1.キノコ採りとキノコとベーコンのみそ汁
木々は鮮やかな緑。空は雲ひとつ無い青。空気が澄んだ森の中。
クロの目の前には、別れ道。右に行けば寒い地方。左に行けば暑い地方。真ん中行けばちょうど良い地方。
「うーん、とりあえず真ん中の西に行くと、"大陸1周して村に帰る"がしにくいからやめよう」
クロは独り言いながら腕を組み、一時間ほど悩んでいる。
季節は冬の終わり。これから暖かくなり、暑くなる。
「という事は、北!…いや、でも、まだ時期的に早いかも…西に行って、そこを拠点に北に南にってするのもありか…」
寒いのも暑いのも苦手で、ちょうど良いをこよなく愛するクロの選択基準は季節。
「よぉ、旅人さん。何か困り事かい?」
悩むクロの横から声を掛ける冒険者らしい装いの男。男の後ろには仲間らしき男女2人。
立ち止まり悩むクロを気にする人は何人かいたが、こうして話し掛けてきたのは彼らが初めてだ。
「やぁ、冒険者さん。いやぁ、大陸1周の旅にでもと村から出てきたんだが、北と南と西…どこから行こうか迷っている」
「ふーん…」
話しを聞いた男は、後ろの仲間といくつか言葉を交わす。
「それなら、オレ達と北に向かうか?もうじき冬が終わって、依頼も増えるだろうと南から移動して来たんだ」
槍を背負うその男はジフと名乗り、杖を持つ魔法使いの男をルーフル、双剣を持つ女をリィラだと紹介した。
彼らは善良であり、お人好しである。村を出たばかりだと見ず知らずの者に語る、軽装の少年?青年?中年?だかの小綺麗なエルフが心配になったのだ。
「やっぱり、北かぁ。…せっかくの誘いだけど、のんびりした旅だから遠慮しておく。でも、ようやく行く先が決まったよ。ありがとう」
「そうか。じゃあ、良い旅を」
彼らは冒険者である。旅立ちの新人が気になるが、深追いはしない。
旅の良縁を祈りジフはリンゴとベーコンの塊を、そのお礼にとクロは手製の痛みに効く軟膏を渡し、冒険者たちは手を振り立ち去った。
~~~~
進路を決めたクロは歩き始めた。が、若干収集癖があるため調べ、採ってとだいぶゆっくりである。
「楽しい。すごく楽しい。図鑑が出来ていく」
クロが持つ図鑑は、村のみんなが旅のお供にとくれた物だが特殊で、対象を認識すると鑑定、検索をかけ、登録済みならページを開き、未登録なら鑑定結果を新規登録してくれるものだ。
この作業が楽しくて仕方がないクロは、見かけるキノコに図鑑を使っている。この森にキノコが多いことに加え、村か町に着くのに数日の野宿を予定しているクロは、食材が安全、確実に手に入ることも夢中になる理由だ。
キノコは茶色に白色、丸に細いのにと種類も豊富。毒があるものに、薬になるものもあるが、今回は食べておいしいにこだわって収穫する。
その辺で拾った枝を相棒に、木々を藪をかき分け落ち葉をはらい、枝や手で優しく採る。根元の菌は落とし、土に戻す。何度かしていると目がキノコに慣れ、採るそばから次が見つかる。
「とはいえ、いつまでもここに居るわけにいかないから、もうやめよう。…あの樹のところまでで」
前方、数メートル先の大樹を今日の終点とし、クロは進む。
〜〜〜〜
「着いた」
今日の野宿場所は大樹の根元。そばには川が流れ、広場のようになっていることから、普段から冒険者や旅人の泊まり場所になっているようだ。
今は誰もいないそこにテントをつくる。テントも村のみんながクロにと用意してくれた特別製だ。
「見た目は普通のテントなのに中は広めで小さな台所付きとは不思議だ。…念のため防御結界は張っておこう」
周囲に人や獣の気配は感じないが、クロにとって大事な食事と睡眠時間のための安全確保は忘れない。
「よし。さて今日の食材は、頂き物のリンゴとベーコンと自分で採ったキノコ色々。おにぎりとパンがまだ残ってる。調味料も少しだけど持ってきたし…」
クロは台所に食材たちを並べて眺めると、洗ったキノコとベーコンを大きく切り、鍋で炒め始める。水を入れ、1度沸騰したら火を止めてみそをとく。
「これでみそ汁完成。主食はおにぎり。リンゴは普通に切って食べよう。…うん。上出来」
机や椅子は無いので出来た料理を地べたに並べ、クロも座り込む。
熱々のみそ汁を一口。ほっとするみその味とベーコンの濃い味でおにぎりがすすむ。キノコは色々な種類が入っていて、味も食感も楽しい。白く細長いキノコでとろみがついたのか、口当たりが優しくなっていた。
「美味しい」
ゆっくり味わいながら、行儀悪くも図鑑を広げてキノコを見比べながら食べる。
今回食べなかった何種類かは、希少なキノコだったので、とっておいて売るつもりだ。
「リンゴも酸味があっていい。生でも美味しいけど、煮たりジャムにしてもいいかも」
ジフに貰った、リンゴもベーコンもまだ残っている。キノコもたくさん。食事は大丈夫。
図鑑を使って探せば、この森には希少な物があると分かった。お金もなんとか。今は無いけど。
「うん。良い旅になりそうだ」




