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待ちぼうけの便り

作者: WAIai
掲載日:2026/03/12

郵便局に勤める手塚正は、今日もバイクで郵便物を配達していた。

ー今日は風が強いな。

秋の風は冷たく、雨が少し混じっていた。それでも外務の仕事は辞めるわけにはいかない。雪が降ろうが、槍が降ろうが、バイクを飛ばすのだった。

ーきついけれど、自分には合っている。

正は1カ所の場所にいるよりも、色んな場所に行けるほうが楽だった。そのほうが自由に動けるし、誰の視線も感じす、伸び伸びとできた。

ー次はここの家だな。

バイクを停め、郵便物を取り出すと、ポストへ入れる。最近は物騒になっているせいか、ポストも鍵つきのものになっている場合もあった。

ーよし、次だ、次。

バイクに再び跨がると、すぐ横の家に停まる。正が郵便物を出している間に、先程の家の玄関が開き、家人が郵便物を取りに来る姿を横目で見る。鍵を開け、中から郵便物を出すと、住所と名前を確認したのか、家の中へ戻っていく。

ー届け甲斐があるなあ。

郵便物を楽しみにしてくれているのではと想像し、正はポストへ手をかける。挨拶くらいしてくれてもいいのではと思う時もあるが、気恥ずかしいし、正も人見知りなので、後から来てくれるほうが嬉しかった。しかし、1軒だけ特別な家があった。

「ーあの」

いつも配達時間になると、ポストの横で待っている女性がいた。歳は30代くらいだろうか。綺麗というより、可愛い感じの女性で、田舎にしてはおしゃれだった。

「お世話になっております」

バイクを停め、挨拶すると、女性が近づいてくる。

「今日も手紙かハガキはありますか?」

「え…。えっと…ちょ、ちょっと待ってくださいね」

じっと見られると作業がしづらいのだが、ここの女性ー石原みおは真剣な眼差しだった。何を待っているのか知らないが、ずっと待っているのである。

ー何があるのだろう?

疑問に思いつつも、石原家の郵便物を探す。どうやら市役所からの封書のようだった。

「今日はこれです。…どうですか?」

彼女が何を待っているのか知りたくて、少し上目遣いで見ると、みおはため息を吐く。どうやら目的のものではないらしい。

ー何だか、泣きそうな勢いだし。困ったな。

不安そうに見ていると、みおは頭を下げてくる。

「お疲れ様です。どうもありがとうございました」

「は、はい…」

緊張気味に答えると、みおが去ろうとする。それが何故か気になり、正は思わず声を出していた。

「あ、あの…!!」

「…は、はい?」

みおが振り返り、正をじっと見つめてくる。口下手の正は女性が基本的に苦手だが、みおみたいに芯が強そうなタイプは好みだった。

「いつも何を待っているんですか?」

思いきって聞いてみると、みおは目を大きくし、びっくりしたようだった。そして何故か涙をこぼしてくる。

ーこ、これは…。困ったな。

まさか泣かれると思わなかったので、正はおどおどとする。こういう場合、何と声をかけていいのか、分からなかった。

「す、すみません…。取り乱して」

「い、いいえ。いいのですが…。毎日毎日、待たれているので、何がそんなに大事なものなのか、教えていただければ、すぐに届けるのですが」

正直なことを口にすると、みおは涙を拭い、顔を上げてくる。その姿は気丈であり、太陽の光が集まってくるような華やかさを感じる。

「実は…主人からの手紙を待っていて…」

「ご主人からの…? 失礼ですけど、どこにいるんですか?」

「オーストラリアです」

「お、オーストラリア!?」

そうくるとは思わず、大きな声が出た、みおの夫は海外に単身赴任しているのかと合点がいく。

ーどうりで、毎日、待っているわけだ…。心配だものな。

海外に行ったことはないが、遠く離れた場所にいなければならないことを考えると、何だか切なくなってくる。

ー事件、事故に巻き込まれていないか、ご飯はちゃんと食べているか気になるものな…。

正は同情し、みおに優しく伝える。

「ご主人からの手紙、あったら真っ先に届けますね」

「え…。いいんですか?」

「俺の仕事は、手紙やハガキを届けることです。皆さんの嬉しそうな顔が見たいですし。ご主人の名前はちなみに…?」

「石原恭平と申します。真面目で几帳面なので、そろそろ便りをよこしてくれると思うのですが…」

「そうですか。毎日、調べてみますね」

「申し訳ありません。私事で…」

「いいえ、いいんですよ。皆さんに幸せを運ぶと思えば」

「よろしくお願いいたします」

綺麗にお辞儀するみおに対し、正も軽く頭を下げると、次の配達場所へ向かったのだった。それからというもの、正は郵便物をより大切に、そして詳しく調べるようになった。

「…今日はないようだな…」

郵便局内でぼそりと呟くと、同僚の伊藤健が話しかけてくる。

「何がないんだ?」

「い、いや、何でもない。今日も雨かと思って」

「そうだよな。俺らはどんな天気でも、外に出なければならないしな。大変といえは、大変だけど、やり甲斐はあるわな。おばあちゃんから野菜をもらったりとか」

「田舎ならではのことだよね。俺もこの前、キャベツをもらったし」

「ありがたいよな。自分の仕事に誇りをもてるし」

「うん。本当に嬉しいよね」

簡単なやり取りをすると、それぞれのバイクに向かう。

ーみおさんは今日も待っているはずだ。

緊張と少しの興奮を抱えながら、バイクを走らせる。1軒1軒、ポストに投函していくと、次にみおのうちになった。

「おはようございます」

みおはやはりポストの横で待っており、石を蹴っていたようだった。正からの挨拶に慌てて繕い、口を開く。

「おはようございます。それで、あの…?」

「あの…申し訳ありませんが、ご主人からの手紙はありません」

辛かったが事実を伝えると、みおが表情を崩し、涙目となる。

「そうですか…。分かりました。ありがとうございます」

「は、はい。…あの!!」

このままでは終われないと思い、正から話しかける。みおは不思議そうな顔をしたが、正は唇を湿らせる。

「手紙があったら、真っ先に持ってくるので、待ってもらえませんか? お願いします」

「あ、あの…そこまでしてもらっては、悪いような」

「いいんですよ。そのために俺達は仕事をしているんですから」

しっかりした声で言うと、正は郵便物を渡し、バイクに跨がる。

「じゃあ、また」

「はい」

短いやり取りをし、その場を去っていく。それから1週間くらい経った頃、正はついに発見した。

「あ!! あった!!」

思わず大きな声を出してしまい、正は周りを見回す。皆、不思議そうにしていたが、正だけは「あはは」と喜びの笑いをする。

ー石原恭平、間違いない。

手紙というよりはハガキだったが、文章を見る限り、心の優しいご主人のような気がした。大体、字を見れば、その人の性格が分かってしまうのである。

「俺、ちょっと行ってきます!!」

「おい、手塚!! 早くないか!!」

「急ぎなんだよ、ごめん」

そう言うと、バイクに乗り、石原家を目指す。みおはいつもの位置に立っており、朝から待っているのだろうかと心配になる。

「あ、郵便屋さん。今日は早いんですね」

「は、はい。…あの、すっと待っていたんですか?」

「はい。恥ずかしながら…」

俯くみおに対し、正は急いでハガキを取り出す。

「ーはい。今日はありましたよ」

「え…。ええ!! 本当に!?」

大きな声に慌てて口に手を当てたが、正は嬉しいのは当たり前だと分かっていた。みおは震える手で、ハガキを受け取る。

「…よ、良かった…!! やった、やっとだわ…!!」

みおが号泣し始めたので、正は慌ててポケットを探す。ハンカチを差し出そうとしたのだが、みおが手を振って断ってくる。

「良かったですね、ご主人からの手紙」

「は、はい…。本当にありがとうございます。ーそれであの、今日は早かったんですか?」

「え、えっと…約束しましたから。真っ先に持っていくって」

「…ありがとうございます。約束を守ってくれて」

ハガキを大事そうに胸に当て、みおは満面の笑みを浮かべる。

ーそう。 この顔が見たくて働いているんだよな。

正も安堵の表情を浮かべると、バイクに跨がる。

「じゃあ、また。郵便局をよろしくお願いいたします」

「はい。よろしくお願いいたします」

2人は穏やかに言葉を交わすと、正はバイクを動かす。

ー良いことをした日は、気持ちがいい。

風を浴びながら、正は次の場所へ向かったのだった。

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