【幻想掌編】たまご|観覧車は、また崩れ落ちる
淡いブルーの中、光と音が鳴り響く。
男は階段から、逃れるように降りて来る。
目の前には、先程の自分が歩いている。
またか……
男は小さく肩で息を吐いた。
左の通路から、先程の老夫婦が歩いてくる。
彼らは足を止め、先程の自分をじっと見つめた。
そして、男へ顔を寄せ、耳元で囁いた。
「あそこを曲がれ。
そして、この"たまご"を置け」
何度目だ……
受け取った"たまご"は小さく、冷やりとしていた。
男は観覧車へと、足を速める。
今度は間に合った――
揺れて崩れそうな観覧車に乗り、シートへ深く背を預けた。
たまごは、手の中で亀裂が入ってゆく。
男はシート脇の灰皿にそっと乗せた。
それと同時に観覧車は崩れ落ちてゆく。
これで……いい……
男の目の端に映るたまごの亀裂からは、小さな光が漏れていた。
視線を前に戻し、ゆっくり目を閉じる。
これは、ループだ。
何度も、タイミングを計りながら、
男は階段を降り、何度も自分の背を探す。
男は、小さなたまごを何度も運び続ける。
本文:霧子ノア本人作
※本作は、noteにも掲載しています。
主掲載先はアルファポリスです。
『静かな悪戯』本編は、2026年8月1日よりアルファポリスにて掲載開始予定です。
アルファポリス作者ページ:
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/753708856




