0.プロローグ
※この物語には、いじめの描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
――ああ、死んじゃいそう。
私は草葉の陰で目を開けてそう思った。
ぽとり、私の小さな体に雫が落ち、濡れたぼろ雑巾のような体をまた濡らす。
土のベッドからは虫が這い出て体を登っている。げこげこと鳴く蛙は生足に張り付き、その頂点に上っては声高々に喉を鳴らした。
一昼夜を過ごせば慣れるというもの、だが問題は空腹だった。くぅぅとお腹が鳴った、そういえば昨日の給食から何も食べていない。
「楓夏、やっと見つけた」
暖かいスープの匂いが空想の鼻腔を霞めた時、雨音に混じって友達の声が聞こえ、私はまどろんだ意識を覚醒させた。
「わか、な?」
「うん、私だよ。ね、早く帰ろ、風邪ひいちゃうよ」
私はのそのそ体を起こし、額に付いた木の葉を拭って和奏の方を見た。
彼女のいつもはぱっちりと開いているはずの目は眠気からか痙攣し、隈が出来ている。長く艶やかな髪は雨に濡れ、ぽたぽたと前髪から雫が落ちていた。生まれつき綺麗な顔を持ち、それを鼻にかけない彼女に雨さえ味方し、その美貌を際立たせているようだった。
そんな和奏はいつものように私に手を差し出す、私はその手を取れない、土で汚れてしまっていたから、それに――
「やだ、帰りたくない」
「どうして?」
「沢渡とか、皆、嫌いだから。お母さんにも会いたくない、お父さんにも怒られたくない」
「そっか、それは嫌だね」
「和奏も私のこと嫌い?」
「どうして?」
「だって……私、悪い子だから」
「そんなことないよ、あれは沢渡が悪いんだよ、あとで一緒にとっちめよう」
「やだよ、またいじめるもん」
「じゃあ私が代わりに怒ってあげるね」
「うん、ありがとう。……くしゅんっ」
私の黄色い鼻水を和奏はハンカチで拭った。彼女のハンカチは花の匂いがした。
「早く帰らないとね、楓夏」
「ん……ねえ、和奏」
「なあに?」
「私達は、友達だよね?」
ぼろ雑巾みたいにドロドロ、勉強だって和奏ほどできるわけじゃない、おまけにこんなに心が弱い悪い子、いったいどこで釣り合っているのだろう。
そう思っていると和奏は私に抱き着いた。そうするとさっきと同じ花の匂いがした、それと一緒に暖かい彼女の体温がTシャツ越しに伝わって来た。
「うん、そうだよ。だからもういなくなったりしないでね」
「うん、わかった。……ありがとう」
和奏は手が汚れるのも厭わず私の手を握り、雨の中隣を歩いてくれた。
お腹がくぅとまた鳴って、私たちは笑った。




