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異世界酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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8/10

8杯目:魔界の村にて

保守派との和解から一週間が経った。


俺は正式に魔王の客人として迎え入れられ、城での生活にもすっかり慣れていた。


「アルさん、今日はどこに行きましょうか?」


リリアが朝食を済ませながら尋ねる。最近の彼女は、いつも楽しそうだ。


「そうだな…あの川に行ってみない?」


「川?」


「俺が最初に転移してきた場所」


リリアの表情がちょっと曇った。


「もしかして、元の世界に帰れる方法を探してるんですか?」


「まあ、ちょっと気になって」


実は、元の世界のことを時々思い出す。大学の友達は心配してるだろうか?まあ、酔っぱらいが川に落ちたんだから、事故だと思われてるかもしれない。


川辺に着くと、あの時と同じような静寂が広がっていた。


「何か変化はありますか?」


「うーん、特に何も」


川を眺めながら、俺は複雑な心境だった。元の世界に帰りたい気持ちもあるが、今の生活も悪くない。


「アルさんは…帰りたいですか?」


リリアの声に不安が混じっている。


「正直、分からない。でも今は、やりたいことがあるしね」


「やるべきこと?」


「この世界の酒も堪能したいし」


リリアがほっとしたような表情を見せた。


「それに…」


俺はリリアを見つめた。


「大切な人たちもいるし」


リリアの頬が赤くなった。角も微かに赤く光る。


「あ、あの…村に行ってみませんか?」


「村?」


「この近くに魔人族の村があるんです。アルさんのことを噂で聞いて、会いたがってる人たちがいるって」


---


村は思ったより大きく、活気があった。


宿屋、武器屋、魔法道具屋、日用品店…そして当然のように酒場もある。


「お、あそこだ」


俺は迷わず酒場に向かった。


「もう!アルさんったら」


リリアが苦笑いしながら付いてくる。


酒場の扉を開けると、魔人族の村人たちがざわめき始めた。


「あれが噂の人間か?」


「保守派を説得したって本当?」


「すげぇ、本当に角がないぜ」


俺たちがカウンター席に座ると、恰幅のいい店主が話しかけてきた。


「あんたがアルさんかい?」


「はい」


「俺はガロン。この店の親父だ。まずは一杯、おごらせてくれ」


「ありがとうございます」


ガロンが注いでくれた酒は、フルーティーな味わいの発酵酒だった。


「うまい!」


「だろう?自家製なんだ」


すると、他の村人たちも俺の周りに集まってきた。


「アルさん、保守派の連中には散々迷惑かけられたよ」


「そうそう、畑を荒らされたり、商売を邪魔されたり」


「でもアルさんのおかげで平和になった!」


次々と感謝の言葉をかけられる。


「いえいえ、俺は何も…」


「謙遜すんなって!」


気がつくと、村人たちが代わる代わる酒を奢ってくれている。


「これも飲んでくれ!」


「こっちも試してみて!」


断るわけにもいかず、俺はどんどん酒を飲んでいった。


「うおおお!」


案の定、欠陥チートが発動した。今回は蒸留酒と発酵酒のミックスだ。


「すげぇ!本当に光ってる!」


俺の体が虹色に光り、宙にビールジョッキが浮かび上がる。


「おお!」


村人たちが大歓声を上げた。


調子に乗って、俺は色んな芸を披露した。テーブルの上でタップダンス、空中に魔法の花火、果てはジョッキでジャグリングまで。


「アルさん、すごいです!」


リリアも楽しそうに手を叩いている。彼女の角も嬉しそうに赤く光っていた。


そこに——


「まあ、賑やかなこと」


聞き慣れた声が響いた。振り返ると、マリアが立っていた。


「マリア姉さま!」


「久しぶりね、みなさん」


マリアは村人たちに丁寧に挨拶した。保守派を解散してからの彼女は、本当に優しい表情になった。


「マリア様!」


「保守派のことは本当に申し訳ありませんでした」


村人たちがマリアの周りに集まる。しかし、その雰囲気は温かいものだった。


「マリア様、一杯どうぞ!」


「ありがとうございます」


マリアも酒場に加わり、宴はさらに盛り上がった。


俺の欠陥チートもまだ続いていて、今度は空中に踊る光の人形を作り出した。


「わー!」


子供たちが目を輝かせている。


「アルの能力って、本当に不思議ですね」


マリアが感心している。


「でも楽しいでしょ?」


「ええ、とても」


---


夜が更けて、俺たちは村の宿屋に泊まることになった。


「すみません、今夜は満室で…相部屋になってしまいます」


宿屋の女将さんが申し訳なさそうに言った。


「構いません」


部屋は二つしかない。リリアとマリア、そして俺一人。


「おやすみなさい」


マリアが自分の部屋に向かった。


俺とリリアは隣の部屋だ。


部屋に入ると、リリアがもじもじしている。


「どうした?」


「あの…今夜は相部屋ですね」


「ああ。嫌だった?」


「いえ!そうじゃなくて…」


リリアの顔が真っ赤になっている。


酒の効果でぼーっとしていた俺だが、さすがにこの雰囲気に気づいた。


「リリア…」


彼女は俺に少し近づいた。夜着姿のリリアは、いつもより大人っぽく見える。


「アルさん…」


リリアの角が、恥ずかしそうに赤く光っている。


「俺…」


俺も彼女に引かれるように近づいた。


リリアの瞳が潤んでいる。二人の距離がだんだん縮まって——


「うう…」


急激に眠気が襲ってきた。


「あ、アルさん?」


俺は意識を失い、ベッドに倒れ込んだ。


例の欠陥チートの副作用だった。


「もう…」


リリアは苦笑いしながら、俺に毛布をかけてくれた。


「おやすみなさい、アルさん」


彼女は俺の頬に、そっとキスをした。


---


翌朝、目が覚めると、リリアがベッドの横の椅子で眠っていた。


「リリア?」


「あ、おはようございます」


彼女は慌てて起き上がった。


「椅子で寝てたの?」


「あ、えーと…アルさんの寝顔があまりに平和そうで、見守ってたら眠くなって…」


リリアの頬が赤い。


昨夜のことを思い出そうとしたが、酒の影響で記憶が曖昧だった。


「何か…いいことあった気がするんだけど」


「え!?覚えてるんですか!?」


リリアが慌てる。


「うーん、よく覚えてないな」


「そ、そうですか…」


リリアはちょっと残念そうだった。


でも、今朝の彼女は、いつもより特別に輝いて見えた。


---


村での滞在は、俺たちにとって貴重な時間だった。


魔界の人々の温かさに触れ、リリアとマリアとの絆も深まった。


そして、俺自身も、この世界での自分の居場所を見つけたような気がした。


「さあ、城に戻りましょう」


マリアが言った。


「……」


「アルさん、何かボーっとしてますね」


「え?あ、何でもない」


リリアが首をかしげる。


帰り道、俺は村での出来事を反芻しながら

あったかく感じる空を眺めていた


次回予告:「ラビットールの畑荒らし」


※毎日更新予定です。お楽しみに!


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