89杯目「源流への旅立ち」
翌朝。
城の中庭に、俺たちは集まった。
リリア、ルーナ、ミア、そして俺。
四人で、魂の川の源流へ向かう。
「準備はいいか?」
俺が三人を見る。
「ええ」
リリアが頷く。
「大丈夫よ」
ルーナも答える。
「では、行きましょう」
ミアが黒竜・ノクトを呼ぶ。
巨大な黒竜が、空から降りてくる。
「ノクトに乗って行きます。源流までは、徒歩では三日かかりますが……」
「空からなら?」
「半日です」
ミアが答える。
「分かった」
その時、城の扉が開いた。
マーカスとマリアが、見送りに来た。
「アル」
マーカスが、俺の肩を叩く。
「必ず、戻ってこい」
「ああ」
「それと……」
マーカスが、一本の剣を差し出す。
「これを持っていけ」
「これは……」
「騎士団の予備の剣だ。何かの時のためにつかってくれ」
「ありがとう、マーカス」
俺は剣を受け取った。
マリアが、リリアに近づく。
「リリア」
「お姉様……」
「これを」
マリアが、小さなペンダントをリリアの首にかける。
「これは……」
「母様の形見よ。きっと、あなたを守ってくれるわ」
「お姉様……」
リリアが涙ぐむ。
「泣かないで。必ず、帰ってきなさい」
「はい……」
リリアが頷く。
ルーナも、父から短剣を受け取っていた。
「父様……」
俺たちは、ノクトの背に乗り込んだ。
「では、行くわ」
ミアが合図する。
ノクトが大きく翼を広げる。
そして——。
一気に空へ舞い上がった。
*
空から見る王都は、まだ混乱の最中だった。
赤い光の柱が、街の中心から天へ伸びている。
そして、空には——。
巨大な亀裂が、さらに広がっていた。
「あれは……」
リリアが、亀裂を見つめる。
「魂の川と、異世界を繋ぐ裂け目です」
ミアが説明する。
「あの向こうに、別の世界がある……?」
「はい。アルが元いた世界も、あの向こうにあります」
「……」
俺は、亀裂を見つめた。
あの向こうに、日本がある。
でも、今は——。
「行くぞ」
俺は前を向いた。
「この世界を、守らなければ」
ノクトは、王都を離れ、北へ向かう。
*
しばらく飛び続けると、景色が変わってきた。
緑豊かな森が広がり、その先には——。
巨大な山脈が見える。
「あれが……」
「はい。魂の川の源流がある、『始まりの山』です」
ミアが指差す。
山脈の中央に、ひときわ高い山がそびえ立っている。
その頂上から——。
淡い光が、天へ向かって伸びている。
「あの光が……」
「魂の川の本流です」
ミアが説明する。
「普通は見えないのですが、今は川が乱れているため、光として見えています」
「あそこに、源流がある……」
俺は山を見つめた。
その時だった。
ノクトが、突然激しく揺れた。
「きゃっ!」
ルーナが悲鳴を上げる。
「どうした!?」
「何かが……攻撃してきています!」
ミアが叫ぶ。
空を見上げると——。
無数の影が、こちらに向かってくる。
「あれは……魔物!?」
リリアが驚く。
黒い翼を持つ、鳥のような魔物の群れだ。
「なぜ、こんなところに……」
「魔物が凶暴化しているんだわ!」
ルーナが叫ぶ。
「ノクト、回避して!」
ミアが指示する。
しかし、魔物の数が多すぎる。
次々と、ノクトの体に爪が食い込む。
「くそっ!」
俺は剣を抜く。
「リリア、ルーナ!」
「分かってる!」
リリアが氷の魔法を放つ。
「氷結!」
魔物の翼が凍りつき、数匹が落下する。
「私も!」
ルーナが剣を抜く。
剣身が、光の魔力で輝き始める。
「光刃!」
光を纏った剣が、魔物を斬り払う。
一閃ごとに、魔物が光に包まれて消えていく。
俺も、接近してきた魔物を斬り払う。
「まだまだ来るぞ!」
魔物の群れが、止まらない。
「このままじゃ……」
その時だった。
ノクトが、大きく吠えた。
——ガァァァァァッ!
その咆哮と共に、黒い炎がノクトの口から放たれる。
黒炎が、魔物の群れを一掃した。
「すごい……」
リリアが呟く。
「さすが、黒竜……」
ルーナも驚いている。
「でも、ノクトも疲れているわ」
ミアが心配そうに言う。
「少し休ませた方がいい」
「分かった。どこか着陸できる場所は?」
「あの森の中なら……」
ミアが下を指差す。
ノクトは、ゆっくりと森の中へ降下していった。
*
森の中の開けた場所に、ノクトが着陸した。
「大丈夫か、ノクト?」
ミアが黒竜の体を撫でる。
ノクトが、疲れた様子で鳴く。
「少し休ませてあげて」
「ああ」
俺たちは、ノクトの周りに座った。
「魔物があんなに凶暴化しているなんて……」
リリアが不安そうに言う。
「魂の川が乱れれば、世界全体に影響が出ます」
ミアが説明する。
「魔物だけじゃない。植物も、動物も……すべてが狂い始めています」
「このままじゃ、世界が……」
ルーナが震える声で言う。
「大丈夫」
俺が三人を見る。
「必ず、源流で何とかする」
「アル……」
リリアが俺を見つめる。
その時だった。
森の奥から、紫色の煙が漂ってきた。
「……!」
俺は立ち上がる。
煙が、人の形を取る。
ぼろぼろのローブ。
白と黒が混じった髪。
目が笑っていない笑顔。
そして、紫色の煙を出すタバコ。
「煙……!」
俺が叫ぶ。
「ハッハー、ようやく追いついたか」
煙が、タバコを吹かしながら笑う。
「お前……何者なんだ」
「さてね。それは……君がどう思うかによるんじゃないかな」
煙が、意味ありげに笑う。
「何が目的だ!」
「目的? 君さぁ誰でも彼でも目的があって行動してると思ってるの?アニメの主人公ってんならともかく、僕にはそんな大層なものはないよ」
煙が首を傾げる。
「ただ……興味深いんだ。君たちがどうするのか」
「興味……?」
「そう。魂の川が壊れる時、君たちはどんな選択をするのか」
煙の目が、冷たく光る。
「楽しみでね」
「ふざけるな!」
俺が剣を構える。
「待って、アル!」
ミアが俺を止める。
「あの男は……ただの人間じゃない」
ミアが煙を見つめる。
「あの男は……魂の川そのものかもしれない」
「何……!?」
俺が驚く。
「ハッハー、さすがだね。守護者の末裔ちゃん♪」
煙が拍手する。
「そう。僕は、なんというか魂の川の人格化だ。アルくんにわかりやすく言うなら擬人化といってもいいね」
「川の……擬人化?」
「川は生きている。流れている。そして……意志を持つ」
煙が煙を吐き出す。
「僕は、その意志の一部さ」
「だったら、なぜ川が乱れているんだ! なぜ、世界を救わない!」
俺が叫ぶ。
「それは……言えないな」
煙が笑う。
「でも、一つだけ教えてあげよう」
煙が、俺を指差す。
「君は、川を覗き込んだことがあるかい?何が映る?」
「なにがって……それはのぞき込んだ自分が映るんじゃないのか?それか月かな」
アルは自分がこの世界に来る前に川沿いを歩いていたことを思い出しながら答えた。
「ハッハー!そうだよ!でも、要はそういうことだよ」
煙が、消えかける。
「待て!」
俺が駆け寄る。
しかし——。
煙は、完全に消えた。
「くそっ……」
俺は拳を握る。
——川を覗き込んだら、自分が映る。
煙の言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
それは、どういう意味だ?
「アル……」
リリアが、俺の肩に手を置く。
「大丈夫? あの男の言葉……何か意味があったの?」
「……分からない」
俺は頷いた。
でも、不安は消えない。
川を覗き込んだら自分が映る。
それがどう関係しているのか……。
源流に行けば、分かるのか?
「行こう」
俺は立ち上がった。
「源流へ」
ミアが頷く。
「ノクトも、もう大丈夫そうです」
俺たちは、再びノクトに乗り込んだ。
そして——。
始まりの山へ向かって、飛び立った。
*
山が近づくにつれ、空気が変わってきた。
重苦しい、圧迫感のようなものが漂っている。
「これは……」
「魂の圧力です」
ミアが説明する。
「源流に近づいているんです」
山の頂上が、目の前に迫る。
そこには——。
巨大な洞窟の入り口があった。
「あそこが……」
「はい。魂の川の源流です」
ミアが言う。
「あの中に、すべての答えがあります」
ノクトが、洞窟の前に着陸した。
俺たちは、ノクトから降りる。
洞窟の入り口から、淡い光が漏れている。
そして——。
その光の中に、人影が見えた。
「誰だ……?」
俺が警戒する。
人影が、ゆっくりと近づいてくる。
そして——。
光の中から、姿が現れた。
長い銀髪。
透き通るような肌。
そして、悲しげな表情。
「お待ちしていました」
その人物が、静かに言った。
「魂の川を救いに来た方……」
「あなたは……」
ミアが驚く。
「まさか……源流の守護者?」
「はい」
その人物が頷く。
「私は、この源流を守る者」
「源流の……守護者?」
俺が問う。
「ミアの一族とは違うのか?」
「ええ」
守護者が説明する。
「ミアの一族は、魂の川全体を管理する役割でした。世界中に散らばる魂の流れを見守り、調整する……」
「ですが、私は源流そのものと一体化している存在。この場所から離れることはできません」
ミアが頷く。
「私の一族は滅びましたが……源流の守護者は、ずっとこの場所を守り続けてきたのですね」
「はい。しかし……」
その目に、涙が浮かぶ。
「もう、守りきれないのです」
「どういうことだ!?」
俺が前に出る。
「川が……壊れかけている」
守護者が、洞窟の奥を指差す。
「このままでは、世界は……終わります」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
「急いでください。もう……時間がありません」
守護者が、洞窟の奥へと導く。
俺たちは、その後に続いた。
洞窟の中は、無数の光が飛び交っていた。
——魂だ。
何百、何千という魂が、川のように流れている。
そして、その中心には——。
巨大な裂け目があった。
「あれが……」
「魂の川の源流です」
守護者が言う。
「ですが……裂け目から、魂が漏れ出している」
「止められないのか!?」
「私の力では……もう限界なのです」
守護者が膝をつく。
「あなたがたの力が……必要です」
俺は、裂け目を見つめた。
無数の魂が、裂け目から漏れ出している。
このままでは——。
「アル!」
リリアが叫ぶ。
裂け目から、何かが飛び出してきた。
真っ黒な、巨大な影。
「あれは……!」
ミアが驚く。
「源流の力が暴走して……実体化している!」
「守護者様、避難を!」
リリアが守護者を支える。
影が、俺たちに向かってくる。
俺は剣を構えた。
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