぐっ! むりっ! ……ごくごくごく……ふぅ。
「あああーっ! もう絶対に許さない! お母さんに言いつけてやるんだからっ!」
俺の胸ぐらを掴んで揺さぶり、散々悪態をついた後、妹は足音も荒く階段を上がっていった。やれやれ。饅頭一つでなんとも心の狭い奴だ。
仕方ない、後でプリンでも買ってきてご機嫌を取っておくか。
食べ物の恨みは怖いからな。
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