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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい


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7/12

7杯目 カクテルと繋がる心


「それで、次はどうするの?」


翌日の昼過ぎ、アルは部屋でリリアと作戦会議をしていた。テーブルには魔界の酒が数本並んでいる。


「正直、何を話せばいいのかわからないんだよね......」


アルは頭を掻いた。昨日のマリアとの対面は、正直言って手探りだった。平手打ちを食らって終わったが、それでも「考えてやろう」という言葉はもらえた。


「姉様、少しだけ心を開いてくれたと思います」


リリアの角がほんのり赤く染まる。


「でも、次に何を話せば......」


「あのさ」


アルは酒瓶を手に取った。


「酒、持っていこうと思うんだけど。それも、ただの酒じゃなくて——」


「ただの酒じゃない?」


「俺の世界で人気だったカクテルを、魔界の材料で作ってみようかなって」


アルはニヤリと笑った。


「カクテル......ですか?」


「そう。複数の酒を混ぜて作る飲み物。見た目も綺麗だし、味も色々変えられる。魔界にはないでしょ?」


リリアは目を輝かせた。


「それは素敵ですね!姉様、きっと驚かれます!」


「だろ?バイト先のバーで見よう見まねで覚えたんだよね。まあ、プロじゃないから本格的なのは無理だけど」


アルは魔界の蒸留酒、果実酒、リキュール類を並べ始めた。


「よし、じゃあ準備しよう。マリアさんを驚かせてやる」


* * *


再び西棟の大広間へと向かう二人。今回、アルは様々な種類の魔界の酒と、調合用の道具を持参していた。


「......今度は何の用だ」


マリアは玉座のような椅子に座り、冷たい視線を向けてくる。だが、昨日よりも明らかに——表情は柔らかかった。


「約束通り、もっとマシな話を持ってきたよ」


アルは酒瓶をテーブルに並べ始めた。


「それと——今日は特別な酒を作ってみようと思って」


「特別な酒?」


マリアは興味を示した。


「俺の世界では、カクテルって言ってね。複数の酒を混ぜて、新しい味を作るんだ」


「混ぜる......?」


周囲の保守派たちもざわめく。魔界では、酒は基本的にそのまま飲むものだ。


「まあ、見てて」


アルは手慣れた様子で、蒸留酒に果実酒を加え、さらに少量のリキュールを注ぐ。軽く混ぜると、美しい赤と金色のグラデーションができあがった。


「これが俺の世界の代表的なカクテルの一つ......魔界版『サンセット』だ」


マリアは目を見開いた。グラスの中で、夕焼けのような美しい色彩が揺れている。


「綺麗......」


思わず呟いたマリアは、慌てて表情を引き締めた。


「見た目だけではないだろうな」


「もちろん。どうぞ」


マリアはグラスを手に取り、一口飲んだ。


「——!」


その味は、彼女の知るどの酒とも違った。甘さと苦さ、爽やかさとコクが絶妙に混ざり合い、複雑な風味が口の中に広がる。


「美味い......これは......」


「でしょ?魔界の材料だけでも、工夫次第で新しいものが作れる。それって——」


アルは真っ直ぐにマリアを見つめた。


「種族が違っても、同じじゃないかな。人族も魔人族も、それぞれの良さを混ぜ合わせれば、もっと素晴らしいものが生まれるかもしれない」


マリアは黙っていた。


「お前は......本当に、面白いことを言う」


「さあ、もう一杯どうぞ。今度は違う味で」


アルは次々とカクテルを作っていく。青く光るもの、紫色のもの、層になっているもの——。


「これは『魔界の星空』。これは『二つの月』。これは——」


「待て待て。そんなに飲めん」


マリアは苦笑した。その表情は、確かに昨日より柔らかい。


周囲の保守派たちも、その様子を静かに見守っていた。厳格なマリア様が、人族と笑い合っている——。


「あのさ、マリアさん」


アルは少し真剣な表情になった。


「昨日の続き、聞いてもいい?」


「......何だ」


「あんたが好きだった人——その人のこと、ちゃんと覚えてる?」


マリアの表情が曇った。


「当然だ。忘れられるわけがない」


「じゃあ、その人がどんな人だったか......どんな言葉をかけてくれたか、全部覚えてる?」


「それは......」


マリアは言葉に詰まった。


「正直に言うと......最後の別れの言葉ばかりが頭に残って......他のことは、段々と薄れてきている」


その時、アルは醸造酒のグラスを手に取り、一気に飲み干した。


「おっと......来るか?」


アルの体がほんのりと光り始めた。そして——今回は特殊能力系のようだ。


「アル?」


リリアが心配そうに声をかける。


アルは自分の手を見つめた。何か......記憶に関する力のような——。


「マリアさん、手を貸して」


「何を——」


「いいから」


アルがマリアの手を握った瞬間——


広間全体が淡い光に包まれた。


そして、空中に映像が浮かび上がる。


「これは——!」


マリアが驚愕の声を上げた。


そこには、若き日のマリアと、一人の人族の青年の姿があった。


「あの人......」


映像の中で、二人は笑い合っている。


『マリア、君の角って本当に綺麗だね』


青年が優しく微笑む。


『種族なんて関係ない。僕は君のことが好きだ。君の優しさも、天然なところも、全部』


『私も......あなたのことが......』


映像のマリアは幸せそうに微笑んでいた。


そして次の場面——青年は周囲の人族たちと何か激しく言い争っている。


『なぜだ!マリアは素晴らしい人だ!なぜ君たちはそれを認めない!』


『目を覚ませ!魔族だぞ!我々の敵だ!』


『そうだ!お前は騙されているんだ!』


青年は苦悩の表情を浮かべている。そして——マリアの前で、涙を流しながら言った。


『ごめん......僕は弱かった。君を守れない......』


『どうして......』


『僕は......君と一緒にいられない。周りが......許してくれない......』


そこで映像は途切れた。


「あの人......泣いていた?」


マリアは呆然としていた。


「私は......最後の『魔族なんかと一緒にいられるか』という言葉ばかり覚えていて......でも、その前に......あの人は泣いていた......」


涙が頬を伝う。


「あの人は......本当は私のことを......」


「そうだよ」


アルは優しく言った。


「その人は、あんたを愛していた。でも、周りの圧力に負けてしまった。弱かったんだ」


「あの人は......私を憎んでいたわけじゃ......」


マリアの声が震える。


「ずっと......ずっと、私は憎まれたと思っていた。人族全てに裏切られたと......」


「違うよ。裏切ったのは『周りの人族』であって、『その人』じゃない」


アルは続けた。


「もちろん、その人が弱かったのは事実だ。あんたを守れなかった。でも——それは、人族全員がそうだってことじゃない」


マリアは両手で顔を覆った。


「私は......間違っていた......あの人を憎むのではなく......本当に憎むべきは、差別や偏見そのものだったのに......」


リリアが姉に駆け寄った。


「姉様......」


「リリア......私は、なんて愚かだったのだろう」


マリアは妹を抱きしめた。


「人族全てを憎んで......お前まで苦しめて......」


周囲の保守派たちも、動揺していた。


「マリア様が......」


「私たちも......もしかしたら......」


だが、その時——


ガシャン!


突然、窓ガラスが割れた。


「何事だ!?」


黒い影が次々と広間に飛び込んでくる。ダークウルフ——それも複数だ。


「ダークウルフ!?なぜ城内に!」


リリアが叫ぶ。


そして、影の中から矢が放たれた。


「マリア様、危ない!」


「アル!」


矢はアルとマリアに向かって飛んでくる。


「くそっ!」


アルは咄嗟に蒸留酒の瓶を掴み、一気に飲み干した。


「頼む——当たってくれ!」


アルの体が激しく光り輝いた。肉体強化系——しかも、過去最大級のパワーだ。


「おおおお!」


アルは矢を素手で叩き落とし、襲いかかるダークウルフを次々と殴り飛ばす。


「リリア!マリアさんを守って!」


「はい!」


リリアは魔法で防御障壁を展開する。


だが、矢は次々と飛んでくる。


「マリア様!伏せて!」


保守派の騎士たちが盾になろうとするが——


一本の矢が、マリアに向かって飛んできた。


「姉様!」


「——!」


その瞬間、アルが飛び込んだ。


ガキン!


アルは矢を素手で掴み、砕いた。


「大丈夫か、マリアさん!」


「お、お前......なぜ......」


マリアは呆然としていた。人族であるアルが、自分を庇った?


「当たり前でしょ。友達を守るのに理由なんていらない」


「友達......?」


「そう。俺、あんたのこと友達だと思ってるから」


アルはニッと笑った。


その笑顔に、マリアの心が大きく揺れた。


「侵入者を確認!制圧する!」


魔王直属の騎士団が到着した。


暗い影の中から、数人の魔人族が逃げ出そうとしていた。


「逃がすか!」


騎士たちが追跡する。だが、彼らは煙幕を使って姿を消した。


「くっ......逃げられたか......」


「まさか......過激派の一部が、マリア様を利用して......」


「我々は......踊らされていたのか?」


保守派たちが動揺する中、アルの体が光を失った。


「うお......やっぱ疲れる......」


アルはその場に膝をついた。


「アル!」


リリアとマリアが同時に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「ちょっと疲れただけ......でも、みんな無事で良かった」


アルはニコリと笑った。


マリアは、そんなアルを見つめていた。


(この人族は......私を守った。種族の壁を越えて......)


そして、決意した。


「みんな!」


マリアが立ち上がり、保守派たちに向かって叫んだ。


「私は間違っていた!人族全てを憎むのは......間違っていた!」


「マリア様!?」


「本当に憎むべきは、差別や偏見そのものだ。種族ではない」


マリアの瞳には、強い意志が宿っていた。


「今日をもって、保守派は解体する。私は——リリアと共に、真の種族和平を目指す」


「マリア様......」


保守派たちは戸惑いながらも、少しずつ頷き始めた。


「私たちも......マリア様に従います」


「そうだ。もう、憎しみに囚われるのはやめよう」


マリアはアルに向き直った。


「アル。お前の言う通りだった。私は——本当の心を取り戻すことができた」


「良かった」


アルは疲れた表情で笑った。


「じゃあ、これで一件落着——って言いたいところだけど、あの逃げた奴ら、危なくない?」


「過激派の一部が逃げたようだ。必ず捕らえる」


マリアは騎士たちに命じた。


「総力を挙げて逃亡者を捜索せよ!」


「御意!」


* * *


その夜——


西棟の大広間では、和解を祝う宴が開かれていた。


「よくやったぞ、アル」


魔王ゼクセル・クマガワ自らが現れ、アルの肩を叩いた。


「いやー、死ぬかと思いました」


「ははは!だが、見事だった。娘たちを和解させただけでなく、保守派全体を変えてしまうとは」


「それはマリアさんの決断ですよ」


アルは謙遜する。


マリアとリリアは、久しぶりに姉妹で笑い合っていた。


「リリア、覚えているか?昔、一緒に花摘みに行ったこと」


「はい!姉様、あの時転んで泥だらけになりましたよね」


「や、やめろ!その話は!」


二人は笑い合う。その光景を見て、魔王は目を細めた。


「ありがとう、アル。本当に......ありがとう」


「どういたしまして。俺も楽しかったですよ」


アルは酒を飲みながら、満足そうに笑った。


だが——


「ただ、あの逃げた過激派が気になるんだよね」


「ああ。必ず捕らえる」


魔王の表情が厳しくなる。


その頃——


城の外、暗闇の中で逃亡した過激派の一人が息を潜めていた。


影は静かに闇に溶け込み、姿を消した。


新たな火種が、静かに燻り始めていた——。


次回予告:「魔界の村にて」


※毎日更新予定です。お楽しみに!

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