9杯目 ラビットールの畑荒らし
村から城に戻った翌日、ガロンが慌てて城にやってきた。
「アルさん!大変だ!」
「どうしたの?」
「ラビットールの群れが畑を荒らしてるんだ!」
「ラビットール?」
リリアが説明してくれた。
「とても可愛いんですが、農作物を食べ荒らすので農民の敵なんです」
「駆除するしかないのか?」
「それが…ラビットールは魔界の生態系にとって重要な存在で、あまり数を減らすと環境に悪影響が…」
「ふむ…」
俺は考えた。現代知識で何か解決法はないだろうか?
「よし、畑を見に行こう」
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畑に着くと、確かに大量のうさぎのような魔物がいた。
膝くらいの高さの、白くて毛玉のような可愛い魔物たち。大きな目をしていて、確かに殺すのは忍びない。
「うーん、可愛いな」
「でも作物が全滅しちゃいます」
農民のおじさんが困り果てている。
俺は畑の周りを観察した。作物の配置、土の状態、水の流れ…
「あ!」
ひらめいた。
「リリア、マリア、手伝って」
「何をするんですか?」
「アル、何か思いついたの?」
「コンパニオン・プランティングだよ」
「こんぱにおん?」
「共栄作物。ある植物を一緒に植えることで、害虫や害獣を寄せ付けない農法」
テレビの農業番組で見た知識だった。
「この辺にハーブ系の植物ある?特にラベンダーみたいな香りの強いやつ」
「あります!マジックラベンダーという植物が」
「それを畑の周りに植えよう。きっとラビットールは嫌がるはず」
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村人総出で作業開始。
畑の周りにマジックラベンダーを植え、さらに俺は現代の知識を活かして水路も整備した。
「すげぇ!本当にラビットールが近づかなくなった!」
「でも、畑から追い出されたラビットールはどこに?」
「心配ない」
俺は畑の端の方を指差した。
「あっちに彼ら専用のエサ場を作ったから。雑草とかクローバーを植えてある」
「なるほど!共存ですね!」
リリアが感動している。
「ラビットールも生きていけるし、農作物も守れる」
マリアも納得した様子だった。
「アル、さすがね。相変わらず面白い解決法を思いつくわ」
「アルさん、本当にありがとう!」
農民のおじさんが涙を流して感謝してくれた。
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その夜、再び村の酒場で祝賀会。
「今度はラビットール問題解決の祝いだ!」
「アルさん万歳!」
また大量の酒を奢られてしまった。
「そういえば、アルさん」
ガロンが言った。
「マリア様に何か特別な飲み物を作ったって噂を聞いたんだが、本当か?」
「ああ、そうだよ」
「どんな飲み物なんだ?」
「カクテルって言ってね。複数の酒を混ぜて作る飲み物なんだ」
「混ぜる?」
村人たちが首を傾げる。どうやらカクテルという概念自体、魔界には存在しないようだ。
「そう。色も綺麗で、味も色々変えられるんだよ」
「おお!そんなものが!」
「俺たちにも作ってくれないか?」
村人たちが興味津々で身を乗り出してきた。
「マリア様があんなに喜ばれたんだから、きっと美味しいに違いない!」
「お願いします!」
村人たちが頭を下げた。
「分かった。じゃあ、色々作ってみるよ」
俺はカウンターに立ち、カクテル作りを始めた。
魔界の様々な酒を使って、色とりどりのカクテルを作る。
青く輝く透明なカクテル、赤く情熱的なカクテル、緑に神秘的なカクテル、金色に輝くカクテル…
「おお!綺麗だ!」
「うまい!こんな酒、初めてだ!」
「甘いのにキレがある!」
「これ、何て名前なんだ?」
「これは『星空』。これは『夕焼け』。これは『森の泉』ってところかな」
村人たちが大喜びしている。
その時、一人の魔人族が声をかけてきた。
「私、商人をしているベルガモットと申します」
立派な角を持つ、身なりの良い男性だった。
「このカクテル、商売になりませんか?」
「商売?」
「はい。魔界各地で売れると思うんです。もちろん、アルさんにも利益を還元します」
面白い提案だった。
「でも、俺は作り方を教えるくらいしか…」
「それで十分です!レシピを教えていただければ、私の商会で製造・販売します」
「利益の分配はどうします?」
「レシピ提供料として売上の30%をお支払いします」
「え!?そんなにもらっていいの?」
リリアが驚いている。
「もちろんです。これは画期的な商品になると思います」
ベルガモットの目が輝いていた。
「分かりました。やってみましょう」
こうして、俺は魔界初のカクテル・ビジネスに参入することになった。
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翌週、早速ベルガモットの商会からサンプルが届いた。
俺のレシピを元に作られたカクテルは、予想以上の出来だった。
「味は完璧ですね」
「ありがとうございます。実は、もう注文が殺到してるんです」
「そんなに?」
「魔界の貴族たちが興味を示していて、『新しい味』『洗練された飲み物』として評判になっています」
「それは良かった」
「マリア様が召し上がった、という噂も広まっていて。『保守派のリーダーが認めた飲み物』として注目されています」
なるほど、マリアの影響力は大きいのか。
「では、正式に契約しましょう」
こうして俺は、魔界での正式な収入源を得ることになった。
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契約から一ヶ月後、ベルガモットが嬉しそうに報告に来た。
「大成功です!月の売上が予想の3倍になりました!」
「そんなに!?」
「特に女性に人気で、『アルのカクテル』というブランド名で魔界中に広まってます」
「ブランド名にされちゃった」
「これがアルさんの分け前です」
ベルガモットが差し出した袋には、大量の金貨が入っていた。
「こんなにもらっていいの?」
「もちろんです!これは約3,000Gになります」
「3,000G!?」
「当然です。さらに、他の商会からも取引の申し込みが来てます」
「他の商会?」
「食品関係、薬品関係、さらには武器商人まで。『アルブランド』で商品を出したいと」
俺の名前が魔界でブランド化されていた。
「すげぇことになってきたな」
「これで、アルさんも魔界の有力者の仲間入りですね」
リリアが嬉しそうに言った。
「でも、調子に乗らないようにしないと」
「大丈夫よ、アル。あなたは変わらないわ」
マリアが微笑んでいる。
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その夜、城でささやかな成功祝いをした。
「乾杯!」
「アルの魔界進出に乾杯!」
魔王も参加してくれた。
「商売で成功するとは思わなかったが、これも一つの外交だな」
「外交?」
「経済交流も平和の基盤だ。お前のカクテルで魔界の経済が活性化すれば、それだけ安定する」
なるほど、そういう見方もあるのか。
「それに、マリアが認めた、という事実も大きい。保守派を解体した彼女が人族の文化を受け入れた——これは大きな一歩だ」
マリアは少し照れくさそうに微笑んだ。
「だが、本格的な外交はこれからだ」
魔王の表情が少し厳しくなった。
「人族の世界への使節団の件、そろそろ具体的に動き出そう」
「はい」
「実は、先日人族の王国から連絡があった」
「どんな内容ですか?」
「詳細は明日話そう。少し…複雑な状況のようだ」
魔王の言葉に、不安な予感がした。
しかし、今夜は成功を祝う夜だ。深く考えるのは明日にしよう。
「とりあえず、今夜は飲もう!」
「アルさん、また酔い潰れるつもりですか?」
「たまにはいいでしょ!」
たまにじゃないでしょと諫めるリリア、大きな声で笑う魔王、そのへんでまたもこけているマリア。
こうして、俺たちは遅くまで飲み明かした。
次回予告:「人族からの使者」
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