81杯目「長老の視察と醸造所建設開始」
翌朝、俺は緊張で早く目が覚めた。
「今日がその日か……」
窓の外を見ると、グラン・ハンマーの街はすでに活気に満ちている。
「アル、起きてるの?」
ドアをノックする音と共に、リリアの声が聞こえた。
「ああ、起きてる」
「朝食の準備ができたわ。ゴルドさんが用意してくれたみたい」
俺は部屋を出た。
食堂では、仲間たちがすでに集まっていた。
「おはよう、アル」
ルーナが笑顔で手を振る。
「おはようございます、アルさん」
リーサも元気に挨拶してくれる。
「おはよう、みんな」
「アル殿、今日は大事な日ですね」
ゴルドが真剣な表情で言う。
「ああ。ブルグ長老に、しっかり説明しないと」
「大丈夫じゃ!」
ドラが食堂に入ってきた。
「わしらも一緒に行くぞい!」
グラとダグも続く。
「長老は頑固だが、心は開いておる」
グラが言う。
「本当に良いものなら、必ず認めてくれるんじゃ」
ダグも頷く。
朝食を終えると、俺たちは醸造所の予定地へ向かった。
グラン・ハンマーの街の東側、川沿いの広い空き地だ。
「ここか……」
俺は周囲を見回した。
確かに、水源も近いし、日当たりも良い。
「いい場所じゃのう」
ドラが満足そうに頷く。
その時、向こうから一団が近づいてきた。
「来たぞい……」
グラが緊張した顔をする。
先頭を歩くのは、白い髭を蓄えた年老いたドワーフ——長老ブルグだ。
「おお、アル殿か」
ブルグが俺を見て頷いた。
「お久しぶりです、ブルグ長老」
俺が頭を下げると、ブルグは少し照れくさそうに笑った。
「あの時の焼酎は、わしも認めた」
「今回の日本酒というのも、素晴らしい味じゃった」
「ありがとうございます」
「それで……」
ブルグが周囲を見回す。
「ここに醸造所を作るのか?」
「はい。川が近く、水質も良いこの場所が最適だと思います」
俺が説明すると、ブルグは頷いた。
「確かに。水は酒造りの命じゃからな」
「具体的に、どんな建物を建てるつもりじゃ?」
「はい。まず……」
俺は準備してきた図面を広げた。
「精米所、蒸し場、発酵室、貯蔵室の4つの主要な部屋を作ります」
「ほう……」
ブルグが図面を見つめる。
「それぞれ、どんな役割じゃ?」
「精米所では、米を磨いて純度を高めます」
「米を磨く……?」
ブルグが不思議そうな顔をする。
「はい。米の外側には雑味の原因になる成分が多いので、削って中心部だけを使うんです」
「ふむ……もったいない気もするが、それが美味い酒の秘訣なのか」
「その通りです」
俺は続けた。
「蒸し場では、米を蒸します。炊くのではなく、蒸すことで適度な水分に調整するんです」
「なるほど……」
ブルグが真剣に聞いている。
「発酵室が一番重要です。ここでは温度管理が命なので、魔法陣を設置します」
「魔法陣?」
ブルグの目が輝いた。
「見せてみい」
俺はユリからもらった魔法陣の図面を取り出した。
「これは……!」
ブルグが驚きの声を上げる。
「温度調整の魔法陣か! こんな精密なもの、見たことがない!」
「ユリさんが特別に作ってくれたものです」
「ほう……」
ブルグが感心する。
「最後に、貯蔵室です。ここで酒を熟成させます」
「熟成……時間をかけて、味を深めるのじゃな」
「はい」
俺が頷くと、ブルグは満足そうに笑った。
「よく考えられておる」
「これなら、素晴らしい酒ができるじゃろう」
「ブルグ長老……」
「わしは許可する」
ブルグが宣言した。
「この醸造所建設を、正式に認める」
「ありがとうございます!」
俺が頭を下げると、ブルグは俺の肩を叩いた。
「アル殿、わしらドワーフに酒造りを教えてくれ」
「喜んで」
「よし!」
ブルグが周囲のドワーフたちに向かって大声で言った。
「今日から、醸造所の建設を開始する!」
「おお!」
ドワーフたちが歓声を上げる。
「総員、準備にかかれ!」
すると、待機していた職人たちが一斉に動き出した。
「おお……すごい」
俺は驚いた。
もう準備が整っていたのか。
「アル殿、まずは基礎工事じゃ」
ブロムが設計図を持ってやってきた。
「ここに石を積んで、土台を作る」
「分かりました」
「石工の準備はできてるぞ!」
トーリンが大きな石を運んでくる。
「木材もたっぷり用意したぜ!」
バーリンも材木を積んだ馬車を引いてきた。
「わしらも手伝うぞい!」
ドラ、グラ、ダグが張り切っている。
「温度管理の魔法陣は、わしが設置する!」
ダグが魔法陣の図面を手に取る。
「よし、始めるか!」
ゴルドが掛け声をかけると、ドワーフたちが一斉に作業を始めた。
カンカンカン——
金槌を打つ音が響く。
ゴロゴロゴロ——
石を運ぶ音が聞こえる。
「おお、すごい活気だな」
俺は感動した。
「ドワーフの職人は、仕事が早いんじゃ」
ブルグが誇らしげに言う。
「見ておれ。一ヶ月で立派な醸造所を作ってみせる」
「楽しみにしています」
その時、ベルガモットがやってきた。
「おお、もう始まっているのですね!」
「ベルガモットさん」
「素晴らしい! これで、魔王国への酒の供給も安定しますね」
ベルガモットが嬉しそうに笑う。
「はい。必ず、良い酒を造ります」
「期待していますよ」
午前中、俺は建設現場を見て回った。
ドワーフたちの手際の良さには驚かされる。
「ここに柱を立てるぞ!」
「おう!」
「石をもっと運べ!」
「了解!」
まるで、1つの生き物のように動いている。
「アルさん」
リリアが俺のそばに来た。
「すごいね。みんな、本当に楽しそう」
「ああ」
「新しいものを作る喜びって、こういうことなのね」
ルーナも微笑む。
「そうだな」
俺も微笑んだ。
みんなが協力して、何かを作り上げる。
これこそが、俺が求めていたものだ。
昼休み、ドワーフたちは作業を休んで食事を取った。
「いやあ、良い汗かいたぞい!」
ドラが満足そうに笑う。
「午後も頑張るぞい!」
グラも元気だ。
「魔法陣の設置、順調じゃ」
ダグが報告してくれる。
「本当に?」
「ああ。ユリ殿の図面が完璧だから、スムーズに進んでおる」
「よかった」
俺は安堵した。
「アル殿」
ゴルドが近づいてきた。
「午後から、発酵室の壁を作り始めます」
「ああ、お願いします」
「それと……」
ゴルドが少し照れくさそうに言う。
「若い職人たちが、アル殿に酒造りを教えてほしいと言っています」
「本当に?」
「ええ。みんな、日本酒を飲んで感動したようです」
「分かりました。醸造所が完成したら、必ず教えます」
「ありがとうございます!」
ゴルドが嬉しそうに笑った。
午後、作業はさらに加速した。
「壁ができてきたぞ!」
「屋根の材料も揃った!」
「発酵室の床も完成だ!」
次々と報告が入る。
「すごいな……」
俺は感心した。
「ドワーフの職人は、本当に腕がいいんじゃ」
ブルグが満足そうに言う。
「わしらの誇りじゃからな」
夕方、一日の作業が終わった。
「今日はここまでじゃ!」
ブロムが声をかけると、ドワーフたちは工具を片付け始めた。
「お疲れ様でした」
俺が声をかけると、みんなが笑顔で答えてくれた。
「明日も頑張るぞい!」
「ああ!」
「アル殿、今日はどうでしたか?」
ゴルドが尋ねる。
「素晴らしかったです。みんなの協力のおかげで、順調に進んでいます」
「それはよかった」
「明日からも、よろしくお願いします」
「任せてください!」
俺たちはゴルドの屋敷に戻った。
「今日は疲れたわね」
リリアが言う。
「でも、良い疲れだな」
俺は微笑んだ。
「そうね。みんなが1つの目標に向かって頑張ってる」
ルーナも嬉しそうだ。
夕食の後、俺は外に出た。
夜空には、2つの月が輝いている。
「双月蝕まで、あと数ヶ月……」
俺は呟いた。
でも、今は醸造所の建設に集中しよう。
ドワーフたちに酒造りを教え、人と人を繋ぐ。
それが、俺の役割だ。
「天泣さん……」
俺は心の中で呟いた。
「あなたの夢、ちゃんと広げていきますから」
風が優しく吹いて、俺の頬を撫でた。
まるで、天泣さんが応援してくれているようだった。
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