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異世界転生酔いどれ世直し記〜酒飲みながら平和にしてやんよ編〜  作者: 晴天よよい
第二章 杯を重ねて世界を知る編

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68杯目「酒造りの始まり」

 翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました。


「……ん」


 体を起こすと、昨日の戦いの疲れはすっかり取れていた。ユリの小屋で眠ると、不思議と体が軽くなる気がする。


 窓の外を見ると、黄金の稲穂が朝日を浴びて輝いていた。


「綺麗だな……」


 俺が呟いていると、ドアをノックする音がした。


「アル、起きてる?」


 リリアの声だ。


「ああ、今起きたところ」


「朝ごはんの準備ができたって。ユリさんが呼んでるよ」


「分かった。すぐ行く」


 俺は身支度を整えて、部屋を出た。


 居間に行くと、既にみんなが集まっていた。


「おはよう、アル!」


 ルーナが元気よく手を振る。


「おはようございます、アルさん」


 リーサも笑顔で挨拶してくれた。


「おはよう、アル。よく眠れたかい?」


 ユリが優しく尋ねる。


「はい、おかげさまで」


「それはよかった。さあ、朝ごはんを食べましょう」


 テーブルには、和風の朝食が並んでいた。ご飯、味噌汁、焼き魚、漬物。


「うわぁ……懐かしい」


 俺が感嘆の声を上げると、ユリがくすくすと笑った。


「やっぱり、日本の朝ごはんが恋しいでしょう?」


「めちゃくちゃ恋しいです!」


 俺が目を輝かせると、リリアとルーナが顔を見合わせた。


「アル、またその顔してる」


「本当に嬉しそうね」


 二人に突っ込まれて、俺は苦笑した。


 朝食を食べ終えると、ドワーフ三人組も小屋にやってきた。


「おはよう、アル!」


 ドラが豪快に扉を開ける。


「昨日はやっぱりすごかったのう!」


 グラが興奮した様子で言う。


「ドラゴンによじ登るなんて、普通できないぞい!」


 ダグも感心している。


「あはは……もうやりませんよ」


 かれこれ何回目だろうかそう考えながら苦笑していると、ユリが立ち上がった。


「さて、みんな。今日から本格的な酒造りを始めましょう」


「本格的な酒造り……!」


 俺が身を乗り出すと、ユリは頷いた。


「まずは、黄金の稲穂の収穫から。アル、手伝ってくれる?」


「もちろんです!」


 俺たちは外に出た。


 黄金の稲穂の畑は、朝日を浴びてまばゆく輝いている。


「この稲穂は、普通の稲とは違うの」


 ユリが説明を始めた。


「魔力を含んでいて、これで造った酒は特別な力を持つ。アルの能力も、さらに引き出せるはずよ」


「すごい……」


 俺が感嘆すると、ドラが横から口を出した。


「わしらも、この稲穂を使って酒を造ってみたいと思っておったんじゃ」


「でも、ユリが許可してくれなかったんだぞい」


 グラが残念そうに言う。


「だって、あなたたちは飲むのが専門でしょう?」


 ユリがくすりと笑う。


「造るより飲む方が好きなんだから」


「ぐっ……それは否定できんのう」


 ドラが頭を掻いた。


「でも、アルは違う。彼は、酒を造ることにも情熱を持っている」


 ユリが俺を見て微笑む。


「だから、私も教えたいと思ったの」


「ありがとうございます、ユリさん」


 俺が頭を下げると、ユリは優しく頷いた。


「さあ、収穫を始めましょう。まずは、この鎌を使って——」


 ユリが丁寧に収穫の仕方を教えてくれる。


 稲穂を刈る角度、束ね方、運び方。


「ふむふむ……」


 俺が真剣にメモを取っていると、ルーナがくすくすと笑った。


「アル、本当に真面目ね」


「だって、大事なことだから」


「でも、その顔、すごく楽しそう」


 リリアも微笑んでいる。


「そりゃ楽しいさ。酒造りだもん」


 今思えば、異世界にこなかったらこんなことしてなかったんだろうなぁなんか不思議な感覚だ

 

 俺が物思いにふけっていると、近くにいたリーサがそれはそれは愛くるしい笑顔で


「アルさん、本当にお酒が好きなんですね」


 と声をかけてきた。俺もたまらず頬がゆるみながらも答える。


「ああ。飲むのも造るのも、両方好きだ」


 俺たちは協力して、稲穂を刈り始めた。


 ルーナとリリアは慣れない手つきで鎌を使っている。


「うーん、難しい……」


 ルーナが悪戦苦闘している。


「ルーナさん、こうするんですよ」


 リーサが優しく教えてあげる。


「あ、ありがとう、リーサさん!」


「リーサさんは、エルフの里で農作業をしたことがあるんですか?」


 リリアが尋ねると、リーサは頷いた。


「はい、少しだけ。里では、みんなで協力して作物を育てていました」


「へぇ、いいわね。王宮ではあまり農作業なんてしたことなかったから、新鮮だわ」


 ルーナが楽しそうに言う。


 一方、ドワーフたちは手慣れた様子で次々と稲穂を刈っていく。


「さすがドワーフ、力持ちだな」


 俺が感心すると、ドラが胸を張った。


「当たり前じゃ! わしらは鍛冶も農作業も得意なんじゃ!」


「まあ、一番得意なのは酒を飲むことだけどな」


 グラが笑う。


「それを言うなよ……」


 ダグが苦笑した。


 数時間かけて、俺たちは黄金の稲穂を刈り終えた。


「ふぅ……」


 俺が汗を拭うと、ユリが水を差し出してくれた。


「お疲れ様、アル。みんなも」


「ありがとうございます」


 水を飲むと、体が冷えて気持ちいい。


「次は、この稲穂を乾燥させるの」


 ユリが小屋の裏にある乾燥場を指差した。


「ここに吊るして、数日間乾燥させる。そうすることで、稲穂の魔力が安定するのよ」


「魔力が安定する……?」


「ええ。乾燥させることで、魔力が米粒に凝縮されるの。それが、特別な酒を造る鍵になるわ」


 ユリの説明に、俺は真剣に耳を傾けた。


「なるほど……」


「アル、メモ取りすぎて手が真っ黒よ」


 ルーナが俺の手を指差す。


「あ、本当だ……」


 俺が手を見ると、確かにインクで汚れていた。


「ふふっ、なんかアルらしいわね」


 リリアが笑う。


「さて、乾燥が終わるまでは少し時間がかかるわ。その間に、酒造りの基礎理論を教えましょう」


 ユリがそう言って、小屋の中へと案内してくれた。


 小屋の一室には、酒造りの道具が並んでいた。


 甕、樽、蒸し器、そして見慣れない器具たち。


「これが、酒を造るための道具よ」


 ユリが1つ1つ説明してくれる。


「まず、米を蒸す。そして、麹を作る。それから、発酵させて——」


「麹……?」


 俺が聞き慣れない言葉に首を傾げると、ユリは微笑んだ。


「麹はね、米に特別な菌を繁殖させたもの。これが、酒造りの要なの」


「菌……?」


「そう。この世界にも、麹菌に似た菌がいるわ。私はそれを何百年もかけて培養してきた」


 ユリがそう言って、小さな瓶を取り出した。


「これが、私の麹菌。これを使えば、本格的な日本酒が造れるのよ」


「すごい……」


 俺が瓶を覗き込むと、中には白い粉のようなものが入っていた。


「わしらも、この菌を分けてもらいたいんじゃが……」


 ドラが横から言う。


「ダメよ。これはアルにだけ伝える秘伝なんだから」


 ユリがきっぱりと断る。


「ちぇっ……」


 ドラが残念そうに肩を落とした。


「でも、ドラたちにも協力してもらうわ。力仕事は得意でしょう?」


「おお、それならお任せじゃ!」


 ドラが元気を取り戻した。


「さて、酒造りの基本は、米・水・麹の3つ」


 ユリが続ける。


「米は、黄金の稲穂から取れる特別な米。水は、この山から湧き出る清水。そして麹は、私が培養したもの」


「それを組み合わせると……」


「特別な日本酒が出来上がるわ」


 ユリが微笑む。


「ただし、発酵には時間がかかる。数週間から数ヶ月。気長に待つ必要があるの」


「そんなに……!」


 俺が驚くと、ルーナがくすくすと笑った。


「アル、待ちきれない顔してる」


「いや、でも……」


「大丈夫。その間に、他のお酒も造りましょう」


 ユリが言う。


「例えば、焼酎。これは蒸留酒だから、比較的早く出来上がるわ」


「焼酎……!」


 俺が目を輝かせると、ドラが身を乗り出した。


「焼酎じゃと!? わしらの国でも人気の酒じゃ!」


「そうなの。ドワーフの国では、焼酎が主流らしいわね」


 ユリがくすりと笑う。


「ああ! 強い酒が好きなんじゃ!」


 グラが胸を張る。


「でも、アルの造る焼酎なら、もっと美味いに違いないぞい!」


 ダグが期待に満ちた目で俺を見る。


「プレッシャーかけないでくれよ……」


 俺が苦笑すると、ユリが優しく肩を叩いた。


「大丈夫。私が教えるから」


 その日の午後、俺たちは焼酎造りの準備を始めた。


 まず、黄金の稲穂から取れた米を蒸す。


「この蒸し加減が大事なの」


 ユリが蒸し器を見守りながら言う。


「蒸しすぎても、蒸し足りなくてもダメ。ちょうどいい加減を見極めるのが、職人の腕の見せ所よ」


「難しそうだな……」


「最初は難しくても、慣れれば大丈夫」


 ユリが微笑む。


 蒸し上がった米は、ふっくらとして美味しそうだ。


「いい匂い……」


 リーサが目を輝かせる。


「これ、そのまま食べても美味しそうね」


 ルーナも同意する。


「食べたいけど、我慢だ。これは酒になるんだから」


 俺がそう言うと、リリアがくすくすと笑った。


「アル、我慢できるの?」


「できる……多分」


「多分って」


 みんなが笑う。


 次に、蒸した米を冷まし、麹菌を加える。


「これを、三日間寝かせるの。その間、温度と湿度を管理しなきゃいけない」


 ユリが説明する。


「温度管理か……」


「そう。高すぎても低すぎてもダメ。常に見守る必要があるわ」


「大変だな……」


「でも、それが酒造りの醍醐味よ」


 ユリが優しく微笑む。


「手間をかけた分、美味しいお酒ができるの」


 俺は頷いた。


 そうだよな。何事も、手間をかけなきゃいいものはできない。


「わしらも手伝うぞい!」


 ドラが張り切る。


「温度管理なら任せるんじゃ!」


 グラも胸を張る。


「ドワーフは火の扱いが得意だからな」


 ダグが自信満々に言う。


「それは頼もしいな。じゃあ、お願いします」


 俺が頭を下げると、三人は嬉しそうに頷いた。


 夕方、俺たちは一日の作業を終えた。


「今日は、ここまでね」


 ユリが言う。


「明日からは、麹の管理を始めるわ」


「分かりました」


 俺が答えると、ユリは優しく微笑んだ。


「アル、いい弟子になりそうね」


「ありがとうございます」


 俺が照れると、リリアとルーナが横から口を出した。


「アル、褒められると顔が赤くなるのね」


「可愛い」


「お前ら……」


 俺が抗議すると、二人はくすくすと笑った。


 その夜、俺たちはユリの小屋で夕食を食べた。


 テーブルには、ユリが作った料理が並んでいる。煮物、焼き魚、そして——


「これ、お酒……?」


 俺が小さな杯を見つけると、ユリは頷いた。


「ええ。前に造った日本酒よ。少しだけ、味見してみる?」


「いいんですか!?」


「ええ。でも、飲みすぎはダメよ」


 ユリが釘を刺す。


 俺は杯を手に取り、一口飲んだ。


「……うまい」


 米の甘み、ほのかな酸味、そしてすっきりとした後味。


「これが、黄金の稲穂で造った酒……」


「そう。どう? 普通の酒とは違うでしょう?」


「全然違います。もっと、深みがあるというか……」


 俺が感動していると、ドラが横から覗き込んできた。


「わしにも一杯!」


「ダメよ。これはアルの分」


 ユリがきっぱりと断る。


「ちぇっ……」


 ドラが残念そうに肩を落とした。


「でも、アルが造った酒なら、わしらにも飲ませてくれるじゃろう?」


 グラが期待に満ちた目で俺を見る。


「ああ、もちろん。完成したら、みんなで飲もう」


 俺がそう言うと、ドワーフ三人組は歓声を上げた。


「やった!」


「楽しみじゃのう!」


「早く完成しないかな!」


 その様子を見て、リリアとルーナも笑顔になった。


「みんな、本当にお酒が好きなのね」


「ドワーフも人間も、魔族もエルフも、みんな酒が好きなんじゃ」


 ドラが豪快に笑う。


「酒は、種族を超えて楽しめるもんだからのう」


 ダグがしみじみと言った。


「そうだな。酒があれば、みんな仲良くなれる」


 俺がそう言うと、ユリが優しく微笑んだ。


「それが、あなたの力ね、アル」


「俺の力……?」


「ええ。酒を通じて、人と人を繋ぐ力」


 ユリが真剣な目で俺を見る。


「それは、能力や魔法よりとても大切な力よ」


 俺は少し照れくさくなった。


「そんな大層なもんじゃないですよ」


「いいえ、大層なものよ」


 ユリがきっぱりと言う。


「この世界は、まだ種族間の対立が残っている。でも、あなたの造る酒があれば、きっとみんなが笑顔になれる」


「ユリさん……」


「だから、しっかり学んでね。酒造りの技術を」


「はい!」

 

 俺が力強く頷くと、みんなが拍手してくれた。


 食事を終えた後、俺は一人、外に出た。


 夜空には、2つの月が輝いている。


「いい夜だな……」


 俺が呟いていると、背後から足音が聞こえた。


「アル、一人で何してるの?」


 リリアだった。


「ああ、ちょっと考え事」


「考え事?」


「うん。これから、どんな酒を造ろうかって」


 俺が答えると、リリアはくすりと笑った。


「やっぱり、アルは酒のことばっかりね」


「だって、楽しいんだもん」


「そうね。アルが楽しそうだと、私も嬉しい」


 リリアがそう言って、俺の隣に座った。


「明日からも、頑張ろうね」


「ああ」


 二人で夜空を見上げる。


 遠くで、ふくろうの鳴き声が聞こえた。


「ホーホー」


 その鳴き声が、だんだん言葉として聞こえてきた。


『これだから童貞は』


「……は?」


 俺は思わず声を上げた。今、ふくろうが何か言ったような……?


「アル、どうしたの?」


 リリアが不思議そうに俺を見る。


「い、いや、何でもない……」


 もう一度、ふくろうの方を見る。


『まったく、鈍感なんだから』


 また聞こえた。確かに聞こえた。ふくろうの声が、言葉として。


「……うるせぇ!」


 俺は思わず空に向かって叫んだ。


「え、アル!?」


 リリアが驚いて俺を見る。


「あ、いや、その……」


 何だ、これ。まさか、さっきの酒で虫や動物と話せスキルが発動したのか?


『ホーホー、図星かよ』


 ふくろうの声がまた聞こえる。


「だから、うるせぇって!」


 俺が再び叫ぶと、リリアが困惑した表情で俺の肩を掴んだ。


「アル、大丈夫? どこか痛いの?」


「い、いや……なんでもない。ちょっと、変なスキルが発動しちゃっただけで……」


「変なスキル?」


「……虫や動物の声が聞こえるようになったみたいなんだ」


 俺がそう言うと、リリアは目を丸くした。


「え、本当に?」


「本当に。あのふくろう、今めっちゃ俺のこと馬鹿にしてる」


『ホーホー、事実を言っただけだぞ』


「だから、うるせぇ!」


 遠くでふくろうが飛び去っていく。


 リリアは呆れたような、でも少し笑っているような表情で俺を見た。


「……アル、相変わらず変なタイミングでスキルが発動するのね」


「俺だって、好きでこんなタイミングで……」


『ホーホー、童貞〜』


 遠くから最後の一撃が飛んでくる。


「だーかーらー、うるせぇって言ってんだろ!!」


 俺の叫び声が、夜の山に響き渡った。


 明日は麹の温度管理。失敗は許されない。


『ホーホー、童貞〜童貞~』

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