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酔えば酔うほど異世界最強 〜ランダム酒魔法と極上の一杯で世界を救います〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

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71杯目「グラン・ハンマーと分断の影」

 翌朝、俺たちはユリの小屋の前で出発の準備を整えていた。


 空には朝日が昇り始め、山の空気は清々しい。


「アルさん、これ……」


 リーサが小さな包みを差し出してきた。


「これは?」


「お弁当です。道中で食べてください」


 リーサが恥ずかしそうに言う。


「ありがとう、リーサ」


 俺が受け取ると、リーサは少し寂しそうに微笑んだ。


「みんな、気をつけて行ってきてください」


「リーサも、無理しないでね」


 ルーナがリーサを抱きしめる。


「はい……」


「強くなって、また一緒に旅しましょうね」


 リリアも優しく声をかける。


「必ず……!」


 リーサが涙を堪えながら頷いた。


「さあ、出発するぞい!」


 ドラが馬車に乗り込む。


「グラン・ハンマーまで、二日の道のりじゃ!」


 グラも続く。


「行ってくるぞい、ユリ殿!」


 ダグが手を振った。


「気をつけて。アル、長老たちは頑固だけど、心は悪くないわ。誠意を持って話せば、きっと分かってくれる」


 ユリが励ましてくれる。


「はい! 行ってきます!」


 俺たちは馬車に乗り込み、ユリの山を後にした。


 振り返ると、リーサとユリが小さく手を振っている。


「……頑張れよ、リーサ」


 俺は心の中でそう呟いた。


 馬車は山道を下り、やがて平地へと出た。


「そういえば、あの遺跡の騒動の後、街はどうなったんだ?」


 俺が尋ねると、ドラが少し複雑な表情を浮かべた。


「ああ、あの時はアルたちのおかげで助かったんじゃ」


「遺跡から出てきた魔物を退治してくれて、街は平和を取り戻したぞい」


 グラが頷く。


「あの後、街では『人間のアルが街を救った』という話が広まったんじゃ」


 ダグが続ける。

 

「それで、若い職人たちは『人間も信頼できる』『外の技術も学ぶべきだ』と考えるようになった」


 ドラが説明する。


「でも、長老たちは違ったんじゃ……」


 グラが表情を曇らせる。


「『たまたま運が良かっただけじゃ』『ドワーフの伝統を守らねば』と頑なでな」


「むしろ、若者たちが外に目を向けることを警戒するようになってしもうた」


 ダグが深刻な顔で言う。


「それで、今回の対立が……」


 俺が呟くと、ドラが頷いた。


「そうじゃ。お前のカクテルが魔界で人気になったと聞いて、若い職人たちは『アルと取引したい』と言い出した」


「でも、長老たちは『人間の造った酒など認めぬ』と反対したんじゃ」


 グラが付け加える。


「あの遺跡の件で、お前を恩人だと思っている者も多いんじゃが……長老たちの力は強い」


 ダグが苦い顔をする。


「だから、アルに来てもらったんじゃ。お前が直接説明すれば、長老たちも考えを変えるかもしれん」


「俺にそんなことができるかな……」


「大丈夫じゃ! あの時お前は街を救ってくれた。今度はお前の酒で、街の未来を開いてくれ!」


 ドラが力強く言った。


 馬車は順調に進み、一日目の夜は街道沿いの宿屋で休んだ。


 二日目の午後、遠くに大きな山が見えてきた。


「あれが、わしらの街がある山じゃ!」


 ドラが指差す。


「前に来た時以来だな」


 俺が懐かしそうに言う。


「そうじゃのう。あの時は、もっと平和だったんじゃが……」


 グラが複雑な表情を浮かべる。


 やがて、山の麓に巨大な石造りの門が見えてきた。


 門の両脇には、立派な角を持つドワーフの警備兵が立っている。


「おお、ドラたちか! 帰ってきたんじゃな!」


 警備兵の一人が手を振った。


「ただいま戻ったぞい!」


「アル殿も! お久しぶりでございます!」


 警備兵が俺を見て笑顔を見せる。


「久しぶりです。以前お世話になりました」


 俺も笑顔で返した。以前、カクテルの材料を求めてこの街を訪れた時、警備兵たちには親切にしてもらった。


「今回は酒造りの件で来られたと!」


「ええ、まあ……」


「わしらは賛成派じゃ! アル殿の酒、ぜひ飲ませてくだされ!」


「ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、警備兵たちは嬉しそうに笑った。


「さあ、中へどうぞ! ゴルド様たちが待っておられる!」


 門をくぐると、見慣れた地下都市の光景が広がった。


 グラン・ハンマー——ドワーフの誇る地下都市。


 石造りの建物が立ち並び、街路には灯りが灯っている。


「久しぶりね、グラン・ハンマー」


 ルーナが懐かしそうに呟く。


「前に来た時より、何だか雰囲気が違いますね……」


 リリアが不安そうに周囲を見回す。


 街中からは、相変わらず金槌を打つ音が響いてくる。


 カンカンカン——


「この音、変わらないのう」


 ドラが言う。


「でも、雰囲気は変わってしもうた……」


 だが、街を歩いていると、以前とは明らかに違う空気を感じた。


 ドワーフたちの表情が、どこか硬く、張り詰めている。


「……あれは賛成派じゃな」


「あっちは保守派か」


 すれ違うドワーフたちが、互いを警戒するような目で見ている。


「街の雰囲気が……」


 俺が呟くと、ドラが苦い顔をした。


「ああ……対立が、かなり深刻になっているようじゃ」


 馬車は街の中心部へと進んでいく。


 やがて、立派な建物の前で止まった。


「ここが、鍛冶頭ゴルドの屋敷じゃ」


 グラが説明する。


「そして……」


 ダグが別の建物を指差した。


「あそこに止まっているのは、ベルガモット殿の馬車じゃ」


 見ると、豪華な装飾が施された立派な馬車が停まっている。


「待っててくれたんだな」


 俺が呟いた時、屋敷の扉が開いた。


「よく来てくれた、ドラたち!」


 立派な角を持つ、貫禄のあるドワーフが現れた。


「ゴルド! 連れてきたぞい!」


「これがアル殿か! 初めてお目にかかります!」


 ゴルドと呼ばれたドワーフが、俺の手を強く握った。


「アルです。初めまして」


「ゴルドと申します。グラン・ハンマーの鍛冶頭を務めております」


 ゴルドが丁寧に挨拶する。


「ドラたちから、あなたの噂は聞いておりました。カクテルの件、街でも評判でしたよ」


「ありがとうございます」


 以前この街を訪れた時、ドラたちの親方には会ったが、鍛冶頭のゴルドとは会う機会がなかった。


「あの時は親方殿にお世話になりました」


「ええ、親方からも聞いております。あなたは信頼できる人物だと」


 ゴルドが笑顔を見せるが、その表情にはどこか疲れが見える。


「しかし……今回は難しい状況でお呼びしてしまいました」


「さあ、中へどうぞ。ベルガモット殿もお待ちです」


 俺たちは屋敷の中に案内された。


 広間に入ると、そこには見覚えのある姿があった。


「やあ、アル殿! よくぞお越しくださった!」


 堂々とした体格に、立派な角。上質なスーツに身を包んだ魔族の男性——ベルガモット商人だ。


「ベルガモットさん! お久しぶりです!」


「ははは! お元気そうで何よりです!」


 ベルガモットが俺の肩を叩く。


「カクテルの件では大変お世話になりました。あれは魔界で大人気ですよ」


「それはよかったです」


「そして今回、グラン・ハンマーで新しいお酒ができたと聞いて、居ても立ってもいられず参りました」


 ベルガモットの目が真剣になる。


「黄金の稲穂を使った、全く新しい種類の酒。それも、蒸留酒まで造られたと」


「はい。日本酒——いえ、米から造る醸造酒はまだ仕込み段階ですが……焼酎なら完成しています」


 俺がユリからもらった瓶を取り出すと、ベルガモットの目が輝いた。


「これは……!」


「しかし、アル殿」


 ゴルドが深刻な表情で口を開いた。


「問題があります。保守派の長老たちが、あなたの酒を認めようとしないのです」


「『人間の造った酒など、ドワーフの伝統に反する』と……」


 ベルガモットが苦い顔をする。


「私が取引を申し出たことで、かえって事態が悪化してしまいました」


「いえ、ベルガモット殿のせいではありません」


 ゴルドが首を振る。


「元々、保守派と革新派の対立はあったのです。これが、きっかけになっただけで……」


 その時、広間の扉が勢いよく開かれた。


「ゴルド! 人間を連れ込んだと聞いたぞ!」


 白い髭を蓄えた、年老いたドワーフが数人の仲間と共に入ってきた。


「長老ブルグ……」


 ゴルドが身構える。


「これが、その人間か!」


 ブルグと呼ばれた長老が、俺を睨みつけた。


「わしらドワーフの酒は、ドワーフが造るものじゃ! 人間風情が、酒造りなど笑止千万!」


「待ってください、ブルグ長老!」


 ゴルドが割って入る。


「アル殿の酒は、ユリ殿が認めたものです! 一度味わってから判断を——」


「黙れ! ユリはよそ者じゃ! あやつの言うことなど信用ならん!」


 ブルグが怒鳴る。


「それに、若造のお前が口を出すな! わしらは何百年もこの街を守ってきたのじゃぞ!」


「しかし……!」


「問答無用じゃ!」


 ブルグが俺に向き直った。


「人間よ、とっとと帰れ! お前の酒など、この街には不要じゃ!」


 その言葉に、俺は拳を握りしめた。


 試飲もせずに否定するのか。話も聞かずに追い返すのか。


「……一度、飲んでみてください」


 俺は焼酎の瓶を取り出した。


「これは、黄金の稲穂で造った焼酎です。ユリさんと一緒に、心を込めて造りました」


「ふん! そんなものを飲む価値もない!」


 ブルグが手を払う。


 だが、その時——


「長老ブルグ、それは違うぞい」


 ドラが前に出た。


「わしらは、アルの酒を飲んだ。それは、どんなドワーフの酒にも劣らん、素晴らしい酒じゃった」


「ドラ、お前まで……!」


「わしも同意見じゃ」


 グラも続く。


「アルの酒は、ドワーフの誇りに傷をつけるものではない。むしろ、新しい可能性を示してくれるものじゃ」


「わしらは鍛冶屋じゃ。新しい技術を学び、取り入れることで成長してきた」


 ダグが力強く言う。


「酒造りも、同じではないのか?」


 長老ブルグの顔が紅潮する。


「お前たち……若造が生意気な!」


「長老ブルグ」


 今度は、ベルガモットが静かに口を開いた。


「私は商人として、数多くの酒を扱ってきました。その私が、アル殿の酒に価値を見出しているのです」


「魔族の商人が何を言うか!」


「でしたら——」


 ベルガモットが提案する。


「明日、公開試飲会を開きませんか? 街の皆さんに、アル殿の酒を飲んでいただく。そして、判断は街の人々に委ねる」


「……ほう」


 ブルグが興味を示した。


「街の者たちが、その酒を不味いと言えば、お前は諦めるのか?」


「はい」


 俺は頷いた。


「でも、もし美味しいと言ってもらえたら……認めていただけますか?」


 ブルグは しばらく考え込んだ。


 そして——


「……よかろう。明日、広場で試飲会を開け」


「本当ですか!?」


「ただし! 街の半数以上が認めなければ、二度とこの街に来るな!」


 ブルグが厳しい条件を突きつけた。


「分かりました」


 俺は覚悟を決めて頷いた。


「必ず、認めてもらいます」


「ふん! 出来るものならやってみろ!」


 ブルグたち長老は、そう言い残して広間を出て行った。


 静寂が訪れる。


「アル殿……」


 ゴルドが心配そうに俺を見る。


「大丈夫です」


 俺は瓶を握りしめた。


「この酒なら、絶対に分かってもらえる」


「アル……」


 リリアとルーナが、心配そうに俺を見つめる。


「明日、勝負じゃな」


 ドラが真剣な表情で言った。


「ああ」


 俺は頷いた。


 明日の試飲会。


 そこで、俺は自分の酒を認めてもらわなければならない。


 グラン・ハンマーの未来が、この勝負にかかっている。

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