90杯目「暴走する源流と醸造の奇跡」
巨大な黒い影が、俺たちに迫る。
その姿は、定まらない。
時には人の形を取り、時には獣のように這いずり、時には巨大な波のように襲いかかる。
「くっ……!」
俺は剣を振るう。
しかし、刃は影を通り抜けるだけだ。
「物理攻撃が効かない!」
ルーナが叫ぶ。
ルーナが光を纏った剣で斬りかかるが、やはり影は揺らぐだけで実体を捉えられない。
「氷結!」
リリアが氷の魔法を放つ。
影の一部が凍りつく——が、すぐに砕け散り、また元の形に戻る。
「魔法も効かないなんて……!」
リリアが悔しそうに呟く。
「ノクト!」
ミアが黒竜を呼ぶ。
ノクトが黒炎を吐き出す。
影が、一瞬怯む。
「今だ!」
俺が飛び込む。
しかし——。
影が突然膨れ上がり、俺を飲み込もうとする。
「アル!」
リリアとルーナが叫ぶ。
間一髪、ミアが俺を引っ張って避難させた。
「ありがとう、ミア」
「油断しないで。あれは源流の力が暴走して実体化したもの……普通の攻撃では倒せないわ」
ミアが険しい表情で言う。
「じゃあ、どうすればいいんだ!」
「分からない……でも、このままじゃ……」
その時だった。
守護者が、震える声で言った。
「あれを止めるには……強大な力が必要です」
「強大な力……」
俺は拳を握る。
俺には、ランダムスキルというチート能力がある。
でも、それは運任せだ。
今、必要な力が手に入るかどうかも分からない——。
その時、腰の袋に手が触れた。
瓶が、入っている。
「……これは」
グラン・ハンマーで造った日本酒だ。
王都で配った残りを、念のため持ってきていた。
俺はその瓶を見つめる。
そして——思い出す。
あの時、グラン・ハンマーで初めてこの酒を飲んだ時。
ランダムスキルが発動して、【風魔法 Lv???】が出現した。
あの時は使わなかった。
でも——。
「もしかすると……」
俺は瓶を取り出す。
この酒を飲めば、またあのスキルが発動するかもしれない。
いや、発動するとは限らない。
ランダムスキルは、文字通り運任せだ。
でも——。
今は、賭けるしかない。
「みんな、少し時間をくれ」
俺が言う。
「アル……?」
リリアが不安そうに見る。
「大丈夫だ。俺に、考えがある」
俺は瓶の栓を開ける。
仲間たちと造った酒。
ドワーフたちと、天泣さんとの約束を果たした酒。
そして、街の人々を救った酒。
この酒が——。
もう一度、奇跡を起こしてくれるかもしれない。
「頼む……!」
俺は、酒を一気に飲み干す。
喉を通る、やはりおいしい。
そして——。
【日本酒の効果により、ランダムスキルが発動しました】
頭の中に、声が響く。
【風魔法 Lv???:持続時間不明】
「——来た!」
俺の体から、風が吹き出す。
「アル……?」
リリアが驚く。
「これは……風?」
ルーナも目を見開く。
風が、俺の周りを螺旋を描いて渦巻く。
そして——。
俺は、手をかざした。
「行け!」
瞬間、凄まじい風が発生した。
それは、ただの風ではない。
無数の小さな竜巻が、影に向かって襲いかかる。
「うわあああ!」
影が、初めて苦しそうな声を上げた。
「効いてる……!」
ミアが驚く。
風は、影を包み込み、削り取り、そして——。
影を、空中に吹き飛ばした。
「すごい……」
リリアが呟く。
しかし、俺には分かっていた。
これだけじゃ、足りない。
影は、また戻ってくる。
「みんな、手を貸してくれ!」
俺が叫ぶ。
「リリア、氷の魔法で影を固定して!」
「分かった!」
リリアが両手を掲げる。
「氷結、連鎖!」
氷の柱が、影の周りに次々と立ち上がる。
影が、動きを封じられる。
「ルーナ、光で影を照らせ!」
「任せて!」
ルーナが剣を天に掲げる。
「光よ、降り注げ!」
剣から放たれた光が、影を照らす。
影が、さらに弱々しくなる。
「ミア、ノクトで最後の一撃を!」
「了解!」
ミアがノクトに指示する。
ノクトが大きく息を吸い込み——。
黒炎が、影に向かって放たれる。
そして、俺は——。
「風よ、すべてを吹き飛ばせ!」
風魔法の全力を解放する。
竜巻が、影を、氷を、光を、炎を、すべてを包み込む。
そして——。
轟音と共に、影が消滅した。
*
静寂が、洞窟を支配する。
影は、完全に消えていた。
「やった……のか?」
俺は膝をつく。
風魔法の反動で、体中の力が抜けていく。
「アル!」
リリアが駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ……なんとか」
俺は立ち上がろうとする。
しかし、その時——。
裂け目から、再び光が溢れ出した。
「まだ……終わってない!?」
ルーナが叫ぶ。
「いえ」
守護者が言う。
「影は消えました。ですが……」
守護者が、裂け目を見つめる。
「根本的な原因は、まだ解決していません」
「根本的な原因……?」
俺が問う。
守護者が、力なく膝をつく。
「守護者様!」
リリアが駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
「すみません……私の力では、これ以上は……」
守護者が、苦しそうに言う。
「裂け目は……一時的に閉じましたが……」
「また、開くでしょう……」
「そんな……」
ルーナが絶望する。
「じゃあ、どうすれば……!」
その時だった。
裂け目の奥から、紫色の煙が漂ってきた。
「また……煙!」
俺が警戒する。
煙が、人の形を取る。
「ハッハー、やっと、ここまで来たね」
煙が、タバコを吹かしながら笑う。
「目が笑っていない……」
ミアが呟く。
「煙……お前、何が目的なんだ」
俺が問う。
「目的?」
煙が首を傾げる。
「そんなものは、ないよ」
「ただ——」
煙が、俺たちを見渡す。
「君たちの選択を、見守っているだけさ」
「選択……?」
「そう。選択」
煙が、裂け目を指差す。
「これから、君たちは選ばなきゃいけない」
「何を……?」
「それは——」
煙が、意味深に笑う。
「次に会った時に、教えてあげるよ」
煙が、消えかける。
「待て!」
俺が叫ぶ。
しかし、煙は完全に消えてしまった。
「……一体、何だったんだ」
俺は、裂け目を見つめる。
裂け目は、まだ微かに揺らいでいる。
これは、まだ終わっていない。
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