83杯目「醸造所完成と初仕込み」
一週間が過ぎた。
「完成じゃー!」
ドラの声が、グラン・ハンマーの街に響き渡った。
朝日が醸造所の屋根を照らしている。
「ついに……!」
俺は醸造所の前に立ち、その姿を見つめた。
石造りの頑丈な建物。
ドワーフたちの技術の結晶が、ここにある。
「アル殿、どうぞ中へ」
ゴルドが扉を開けてくれた。
「ありがとう」
俺が中に入ると、そこには完璧に整備された醸造施設が広がっていた。
「精米所……」
入口すぐにある精米所。
大きな石臼が設置されている。
「この石臼は、特別製じゃぞい」
グラが誇らしげに言う。
「米を均等に削れるように、魔法で制御できるんじゃ」
「すごいな……」
次に、蒸し場に移動する。
「こちらが蒸し場でございます」
ゴルドが案内してくれる。
大きな蒸籠が並び、その下には火床がある。
「ブロムの特別装置も完成しました」
「本当に?」
ブロムが嬉しそうに装置を指差す。
「これで蒸気を均等に循環させることができます!」
「素晴らしい」
俺は感心した。
そして、発酵室。
「こちらが発酵室でございます」
床には、完璧な魔法陣が描かれている。
「グラとダグ、ドラが協力して完成させたんじゃ」
「三人で力を合わせたんじゃのう」
「おお、完璧じゃろう?」
三人が胸を張る。
「ああ、完璧だ」
俺は心から感謝した。
最後に、貯蔵室。
「温度は常に一定に保たれます」
ゴルドが説明する。
「魔法陣が自動で調整してくれるのでございます」
「完璧だ……」
俺は醸造所全体を見回した。
全てが、理想通りに仕上がっている。
「みんな、本当にありがとう」
俺が頭を下げると、ドワーフたちが笑った。
「礼には及ばんぞい!」
「わしらも楽しかったんじゃ!」
「これから、美味い酒が造れるんじゃろう?」
「ああ、もちろんだ」
俺は微笑んだ。
その時、ブルグ長老がやってきた。
「アル殿、素晴らしい醸造所が完成しましたな」
「ブルグ長老、みんなのおかげです」
「それで……」
ブルグ長老が真剣な表情になる。
「いつから、酒造りを始めるのですか?」
「そうですね……」
俺は考えた。
「今日から、準備を始めます」
「今日から?」
「ええ。まずは米を精米して、明日から仕込みを始めたいと思います」
「なんと!」
ブルグが驚く。
「早いですな!」
「ええ。完成したばかりの醸造所で、一刻も早く酒を造りたいんです」
「分かりました」
ブルグが頷く。
「それでは、必要な物資は全て用意しましょう」
「ありがとうございます」
その日の午後、俺たちは早速作業を始めた。
「まずは、米を精米するぞ」
俺が宣言すると、ドワーフたちが集まってきた。
「精米って、どうやるんじゃ?」
「見てろ」
俺は米を石臼に入れた。
「この石臼を回して、米の外側を削り落とす」
ゴゴゴゴ……
石臼が回り始める。
「おお……!」
ドワーフたちが目を輝かせる。
「米が白くなっていく!」
「これが精米か!」
「すごいのう!」
数時間後、精米が完了した。
「これで、明日の仕込みに使える」
俺が精米した米を確認していると、リリアがやってきた。
「アル、夕食の準備ができたわ」
「ああ、ありがとう」
その夜、俺たちは醸造所の完成を祝って宴会を開いた。
「乾杯!」
みんなで杯を掲げる。
「醸造所の完成、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
ドワーフたちも一緒に乾杯する。
「明日から、いよいよ本格的な酒造りが始まるのね」
リリアが嬉しそうに言う。
「ああ。この醸造所で、最高の酒を造る」
「楽しみね」
ルーナも微笑む。
「アルさん、私たちも手伝いますよ」
リーサが言う。
「ああ、頼むよ」
俺は仲間たちを見回した。
「それで、アル殿」
ゴルドが尋ねる。
「明日は、何を造るのですか?」
「日本酒だ」
俺が答えると、ドワーフたちが湧いた。
「あの美味い酒か!」
「楽しみじゃのう!」
「わしらも手伝うぞい!」
「ああ、よろしく頼む」
宴会が盛り上がる中、俺は一人醸造所に戻った。
「……明日から、本当の勝負だ」
醸造所の中は静かだ。
新しい設備が、月明かりに照らされている。
「天泣さん……」
俺は呟いた。
風が、醸造所の中を通り抜けた。
まるで、天泣さんが答えてくれているようだった。
「全力で酒造りに取り組みます」
俺は決意を新たにした。
翌朝、俺は早くに目が覚めた。
「今日が、初仕込みの日か……」
窓の外を見ると、空は快晴だ。
酒造りには、最高の日和だ。
「アル、起きてるの?」
ドアをノックする音と共に、リリアの声が聞こえた。
「ああ、もう起きてる」
「準備はできてる?」
「ああ」
俺は着替えを済ませて、醸造所に向かった。
醸造所の前には、既にドワーフたちが集まっていた。
「おはようございます、アル殿!」
「おはよう」
「今日から、酒造りじゃな!」
「ああ、よろしく頼む」
俺が醸造所の扉を開けると、みんなが続いて入ってきた。
「まずは、米を洗います」
俺が説明を始める。
「米を洗う?」
「ええ。米の表面についた糠を洗い流すんです」
俺は大きな桶に米を入れて、水を注いだ。
「こうやって、優しく洗います」
ザブザブと、米を洗う。
「おお……」
ドワーフたちが興味深そうに見ている。
「これを何度か繰り返して、水が透明になるまで洗います」
洗米が終わると、次は浸漬だ。
「次に、米を水に浸けます」
「どれくらい浸けるんじゃ?」
「数時間です。米に水を吸わせるんです」
「なるほどのう」
米を水に浸けた後、俺たちは蒸し場に移動した。
「次は、米を蒸します」
蒸籠に米を広げる。
「ブロム、蒸気装置の準備を」
「はい!」
ブロムが装置を起動する。
シューッと蒸気が上がってくる。
「おお、これは……!」
ドワーフたちが驚く。
「蒸気が均等に広がっとる!」
「ブロムの装置のおかげだな」
約一時間後、米が蒸し上がった。
「完璧だ……」
俺は蒸し米を確認した。
ふっくらとして、艶がある。
「これが蒸し米か……」
ゴルドが感心する。
「次は、これを冷まします」
蒸し米を広げて、冷ます。
「そして……」
俺は麹室に向かった。
「ここで、麹を造ります」
「麹……」
「ええ。麹は、酒造りの要です」
俺は蒸し米に麹菌を振りかけた。
「これを、三日間かけて育てます」
「三日間……」
「ええ。温度と湿度を管理しながら、麹菌を繁殖させるんです」
「難しそうじゃのう」
「最初は難しいかもしれないけど、慣れれば大丈夫だ」
俺は麹を麹室に並べた。
「さあ、これで今日の作業は終わりだ」
「もう終わりか?」
「ええ。後は、麹が育つのを待つだけです」
ドワーフたちが少し物足りなさそうにしている。
「明日からは、もっと忙しくなるぞ」
「本当か!」
「ああ。覚悟しておけよ」
俺が笑うと、ドワーフたちも笑った。
「楽しみじゃのう!」
「わしらに任せとけ!」
その日の夕方、俺は醸造所で麹の様子を確認していた。
「順調に育ってるな……」
温度計を確認する。
三十五度。完璧だ。
「アル」
リリアが入ってきた。
「様子を見に来たの?」
「ああ。順調だよ」
「それは良かった」
リリアが微笑む。
「アル、あなた……本当に楽しそうね」
「え?」
「酒を造ってる時、すごく生き生きしてるわ」
「……そうかな」
「ええ。あなたにとって、酒造りは天職なのね」
「天職……」
俺は考えた。
確かに、酒を造ることは楽しい。
人を笑顔にすることも、嬉しい。
「そうかもしれないな」
「ふふ、良かった」
リリアが優しく微笑む。
その夜、俺は一人で醸造所に残った。
「……一日目、無事に終わった」
麹室の扉を開けて、中を確認する。
麹は、順調に育っている。
「明日も、頑張ろう」
俺は醸造所を後にした。
月が、醸造所を優しく照らしていた。
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