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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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9/10

9杯目 ラビットールの畑荒らし

村から城に戻った翌日、ガロンが慌てて城にやってきた。


「アルさん!大変だ!」


「どうしたの?」


「ラビットールの群れが畑を荒らしてるんだ!」


「ラビットール?」


リリアが説明してくれた。


「とても可愛いんですが、農作物を食べ荒らすので農民の敵なんです」


「駆除するしかないのか?」


「それが…ラビットールは魔界の生態系にとって重要な存在で、あまり数を減らすと環境に悪影響が…」


「ふむ…」


俺は考えた。現代知識で何か解決法はないだろうか?


「よし、畑を見に行こう」


---


畑に着くと、確かに大量のうさぎのような魔物がいた。


膝くらいの高さの、白くて毛玉のような可愛い魔物たち。大きな目をしていて、確かに殺すのは忍びない。


「うーん、可愛いな」


「でも作物が全滅しちゃいます」


農民のおじさんが困り果てている。


俺は畑の周りを観察した。作物の配置、土の状態、水の流れ…


「あ!」


ひらめいた。


「リリア、マリア、手伝って」


「何をするんですか?」


「アル、何か思いついたの?」


「コンパニオン・プランティングだよ」


「こんぱにおん?」


「共栄作物。ある植物を一緒に植えることで、害虫や害獣を寄せ付けない農法」


テレビの農業番組で見た知識だった。


「この辺にハーブ系の植物ある?特にラベンダーみたいな香りの強いやつ」


「あります!マジックラベンダーという植物が」


「それを畑の周りに植えよう。きっとラビットールは嫌がるはず」


---


村人総出で作業開始。


畑の周りにマジックラベンダーを植え、さらに俺は現代の知識を活かして水路も整備した。


「すげぇ!本当にラビットールが近づかなくなった!」


「でも、畑から追い出されたラビットールはどこに?」


「心配ない」


俺は畑の端の方を指差した。


「あっちに彼ら専用のエサ場を作ったから。雑草とかクローバーを植えてある」


「なるほど!共存ですね!」


リリアが感動している。


「ラビットールも生きていけるし、農作物も守れる」


マリアも納得した様子だった。


「アル、さすがね。相変わらず面白い解決法を思いつくわ」


「アルさん、本当にありがとう!」


農民のおじさんが涙を流して感謝してくれた。


---


その夜、再び村の酒場で祝賀会。


「今度はラビットール問題解決の祝いだ!」


「アルさん万歳!」


また大量の酒を奢られてしまった。


「そういえば、アルさん」


ガロンが言った。


「マリア様に何か特別な飲み物を作ったって噂を聞いたんだが、本当か?」


「ああ、そうだよ」


「どんな飲み物なんだ?」


「カクテルって言ってね。複数の酒を混ぜて作る飲み物なんだ」


「混ぜる?」


村人たちが首を傾げる。どうやらカクテルという概念自体、魔界には存在しないようだ。


「そう。色も綺麗で、味も色々変えられるんだよ」


「おお!そんなものが!」


「俺たちにも作ってくれないか?」


村人たちが興味津々で身を乗り出してきた。


「マリア様があんなに喜ばれたんだから、きっと美味しいに違いない!」


「お願いします!」


村人たちが頭を下げた。


「分かった。じゃあ、色々作ってみるよ」


俺はカウンターに立ち、カクテル作りを始めた。


魔界の様々な酒を使って、色とりどりのカクテルを作る。


青く輝く透明なカクテル、赤く情熱的なカクテル、緑に神秘的なカクテル、金色に輝くカクテル…


「おお!綺麗だ!」


「うまい!こんな酒、初めてだ!」


「甘いのにキレがある!」


「これ、何て名前なんだ?」


「これは『星空』。これは『夕焼け』。これは『森の泉』ってところかな」


村人たちが大喜びしている。


その時、一人の魔人族が声をかけてきた。


「私、商人をしているベルガモットと申します」


立派な角を持つ、身なりの良い男性だった。


「このカクテル、商売になりませんか?」


「商売?」


「はい。魔界各地で売れると思うんです。もちろん、アルさんにも利益を還元します」


面白い提案だった。


「でも、俺は作り方を教えるくらいしか…」


「それで十分です!レシピを教えていただければ、私の商会で製造・販売します」


「利益の分配はどうします?」


「レシピ提供料として売上の30%をお支払いします」


「え!?そんなにもらっていいの?」


リリアが驚いている。


「もちろんです。これは画期的な商品になると思います」


ベルガモットの目が輝いていた。


「分かりました。やってみましょう」


こうして、俺は魔界初のカクテル・ビジネスに参入することになった。


---


翌週、早速ベルガモットの商会からサンプルが届いた。


俺のレシピを元に作られたカクテルは、予想以上の出来だった。


「味は完璧ですね」


「ありがとうございます。実は、もう注文が殺到してるんです」


「そんなに?」


「魔界の貴族たちが興味を示していて、『新しい味』『洗練された飲み物』として評判になっています」


「それは良かった」


「マリア様が召し上がった、という噂も広まっていて。『保守派のリーダーが認めた飲み物』として注目されています」


なるほど、マリアの影響力は大きいのか。


「では、正式に契約しましょう」


こうして俺は、魔界での正式な収入源を得ることになった。


---


契約から一ヶ月後、ベルガモットが嬉しそうに報告に来た。


「大成功です!月の売上が予想の3倍になりました!」


「そんなに!?」


「特に女性に人気で、『アルのカクテル』というブランド名で魔界中に広まってます」


「ブランド名にされちゃった」


「これがアルさんの分け前です」


ベルガモットが差し出した袋には、大量の金貨が入っていた。


「こんなにもらっていいの?」


「もちろんです!これは約3,000Gになります」


「3,000G!?」


「当然です。さらに、他の商会からも取引の申し込みが来てます」


「他の商会?」


「食品関係、薬品関係、さらには武器商人まで。『アルブランド』で商品を出したいと」


俺の名前が魔界でブランド化されていた。


「すげぇことになってきたな」


「これで、アルさんも魔界の有力者の仲間入りですね」


リリアが嬉しそうに言った。


「でも、調子に乗らないようにしないと」


「大丈夫よ、アル。あなたは変わらないわ」


マリアが微笑んでいる。


---


その夜、城でささやかな成功祝いをした。


「乾杯!」


「アルの魔界進出に乾杯!」


魔王も参加してくれた。


「商売で成功するとは思わなかったが、これも一つの外交だな」


「外交?」


「経済交流も平和の基盤だ。お前のカクテルで魔界の経済が活性化すれば、それだけ安定する」


なるほど、そういう見方もあるのか。


「それに、マリアが認めた、という事実も大きい。保守派を解体した彼女が人族の文化を受け入れた——これは大きな一歩だ」


マリアは少し照れくさそうに微笑んだ。


「だが、本格的な外交はこれからだ」


魔王の表情が少し厳しくなった。


「人族の世界への使節団の件、そろそろ具体的に動き出そう」


「はい」


「実は、先日人族の王国から連絡があった」


「どんな内容ですか?」


「詳細は明日話そう。少し…複雑な状況のようだ」


魔王の言葉に、不安な予感がした。


しかし、今夜は成功を祝う夜だ。深く考えるのは明日にしよう。


「とりあえず、今夜は飲もう!」


「アルさん、また酔い潰れるつもりですか?」


「たまにはいいでしょ!」


たまにじゃないでしょと諫めるリリア、大きな声で笑う魔王、そのへんでまたもこけているマリア。


こうして、俺たちは遅くまで飲み明かした。


次回予告:「人族からの使者」


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