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酔えば酔うほど異世界最強 〜ランダム酒魔法と極上の一杯で世界を救います〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

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85杯目「完成と緊急召喚」

 ミズハからの手紙を受け取ってから三日が経った。


 ブルグ長老は「醸造所はわしらに任せておけ」と言ってくれたが、俺は完成まで見届けたかった。


 それに、今俺にできることは酒を完成させることしかできない。


 この酒は、天泣さんとの約束でもある。最後まで、自分の手で仕上げたいってのが本音だ。


 その間、俺たちは醸造所の仕事に集中していた。


 麹の切り返しも無事に終わり、もろみの発酵も順調に進んでいる。


 そして今日——。


「アル、そろそろいいんじゃないか?」


 ブルグ長老が、発酵タンクを覗き込んで言った。


「ああ。香りも申し分ない」


 俺は深く息を吸った。


 甘く、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。


 これは……間違いない。


「搾るぞ!」


 俺の声に、ドワーフたちが歓声を上げた。


  *


 搾り作業は、ドワーフたちの協力もあって順調に進んだ。


 ブロムが作った蒸気圧搾機が、見事に機能している。


「すげえな、これ」


 俺が感心すると、ブロムが得意げに胸を張った。


「当然じゃ。わしの最高傑作じゃからな」


 透明な液体が、ゆっくりと瓶に注がれていく。


 グラン・ハンマーで初めて造られた日本酒。


 いや、この世界で造られた日本酒だ。


「綺麗……」


 リリアが瓶を見つめて呟く。


「まるで、月の光みたい」


 ルーナも目を輝かせている。


「さあ、試飲といこうじゃないか!」


 長老が豪快に笑った。


  *


 醸造所の広間に、ドワーフたちが集まった。


 長老、ドラ、グラ、ダグ、関わってくれたドワーフたち、そして商務大臣グランツも顔を出している。


「では、乾杯といくか」


 長老が盃を掲げる。


 みんなが一斉に盃を口に運んだ。


「……!」


 一瞬、沈黙が落ちた。


 そして——。


「うまい!」


「こりゃあ、すげえ!」


「今まで飲んだどんな酒よりも旨いぞ!」


 ドワーフたちが口々に叫ぶ。


 グランツ大臣も、目を見開いている。


「これは……素晴らしい。いや、素晴らしいなどという言葉では足りない」


 大臣が俺を見る。


「アル殿、これは王都の貴族たちも必ず気に入る。いや、王族にも献上できる品だ」


「ありがとうございます」


 俺は深く頭を下げた。


「リリア、ルーナ、リーサ。みんなも飲んでみてくれ」


「はい!」


 三人が盃を手に取る。


「……美味しい」


 リリアが微笑む。


「こんなに優しい味なのね」


 ルーナが目を細める。


「アル……すごいです」


 リーサが嬉しそうに言った。


 俺も、自分の盃に酒を注いで飲んだ。


 ——うん、いい出来だ。


 天泣さんに飲ませたかったな。


 ふと、そんなことを思った。


【日本酒の効果により、ランダムスキルが発動しました】


【風魔法 Lv???:持続時間10分】


 頭の中に、声が響く。


 風魔法か……レベルが表示されないのは珍しいな。


 まあ、たまにこういうこともあるか。


 今は使う場面じゃないし、気にしないでおこう。


 俺は静かに酒を味わった。


  *


 宴もたけなわになった頃、醸造所の扉が勢いよく開いた。


「失礼します!」


 息を切らした兵士が飛び込んでくる。


「何事じゃ?」


 長老が眉をひそめる。


「王都から、緊急の伝令です!」


 兵士が一通の手紙を差し出した。


 グランツ大臣が手紙を受け取り、封を切る。


 大臣の表情が、見る見る険しくなった。


「……まさか」


「どうしたんですか?」


 俺が尋ねると、大臣は深く息を吐いた。


「人族の王都から、アル殿への召喚状だ」


「召喚状?」


「魔王陛下と人族の王、双方からの連名だ。至急人族の王都に来るようにとのことだ」


 場が静まり返った。


「理由は……書いてありますか?」


 リリアが不安そうに聞く。


「詳細は書かれていない。だが……」


 大臣が手紙を見つめる。


「『世界の危機に関わる重大事』とある」


「世界の危機……」


 俺の脳裏に、ミズハの手紙が蘇る。


 魂の川の異変。


 二つの月の異常。


 まさか、それが……。


「アル」


 リリアが俺の手を握った。


「父上からの召喚よ。魔王の娘である私が行くのは当然だわ」


 ルーナも力強く頷く。


「私の父からも呼ばれてるんだから、当たり前でしょ! それに……」


 ルーナが少し照れたように視線を逸らす。


「あなたを一人で行かせるわけにはいかないもの」


 リーサが一歩前に出た。


「私は……」


 リーサが俯く。


「私も行きたいけど……今の私じゃ、足手まといになるだけです」


「リーサ……」


「だから、ここに残ります」


 リーサが顔を上げる。その目には、強い決意が宿っていた。


「ユリさんのところで、剣の修行の続きをさせてもらいます」


「父のように、強くなりたいんです」


 リーサの手が、腰の剣の柄を握る。


「次に会う時は……アルの力になれるように」


 俺は、リーサの肩に手を置いた。


「分かった。無理はするなよ」


「はい」


 リーサが小さく微笑んだ。


「必ず、強くなって……また会いましょう」


「ああ。約束だ」


 俺はリリアとルーナを見た。


「二人とも、よろしく頼む」


「任せて」


 リリアが力強く頷く。


「一緒に頑張りましょ!」


 ルーナも元気に言った。


 ブルグ長老が、俺の肩に手を置いた。


「アル。お前は、この世界に必要な男じゃ。わしらは信じとる」


「長老……」


「醸造所のことは任せておけ。お前は、やるべきことをやってこい」


 長老の目が、優しく俺を見つめている。


「はい。必ず、戻ってきます」


 俺は力強く頷いた。


 グランツ大臣が立ち上がる。


「では、明朝出発の準備を整えよう。王都までは、わしの馬車を使ってくれ」


「ありがとうございます」


 宴は、急遽お開きとなった。


  *


 その夜、俺は醸造所の屋上にいた。


 完成したばかりの酒を、小さな盃に注ぐ。


 月明かりの中、一人で飲む酒。


 味は、昼間と変わらない。


 でも、何か違う。


【日本酒の効果により、ランダムスキルが発動しました】


【植物会話 Lv1:持続時間10分】


 植物会話?


 こんな夜中に、こんな場所で……全く使えないスキルだ。


 俺は苦笑した。


 でも、ふと思う。


 醸造所の周りには、ドワーフたちが植えた薬草がある。


 試しに、そっと能力を使い意識を向けてみた。


 ——風が、強くなる。


 ——月の光が、いつもと違う。


 ——何か、大きなものが動いている。


 植物たちが、不安を感じている。


 自然そのものが、異変を察知しているのか。


 俺は息を呑んだ。


 スキルの持続時間が切れる。


 でも、今のは……確かに何かを感じた。


「アル」


 声がして、振り返るとリリアが立っていた。


「リリア……」


「眠れないの?」


「ああ。少し、考え事をしていた」


 リリアが隣に座る。


「不安?」


「……正直、ある」


 俺は素直に答えた。


「でも、逃げるわけにはいかない」


「うん」


 リリアが俺の肩に頭を預ける。


「私、アルのこと……信じてる」


「リリア……」


「だから、大丈夫。きっと、何とかなるわ」


 リリアの温もりが、心地よい。


「ありがとう」


 俺は小さく微笑んだ。


 その時だった。


 突然、二つの月が激しく明滅した。


 一瞬だけ——月が、真紅に染まった。


「……!」


 リリアも気づいた。目を見開いている。


 だが、次の瞬間には元の銀色に戻っていた。


「今の……」


「ああ……見間違いじゃない」


 胸騒ぎが、止まらない。


 王都で、一体何が起きている?


 俺たちは、無言で月を見つめ続けた。

もし面白い、続きが見てみたいと少しでも思っていただけたら☆☆☆☆☆をポチポチして貰えたら嬉しいですm(_ _)m

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