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酔えば酔うほど異世界最強 〜ランダム酒魔法と極上の一杯で世界を救います〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

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72杯目「試飲会と街の選択」

「……今日が勝負の日か」


 窓の外を見ると、グラン・ハンマーの街はすでに活気に満ちている。


 いつもの鍛冶の音に混じって、何やらざわついた空気が流れてきた。


「アル、起きてるの?」


 ドアをノックする音と共に、リリアの声が聞こえた。


「ああ、起きてる」


「朝食の準備ができたわ。ゴルドさんが用意してくれたみたいです」


「分かった。すぐ行く」


 身支度を整えて食堂に向かうと、すでにみんなが集まっていた。


「おはよう、アル!」


 ルーナが笑顔で手を振る。


「よく眠れたかしら?」


「ああ、まあまあ」


 正直に言えば、緊張で何度も目が覚めた。でも、それは言わない方がいいだろう。


「アル殿、おはようございます」


 ゴルドが丁寧に挨拶してくれる。


「広場の準備は整いました。午前中から始められます」


「ありがとうございます」


「しかし……」


 ゴルドが少し不安そうな表情を見せる。


「長老ブルグたちも、かなり準備をしているようです」


「準備?」


「ええ。保守派の長老たちは、街の人々に『人間の酒など飲むべきではない』と説いて回っているとか……」


 ドラが苦い顔をする。


「あの頑固者どもめ……」


「でも、若い職人たちは逆に『アル殿の酒を試してみたい』と盛り上がっているぞい」


 グラが付け加える。


「街が完全に二分されてしもうたな……」


 ダグが深刻な顔をする。


「だからこそ、今日の試飲会が大切なんです」


 ベルガモットが広間に入ってきた。


「おはようございます、皆さん」


「ベルガモットさん、おはようございます」


「アル殿、準備はいいですか?」


「はい。焼酎は持ってきました」


 俺がユリから預かった瓶を見せると、ベルガモットが頷いた。


「しかし、これだけでは足りないかもしれません。街の人口は約三千人。全員に飲ませるのは無理でも、できるだけ多くの人に試してもらいたい」


「それなら……」


 ゴルドが別の瓶を持ってきた。


「昨夜、ドラたちから少し分けてもらった焼酎を、水で割って薄めました。これなら、もう少し多くの人に試してもらえます」


「ありがとうございます!」


 朝食を終えると、俺たちは広場へと向かった。


 グラン・ハンマーの中央広場は、普段は市場として使われている場所だ。


 今日は特別に、中央に大きなテーブルが設置されていた。


「おお……すごい人だ」


 広場にはすでに、大勢のドワーフたちが集まっていた。


「あれが、人間のアルか」


「遺跡の騒動で街を救ったという……」


「でも、人間の造った酒など……」


「いや、試してみる価値はあるんじゃないか?」


 ドワーフたちの間で、様々な声が飛び交っている。


「さあ、アル殿。あちらへ」


 ゴルドが俺を中央のテーブルへと案内した。


 テーブルの上には、たくさんの小さな杯が並べられている。


「これで、一人ずつ試飲してもらいます」


 その時、広場の反対側から、長老ブルグたちが現れた。


「ふん、人間が来たか」


 ブルグが腕を組んで、俺を睨みつける。


「さあ、始めるがいい。どうせ、我らドワーフの舌を満足させることなどできまい」


「やってみます」


 俺は瓶を手に取った。


「それでは、試飲会を始めます!」


 ゴルドが大きな声で宣言すると、ドワーフたちがざわめいた。


「皆さん、今日は大切な日です。アル殿の酒を試し、この街の未来を決める日です」


 ゴルドが続ける。


「条件は昨日お伝えした通り。街の半数以上がアル殿の酒を認めれば、正式に取引を行います」


「逆に、半数に満たなければ……」


 ブルグが割り込む。


「この人間は、二度とこの街に足を踏み入れることはできん」


 俺は深呼吸をして、前に出た。


「皆さん、初めまして。アルと申します」


 広場が静まり返る。


「俺は、酒造りを通じて、人と人を繋ぎたいと思っています」


 俺が焼酎の瓶を掲げる。


「この焼酎は、黄金の稲穂を使った蒸留酒です。ユリさんの指導の下で、心を込めて造りました」


「ドワーフの伝統を否定するつもりはありません。むしろ、新しい可能性を示すものだと信じています」


「ふん! きれい事を!」


 ブルグが鼻を鳴らす。


「まず、賛成派の者から試してみるんじゃな」


 一人の若いドワーフが前に出てきた。


「俺は、アル殿を信じてる! 試させてくれ!」


「ありがとう」


 俺は杯に焼酎を注いだ。


 若いドワーフは杯を受け取り、一口飲んだ。


「……っ!」


 彼の表情が変わる。


「これは……!」


「どうだ?」


 周りのドワーフたちが注目する。


「うまい! すごくうまいぞ!」


 若いドワーフが興奮した様子で叫ぶ。


「こんな酒、飲んだことない! すっきりしてるのに、深い味わいがある!」


「本当か!?」


「俺にも飲ませてくれ!」


 次々と、若いドワーフたちが前に出てきた。


 俺は一人ずつ、丁寧に焼酎を注いでいく。


「おお……これは確かに」


「雑味がないな」


「喉越しが最高じゃ!」


 賛成派のドワーフたちは、次々と焼酎を絶賛した。


「ふん、若造どもが騒いでおるだけじゃ」


 ブルグが鼻を鳴らす。


 だが、しだいに保守派の中からも興味を示す者が現れ始めた。


「ちょっと……俺も試してみたいんじゃが」


 中年のドワーフが恐る恐る前に出てくる。


「どうぞ」


 俺が杯を差し出すと、彼は慎重に一口飲んだ。


「……これは」


 彼の目が見開かれる。


「確かに、素晴らしい酒じゃ……」


「おい、本当か?」


「嘘じゃない。これは……間違いなく上質な酒じゃ」


 その声を聞いて、さらに多くのドワーフたちが試飲の列に並び始めた。


 保守派と賛成派の境界が、少しずつ曖昧になってくる。


「これは……予想以上の出来じゃのう」


 保守派の長老の一人が呟く。


「ちょっと待て、お前まで……!」


 ブルグが慌てる。


「しかし、ブルグよ。これだけ多くの者が認める酒を、頭ごなしに否定するのは……」


「黙れ! わしは絶対に認めん!」


 ブルグが頑なに拒否する。


 その時、ドラが前に出た。


「長老ブルグ、お願いじゃ。一度だけでも、飲んでみてくだされ」


「わしが? 人間の酒を?」


「アルの酒は、本当に素晴らしいんじゃ。長老なら、その価値を正しく判断できるはずじゃ」


 グラとダグも続く。


「お願いします、長老」


「一口だけでも……」


 ベルガモットも口を開く。


「長老ブルグ、これは新しい技術の可能性なのです」


「商人として数多くの酒を扱ってきた私が保証します。これは、間違いなく一級品です」


「……」


 ブルグが沈黙する中、俺が一歩前に出た。


「長老ブルグ」


「何だ、人間」


「俺は、ドワーフの伝統を否定したいわけじゃありません」


 俺が真剣な目で長老を見つめる。


「新しいものと古いもの、両方が共存できると信じています」


「この酒を通じて、人と人が繋がることができる。それが、俺の願いです」


 俺が杯に焼酎を注ぎ、長老に差し出す。


「どうか、一度だけ試してください」


 長老ブルグは、しばらく俺と杯を見つめていた。


 そして——


「……ふん」


 彼は杯を手に取った。


 広場が静まり返る。


 ブルグは杯を口元に運び、慎重に匂いを嗅ぐ。


「……」


 そして、一口飲んだ。


「……!」


 ブルグの目が見開かれる。


 しばらくの沈黙の後——


「……これは」


 ブルグが小さく呟く。


「どうじゃ、長老?」


 周りのドワーフたちが息を呑んで見守る。


「……認めよう」


 ブルグの言葉に、広場がどよめいた。


「この酒は……確かに優れている」


 ブルグが俺を見た。


「人間よ——いや、アル殿」


「はい」


「わしの負けじゃ。この酒は、わしらドワーフがのんできた酒に劣らぬ、いや、それ以上の出来じゃ」


 広場が歓声に包まれた。


「やった!」


「長老が認めたぞ!」


「これで、正式に取引ができる!」


 ドワーフたちが喜び合っている。


「皆さん!」


 ゴルドが大きな声で宣言した。


「長老ブルグをはじめ、街の大多数がアル殿の酒を認めました! よって、正式に取引を行うことを決定します!」


 さらに大きな歓声が響く。


「そして!」


 ベルガモットが前に出た。


「私からも提案があります」


「グラン・ハンマーに、アル殿の指導のもと、新しい醸造所を作りませんか?」


「醸造所……!」


 ゴルドの目が輝いた。


「それは素晴らしい案だ!」


「アル殿が技術を教え、わしらドワーフが酒造りを学ぶ」


「そして、そこで造られた酒を、私が魔界で販売する」


 ベルガモットの提案に、広場がさらに沸いた。


「異議なし!」


「それは名案じゃ!」


「わしらも協力するぞい!」


 ドラ、グラ、ダグが興奮している。


「よし、決まりじゃ」


 ブルグも頷いた。


「アル殿、わしらに酒造りを教えてくれるか?」


「喜んで」


 俺が答えると、広場はさらに大きな歓声に包まれた。


「これで、街もまた一つになれる」


 ゴルドが感謝の言葉を述べる。


「若造どもに負けておれんのう」


 ブルグも笑顔を見せた。


 試飲会は大成功に終わった。


 街全体が祝賀ムードに包まれ、保守派と賛成派の対立も解消された。


「やったわね、アル!」


 ルーナが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「よくやりました」


 リリアも微笑んでいる。


「みんなのおかげだよ」


 俺は仲間たちを見回した。


 ドラ、グラ、ダグ。ベルガモット。ゴルド。そして、ルーナとリリア。


 みんなが協力してくれたから、この結果が得られた。


「さあ、アル殿」


 ゴルドが俺の肩を叩く。


「醸造所の場所を見に行きましょう。新しい計画が始まります」


「はい!」


 俺は頷いたが、心の奥で小さな想いが湧き上がった。


 醸造所の建設は素晴らしいことだ。でも、俺にはまだやらなければならないことがある。


「次は、日本酒を完成させないとな」


 俺が呟くと、リリアが隣に立った。


「私たちも一緒ですよ、アル」


「そうよ。何があっても、アルと一緒よ」


 ルーナも力強く言う。


「ありがとう、二人とも」


 俺は安心した。


 仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられる。


 空を見上げると、洞窟の天井に開いた穴から、光が差し込んでいた。


 グラン・ハンマーでの新しい挑戦が始まる。


 でも、その前に……ユリの山に戻り、本格的な酒造りを完成させたい。

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