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精神科で見た、無法地帯

作者: 神谷透
掲載日:2026/04/14


見習いだったころ、


定年前のベテラン看護師がプリセプターについた。



口は悪いが、


育てようとしているのは伝わっていた。



「おい、神谷。今日空いてるか」



断る理由はなかった。



そのまま家に呼ばれ、


晩酌の相手をすることになった。



「お前は大人しいが、ちゃんと話を聞く」



男はグラスを置いて言った。



「それでいい」



「でも、もっと話のスキルを――」



「違う」



言葉を遮られた。



「説得なんか医者に任せろ」



「看護師はな、聴くことだ」



少し間を置いて、


続けた。



「それと、“観る”ことだ」



視線が、こちらに向く。



「患者は嘘をつく。自覚があっても、なくてもな」



「だから、神経を張り巡らせろ」



「小さな変化でも、命取りになる」



男は、ゆっくりと昔の話を始めた。



「昔は夜勤、2人だった」



「巡視も2人でやる決まりだったがな――」



苦笑した。



「回らねえから、1人でやってた」



「ある日の夜勤だった」



閉鎖病棟に入った瞬間――



「いきなり、飛びかかられた」



複数人だった。



抵抗する間もなかった。



「リンチだ」



短く言った。



「巡視が遅いってな」



その病棟には、


リーダー格の患者がいたらしい。



周囲を従えて、


問題を起こしていた男。



「普段から、きつく言ってたからな」



「恨みだろう」



応援が来て、


なんとか収まった。



その後、


リーダー格は保護室。


他は分散された。



「それからだ」



「2人巡視が徹底されたのは」



グラスの氷が、


静かに音を立てた。



「おかげでな」



「今は、ある程度読めるようになった」



男は最後に言った。



「もう一つだけ、覚えとけ」



視線が、刺さる。



「距離感を見誤るな」



あの言葉は、



今でも、



忘れていない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


現場では、ほんのわずかな判断の違いが

大きな結果につながることがあります。


あのとき聞いた言葉は、

今でも強く残っています。


距離を間違えないこと。


それがどれだけ難しいかを、

日々感じています。

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