表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔えば酔うほど異世界最強 〜ランダム酒魔法と極上の一杯で世界を救います〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/103

74杯目「2百年越しの約束」

 翌朝、ユリの声で目が覚めた。


「アル、起きて。今日が搾りの日よ」


「え……もう?」


 俺が慌てて起き上がると、ユリが微笑んでいた。


「ええ。もろみの発酵が完璧に進んでいるわ。今日、搾りの作業を行うわよ」


「分かりました! すぐ準備します!」


 急いで身支度を整えて醸造小屋に向かうと、すでにリリア、ルーナ、リーサが集まっていた。


「おはようございます、アル」


「おはよう、アル!」


「アルさん、おはようございます」


 三人が笑顔で迎えてくれる。


「みんな早いな」


「だって、日本酒が完成する日ですもの」


 リリアが嬉しそうに言う。


「楽しみで仕方ないわ」


 ルーナも目を輝かせている。


「私も、お手伝いします!」


 リーサが張り切っている。


 醸造小屋に入ると、甘く芳醇な香りが俺たちを包んだ。


「いい香り……」


 もろみの甕に近づくと、表面に細かい泡が立っている。


「完璧な発酵状態ね」


 ユリが満足そうに頷く。


「それでは、搾りの作業を始めましょう」


 ユリが準備していた布袋を取り出す。


「もろみをこの布袋に入れて、ゆっくりと搾るの。無理に力を加えると、雑味が出てしまうから注意してね」


「はい」


 俺たちは慎重に、もろみを布袋に移していく。


「リーサ、丁寧にね」


「はい!」


 リーサが真剣な表情で作業している。


「ルーナ、力を入れすぎないで」


「分かってるわ」


 ルーナが慎重に布袋を扱っている。


 そして、ゆっくりと搾り始める。


 布袋から、透明な液体が滴り落ちてくる。


「これが……日本酒」


 俺が呟くと、ユリが頷いた。


「そうよ。これが、あなたが造った日本酒」


 滴る酒は、透明で美しい。


「綺麗……」


 リリアが感嘆の声を上げる。


「まるで、水晶みたいね」


 ルーナも見とれている。


 搾りの作業は、数時間かかった。


 ゆっくりと、丁寧に。


 一滴一滴を大切に集めていく。


「よし、搾り終わったわ」


 ユリが大きな瓶に集めた日本酒を確認する。


「量も十分ね。これなら、みんなで楽しめるわ」


「でも、まだ飲めないんですよね?」


 俺が尋ねると、ユリが頷いた。


「ええ。まずは火入れをして、殺菌する必要があるの」


「火入れ?」


「酒を六十度くらいに温めて、酵母の活動を止めるのよ。そうしないと、瓶の中で発酵が進んでしまうから」


 ユリが説明しながら、大きな鍋に湯を沸かし始める。


「この温度管理が、また難しいのよ。高すぎると風味が飛んでしまうし、低すぎると殺菌できない」


「なるほど……」


 俺たちは慎重に、瓶を湯煎していく。


 ユリが温度計で確認しながら、絶妙な温度を保つ。


「……よし、これで大丈夫」


 火入れが終わり、日本酒を冷ましていく。


「これで、あと三日ほど寝かせれば……」


 ユリが微笑む。


「完成よ」


「やった……!」


 俺が喜ぶと、みんなも笑顔になった。


「よく頑張ったわね、みんな」


 ユリが俺たちを見回す。


「特にリーサ。あなたは本当によく働いてくれた」


「ありがとうございます!」


 リーサが嬉しそうに頬を染める。


「さあ、今日はここまで。後は日本酒が落ち着くのを待ちましょう」


 午後、俺たちはユリの小屋でお茶を飲んでいた。


「ユリさん」


 俺が切り出すと、ユリが俺を見た。


「昨夜の話……約束のこと、少しだけでも教えてもらえませんか?」


 ユリは少し考えてから、静かに口を開いた。


「……そうね。少しだけなら」


 ユリが窓の外を見つめる。


「その人の名前は、天泣てんなき


「てんなき……?」


「ええ。二百年前、この世界に召喚された日本人よ」


「え……!?」


 俺たちが驚くと、ユリは続けた。


「あなたと同じように、異世界から召喚された人。そして、酒造りの技術を持っていた」


「二百年前の……日本人」


 俺が呟くと、ユリが頷いた。


「天泣は、この世界で日本酒を造ることを夢見ていた。でも、当時はまだ米もなかった」


「それで……」


「彼は、魔法で黄金の稲穂を創り出したの。そして、私にこう言った——」


 ユリの目に、遠い記憶が浮かんでいる。


「『いつか、俺みたいな日本人が、また召喚されるかもしれない。その時まで、この稲穂を守っていてくれ』」


「……それが、約束」


「ええ」


 ユリが俺を見つめる。


「私は二百年間、彼との約束を守ってきた。そして……あなたが現れた」


「天泣さんは、今どこに……?」


 俺が尋ねると、ユリは悲しそうに首を横に振った。


「彼は……もうこの世界にいないわ」


「……」


「でも、彼の夢は生きている。あなたを通して、日本酒がこの世界に広まっていく」


 ユリが優しく微笑む。


「だから、アル。あなたの日本酒が完成したら……天泣に報告したいの」


「報告……?」


「ええ。彼の墓に行って、『約束を守ったよ』って」


 ユリの目に涙が浮かんでいる。


「二百年間、ずっと待っていたのよ。あなたみたいな人が現れることを」


「ユリさん……」


 リリアが感動した表情で見つめている。


「なんて長い時間……」


 ルーナも目に涙を浮かべている。


「二百年も、約束を守り続けたなんて……」


 リーサも感動している。


「ユリさん、俺……」


 俺が言葉を探していると、ユリが微笑んだ。


「あなたは何も言わなくていいのよ、アル。ただ、美味しい日本酒を造ってくれれば、それで十分」


「はい……!」


 俺は強く頷いた。


 絶対に、最高の日本酒を造る。


 天泣という人の夢を、ユリの約束を、この日本酒に込めて。


「ユリさん、天泣さんはどんな人だったんですか?」


 リリアが尋ねると、ユリは懐かしそうに微笑んだ。


「明るくて、情熱的で……酒造りが本当に好きな人だった」


「この世界に召喚された時、彼は絶望していたの。元の世界に帰れないことを知って」


「でも、酒造りに出会って、また笑顔を取り戻した」


 ユリが遠い目をする。


「『酒は、人と人を繋ぐんだ』って、いつも言っていたわ」


「……それ、俺も同じこと思ってた」


 俺が呟くと、ユリがくすりと笑った。


「やっぱり、日本人は同じことを考えるのね」


「天泣さんが造った日本酒は、どんな味だったんですか?」


 ルーナが興味深そうに尋ねる。


「それが……」


 ユリが少し寂しそうに言った。


「彼は、日本酒を完成させる前に……亡くなってしまったの」


「え……」


「病気だった。この世界の病気に、彼の体は適応できなかった」


 ユリの声が震える。


「だから、彼は『天泣』と名乗ったの。『天に泣く』——日本酒を完成させられずに死ぬことを嘆いて」


「……」


 俺たちは言葉を失った。


「でも、彼は最期にこう言った」


 ユリが涙を拭う。


「『いつか、俺みたいなやつが現れるかもしれない。それまで、稲穂を守っていてくれ』」


「だから、私は待っていたの。二百年間、ずっと」


 ユリが俺を見つめる。


「そして、あなたが現れた。天泣の夢を叶えてくれる人が」


「ユリさん……」


 俺は胸が熱くなった。


 二百年前の日本人。天泣。


 彼の夢を、俺が引き継ぐ。


「アル、あなたの日本酒が完成したら、一緒に天泣の墓に行きましょう」


「はい!」


「そして、報告するの。『あなたの夢は、叶ったよ』って」


 ユリが優しく微笑んだ。


 その夜、俺は一人で外に出た。


 星空が綺麗に見える。


「天泣さん……」


 俺は空を見上げた。


「俺、あなたの夢を叶えます。必ず、最高の日本酒を造ります」


 風が優しく吹き抜けていく。


 まるで、誰かが答えてくれているような気がした。


「アル」


 後ろからリリアの声がした。


「一人で考え事ですか?」


「ああ……天泣さんのこと、考えてた」


 リリアが隣に立つ。


「……すごい話ですよね」


「ああ」


「でも、アルならきっと、彼の夢を叶えられますよ」


 リリアが優しく言う。


「だって、アルがつくるお酒や情熱は本物だもの」


「ありがとう、リリア」


 俺が微笑むと、リリアも笑顔を見せた。


「さあ、戻りましょう。明日からまた、準備が始まりますよ」


「ああ」


 俺たちは小屋に戻った。


 三日後、日本酒が完成する。


 そして、天泣の墓に報告に行く。


 二百年越しの約束が、ついに果たされる。


 俺の酒造りの旅は、思いもよらない歴史と繋がっていた。


 そして、これからも続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ