82杯目「建設加速と思わぬ来訪者」
醸造所の建設が始まって、一週間が経った。
「おお、もう壁ができてきたな!」
俺は感心しながら建設現場を見回った。
石造りの壁が立ち並び、建物の形が見えてきている。
「ドワーフの職人は、本当に早いのです」
ゴルドが誇らしげに言う。
「このペースなら、予定より早く完成するかもしれません」
「それは嬉しいな」
俺が笑うと、その時——
「アル殿ー! 大変じゃー!」
ドラが慌てて走ってきた。
「どうした?」
「グラとダグが喧嘩しとる!」
「喧嘩?」
俺が発酵室の予定地に駆けつけると、グラとダグが向かい合って言い争っていた。
「わしの魔法陣の方が正確じゃ!」
ダグが叫ぶ。
「いや、わしの図面の方が正しいんじゃ!」
グラが反論する。
床には、2つの魔法陣が描かれている。
1つは青いチョークで、もう1つは赤いチョークで。
「……なんで2つあるんだ?」
俺が呆れて聞くと、ドラが苦笑いした。
「二人とも張り切りすぎて、同時に描き始めたんじゃ」
「で、途中で気づいたと」
「そういうことじゃのう」
俺は2つの魔法陣を見比べた。
「……どっちも間違ってるな」
「「えぇっ!?」」
グラとダグが同時に叫んだ。
「正確には、両方とも半分正しい」
俺が図面を取り出して説明する。
「グラの図面は配置は完璧だけど、魔力の流れが逆。ダグの魔法陣は流れは正しいけど、配置が左右反転してる」
「「……」」
二人が顔を見合わせた。
「つまり……」
ダグが恐る恐る言う。
「両方の良いところを合わせれば……」
グラが続ける。
「完璧な魔法陣になる、ってことじゃな?」
「その通り」
俺が頷くと、二人は顔を見合わせて笑い出した。
「なんじゃ、わしら喧嘩することなかったんじゃな」
「協力すれば良かったんじゃ」
「最初からそうしろよ」
ドラが呆れた顔で言う。
「まあまあ、結果オーライじゃ!」
ダグが笑う。
「よし、じゃあ協力して描き直すぞい!」
グラも張り切る。
三人で魔法陣を描き直し始めた。
「ここはこうじゃ!」
「いや、もうちょっと右じゃ!」
「わしに任せとけ!」
賑やかな声が響く。
「……相変わらず、陽気だな」
俺は微笑んだ。
「アル殿」
ゴルドが近づいてきた。
「午前中に、発酵室の壁が完成しました」
「本当に? 早いな」
「ドワーフの職人は、仕事が早いのです」
ゴルドが誇らしげに言う。
「それと……」
ゴルドが少し困った顔をする。
「ブロムが、蒸し場に特別な装置を作りたいと言っているのですが……」
「特別な装置?」
俺が蒸し場に行くと、ブロムが熱心に何かを組み立てていた。
「これは……?」
「蒸気を効率的に循環させる装置です!」
ブロムが目を輝かせる。
「これがあれば、米を均等に蒸すことができます!」
「なるほど……」
俺は装置を見つめた。
確かに、理にかなっている。
「いいと思う。やってみよう」
「本当ですか!」
ブロムが嬉しそうに飛び跳ねた。
「任せてください! 必ず完成させます!」
その時、リリアとルーナがやってきた。
「アル、お昼ご飯よ」
「もうそんな時間か」
「みんな、一生懸命働いてるから、たっぷり作ったわ」
リリアが大きな籠を持っている。
「おお、飯じゃ!」
ドラ、グラ、ダグが駆け寄ってくる。
「待ってました!」
「腹が減ってたんじゃ!」
ドワーフたちが次々と集まってきた。
「はいはい、順番に並んで」
ルーナが笑いながら食事を配る。
「うまそうじゃのう!」
「これは何じゃ?」
「サンドイッチよ。異世界の食べ物」
リリアが説明する。
「ほう!」
ドワーフたちがサンドイッチを頬張る。
「うまい!」
「これはいいのう!」
「もう一個くれんか!」
賑やかな昼食になった。
「みんな、楽しそうね」
リーサが微笑む。
「ああ。こうやって、みんなで何かを作り上げるのって、いいな」
俺も微笑んだ。
みんなが協力して、何かを作り上げる。
これこそが、俺が求めていたものだ。
昼食後、作業は再開された。
「よし、午後も頑張るぞい!」
ドラが掛け声をかける。
「おう!」
ドワーフたちが一斉に応える。
その時、街の入口から賑やかな声が聞こえてきた。
「何だ?」
俺が外に出ると、立派な馬車が何台も到着していた。
「おお、あれは……」
ゴルドが目を細める。
「ドワーフの王都からのお客様のようでございます」
「ドワーフの王都?」
馬車から、立派な服を着た男性が降りてきた。
「あれは……商務大臣のグランツ殿です」
ゴルドが小声で言う。
「大臣……!」
俺は少し緊張した。
「アル殿、大丈夫でございますよ」
ゴルドが俺の肩を叩く。
「あなたの醸造所は、素晴らしいものになります。自信を持ってください」
「……ありがとう」
俺は頷いた。
馬車から、立派な服を着た何人かの人物が降りてきた。
その中心にいるのは、威厳のある男性だ。
「あれは……」
ゴルドが小声で言う。
「ドワーフ王国の商務大臣、グランツ殿です」
「商務大臣……!」
俺は驚いた。
そんな偉い人が、視察に来たのか。
「グランツ大臣! ようこそおいでくださいました!」
ブルグ長老が慌てて出迎える。
「ブルグ長老、お久しぶりです」
グランツ大臣が穏やかに微笑む。
「噂を聞きました。グラン・ハンマーに、異世界の酒を造る醸造所ができると」
「はい。こちらが、その建設現場です」
ブルグが俺たちを紹介する。
「こちらが、アル殿。異世界から来られた方です」
「初めまして。アルと申します」
俺が頭を下げると、グランツ大臣は興味深そうに俺を見た。
「ほう……あなたが、その異世界人か」
「はい」
「私は商務を担当しておりましてね。新しい産業には、常に興味があるのです」
グランツ大臣が微笑む。
「この醸造所、見せていただいてもよろしいですか?」
「もちろんです」
俺は大臣を案内し始めた。
「こちらが、精米所の予定地です」
「精米所……米を磨く場所ですね」
「はい。米の外側を削って、純度を高めます」
「興味深い」
グランツ大臣が頷く。
「こちらが蒸し場、そしてこちらが発酵室です」
「発酵室……」
大臣が魔法陣を見つめる。
「これは……温度調整の魔法陣か」
「はい。ユリさんという方が設計してくれました」
「ユリ……あの伝説の魔法使いか」
グランツ大臣が驚きの表情を浮かべる。
「彼女が協力しているのか」
「はい」
(ユリさんの事知っているのか……)
「それは心強い」
大臣が満足そうに頷く。
「最後に、こちらが貯蔵室です。ここで酒を熟成させます」
「なるほど……」
グランツ大臣は全体を見回した。
「素晴らしい。よく考えられている」
「ありがとうございます」
「それで、アル殿」
大臣が真剣な表情になる。
「この醸造所で造られる酒は、どれくらいの量を生産できるのですか?」
「そうですね……」
俺は計算する。
「最初は月に200リットルくらいでしょうか」
「200リットル……」
大臣が考え込む。
「それを、どこに卸すつもりですか?」
「まずは、魔王国のベルガモット商会に」
「ベルガモット商会か。良い選択だ」
グランツ大臣が頷く。
「しかし、それだけでは勿体ない」
「と、言いますと?」
「王都にも、卸していただけませんか?」
「え……?」
俺は驚いた。
「王都の貴族たちは、新しい酒に飢えています」
グランツ大臣が説明する。
「あなたの酒なら、必ず人気が出るでしょう」
「でも……」
「もちろん、無理強いはしません」
大臣が微笑む。
「ただ、可能性として考えていただければ」
「分かりました。検討します」
「ありがとうございます」
その時、大臣が興味深そうに言った。
「ところで、少し試飲してもよろしいですか?」
「え、ああ、もちろん!」
俺は慌てて日本酒を取り出し、杯に注いだ。
大臣が一口飲むと、その目が見開かれた。
「これは……!素晴らしい!」
「本当ですか!」
「こんな上品な味は初めてだ!」
側近たちも試飲して大喜びした。
「美味しい!」
「これが噂の日本酒か!」
「わしらも飲みたいぞい!」
ドラ、グラ、ダグが駆け寄ってくる。
あっという間に、その場が宴会のように盛り上がった。
「はっはっは! 素晴らしい!」
グランツ大臣が笑いながら言う。
「これなら、王都でも大人気になりますよ! ぜひ卸してください!」
「検討します」
俺が答えると、大臣は満足そうに頷いた。
「楽しみにしています!」
「それでは、私はこれで失礼します」
「今後の成功を、心から祈っています」
「ありがとうございます」
俺が頭を下げると、大臣は馬車に乗り込んで去っていった。
「ふう……」
俺は大きく息を吐いた。
大臣が帰った後、ドワーフたちは大興奮だった。
「王都の大臣も認めてくれたぞい!」
「これは凄いことじゃ!」
「よし、もっと頑張るぞい!」
作業がさらに加速した。
「屋根が完成したぞ!」
「窓も取り付けた!」
「内装も順調じゃ!」
次々と報告が入る。
「すごいな……」
俺は感心した。
「あと一週間で、完成しそうでございますね」
ゴルドが嬉しそうに言う。
「本当に?」
「ええ。このペースなら、間違いございません」
「やった……!」
俺は拳を握りしめた。
ついに、醸造所が完成する。
夕方、俺はベルガモットに報告した。
「商務大臣が来たんですか?」
ベルガモットが驚く。
「ええ。王都への卸も考えてほしいと」
「それは素晴らしい!」
ベルガモットが目を輝かせる。
「王都に卸せれば、さらに多くの人に日本酒を広められますね」
「でも、生産量が……」
「大丈夫です」
ベルガモットが自信満々に言う。
「醸造所が軌道に乗れば、拡張すればいいんです」
「拡張……」
「ええ。ドワーフたちが酒造りを学べば、生産量も増えます」
「そうか……」
俺は頷いた。
確かに、その通りだ。
「アル殿、焦る必要はありません」
ベルガモットが微笑む。
「まずは、目の前の醸造所を完成させましょう」
「ああ、そうだな」
俺も微笑んだ。
その夜、俺は仲間たちと食事を取った。
「今日も一日、お疲れ様」
リリアが乾杯を促す。
「乾杯!」
みんなで杯を掲げる。
「醸造所、もうすぐ完成ね」
ルーナが嬉しそうに言う。
「ああ。みんなのおかげだ」
「アルさんが頑張ったからですよ」
リーサも微笑む。
「いや、俺一人じゃ何もできなかった」
俺は仲間たちを見回した。
「みんなが協力してくれたから、ここまで来られたんだ」
「私たちも、楽しかったわ」
リリアが優しく言う。
「こうやって、何かを作り上げるって素晴らしいことね」
「そうね」
ルーナも頷く。
「アルと一緒だから、楽しいのよ」
「ありがとう、みんな」
俺は心から感謝した。
そして、醸造所が完成すれば……
いよいよ、ドワーフたちに酒造りを教えることができる。
天泣さんの夢が、また一歩前に進む。
「明日も、頑張ろう」
「うん!」
みんなが笑顔で答えてくれた。
醸造所の完成まで、あと一週間。
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